「形」をまねて本質を踏みはずす
柔道には「形」(かた)という練習があります。技をかける人と受ける人を決めて,あらかじめ決められたシナリオにしたがって戦いを演じるような練習です。この形を反復練習することを通して,技の本質を身につけていくものです。
武道だけではなく,たとえば茶の湯にも決められた形式がありますよね。柔道にしても茶の湯にしても,「形」を大切にすると言うのは日本人の昔からの文化ですね。
ところが,最近気になるのは,「形」だけを真似て本質を踏みはずす人の多さです。もう一昔前の話になりますが,TEACCHに基づく指導が養護学校に広がり始めた頃,自閉症の生徒の周りに必ずついたてを立ててしまうような指導がありました。ついたてを立てることで集中できる生徒も確かにいて,TEACCHでも使う場合もあるのですが,ついたてを必要としない自閉症の生徒もたくさんいます。なのに,自閉症と見れば問答無用でついたてを持ってくる…。ちょっと見た感じは先進的な指導に見えるのですが,「一人一人をよく観察し,その特性と状況に合った支援をする」という,TEACCHから学ぶべき本質をつかめていません。「自閉症についたて」は,一時期TEACCHに対する誤解の代名詞ともなりました。
こういう,それらしく見えるけど本質を踏みはずしている事例というのは,他にもたくさんあるんじゃないでしょうかねー。ダイバーシティ(多様性)と言って,外国人や女性の従業員を増やすだけで終わってしまう日本企業。個人情報保護と言って,病室の名札を取り,外来で患者の名前を呼ばない病院。同じく,数人の顧客の情報を入れたUSBメモリを紛失しただけでニュースになる日本社会。法令遵守と言って,次々と悪者を探してはやっつけるマスメディア。教員の資質向上と言って,教員免許更新制を持ち出してくる教育再生会議とやら。
私には,すべて本質を踏みはずしているように見えます。もう一歩踏み込んで「どうしてそうするのか」「なにが本質か」と考えたらどうでしょう。柔道の形だって,反復練習をするなかで本質が身につくのですから。朝から晩まで仕事ばかりで,立ち止まって考える時間も気力もない生活をしているから,こんな恥ずかしいことになるんじゃないですか。
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顧客満足度と従業員満足度はどちらが大事?
会社にとって,お客さんの満足度と従業員の満足度は,どちらが大事なのでしょう。学校で言い換えると,生徒や保護者の満足度と教員の満足度は,どちらが大事なのでしょう。
ちょっとイジワルな聞き方かもしれません。ちょっと落ち着いて考えれば,どちらも大事だという結論に達するのではないでしょうか。自分のしている仕事に満足していない人が,お客さんの心を満たすことができるとは思えませんからね。
先日紹介した『リッツ・カールトンで学んだ仕事でいちばん大事なこと』には,こう書いてあります。
考えてみてください。なぜリッツ・カールトンのスタッフは常に笑顔でいられるのでしょうか。
それはリッツ・カールトンが顧客満足同様に,従業員満足にも徹底的にこだわっているからです。
リッツ・カールトンの従業員教育の基本的な考え方は,お客様をこころからおもてなしし,満足していただくためには,従業員自身が心から満足していなければならない,ということです。
リッツ・カールトンは,この考え方を具体的に推し進めて,高い顧客満足度を獲得しています。
さて,皆さんの職場ではいかがでしょう。従業員が満足できるような環境になっているでしょうか。
また,皆さんの身近な学校では,教員の満足度は高いですか。教員が自分の仕事に満足し,誇りを持てる学校では,教師は持てる能力を100%発揮できるでしょう。それは生徒の学習によい影響を与えるはずです。逆に教員の満足度が低いとしたら,生徒の学習には悪い影響が及びます。何が問題なのか検討して,すぐに改善しなければならないでしょう。
でもそういう発想は,今の教育現場にはないですね。「教育改革」と称してなされる学校現場への注文は,どれもこれも教員満足度を低める方向性ではないでしょうか?
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学校マニフェスト!?
昨日,市民図書館から借りてきた『「異脳」流出—独創性を殺す日本というシステム』という本を読んで,日本はどうして人の能力を引き出すのがこうもヘタなのかと憤然としていたところです(詳しくはブログへ)。そこに持ってきて,このニュース。
- 「縄跳び30回・英検合格60%」公立小に広がる公約 こちら
記事によれば学校の「マニフェスト」をつくる動きが広がっているとのこと。中身はこんなかんじです。
- 自治体の学力調査で正答率を95%に。
- 縄跳びで30回以上前跳びができる。
- 不登校,いじめをゼロにする。
こういう「目標」を学校がつくったときに何が起こるかというのは想像がつきますよね。学力調査の日に成績の悪い子を休ませたり(足立区で最近もありましたね),「欠席者ゼロ」という目標を掲げた学校で,発熱で休んでいる子をタクシーで登校させたり。そういう教育的ではない事態を引き起こすことが明らかなのに,まだ同じことをしようとする人たちがいる。しかも「学校が一生懸命になること自体は悪いと思わない」などとコメントしている人までいる。
こういうことを行う人たちは,次の2点を完全にはき違えていると思います。
- 学習の目標設定は誰がするのか?
- 一生懸命になるべきは学校なのか児童生徒なのか?
昨日読んだ本の話を少ししましょう。高血圧の原因となる生理活性物質エンドセリンの発見などで世界的に注目されている柳沢教授(テキサス大学)は,オーストラリアの病院で臨床実習していたときに,ナースステーションに貼ってあるこんな文章に出会ったそうです。
医療を施す者は,決して患者の領域に踏み込んではならない。最終判断は患者に任せよ。
末期医療の告知の話なのですが,柳沢教授は臨床に進むか基礎医学に進むか悩んでいるときにこの言葉に出会い,臨床をすっぱりあきらめました。日本では医師としてこのように訓練してくれるシステムがないからです。つまり,日本の医療は患者の領域にずかずかと踏み込んでいるのです。
それを読んで教育も同じだと思いました。「教育を施す者は,決して学ぶ者の領域に踏み込んではならない」のです。でも,実際はずかずかと踏み込んでいる。「学校マニフェスト」はその象徴じゃないでしょうか。
品川女子学院・漆 紫穂子校長のリーダーシップ
NBonlineに連載されている品川女子学院の校長先生の記事を紹介します。いつか紹介したいと思っていたものですが,11月6日付けの最新号にリッツ・カールトンの「クレドカード」と「デイリーラインナップ」の話が出ていたので,これを期に。
品川女子学院・漆 紫穂子校長の
やる気を高め、人を育てる(秘)メソッド こちら
品川女子学院は大正時代からの歴史を持つ伝統校ですが,かつては生徒減少に悩まされた時期もあったそうです。ところが,漆校長の下,わずか7年間で出願者が数十倍になり,偏差値も上昇して都内有数の人気校になりました。
学校再生のキーワードは,「内発的動機づけ」「目標の共有」「6割GO(まずやってみる)」「生徒自身が選び,体験する」等々。MAP(みやぎアドベンチャープログラム)の価値観と見事なまでにシンクロしています。授業時間増とか教員免許更新制などといったトンチンカンな「ウソ改革」ではなく,ホンモノの教育改革がここにあると感じています。
毎週,新しい記事が出るのをとても楽しみにしているところですが,最新号ではなんとリッツ・カールトンの「クレドカード」と「デイリーラインナップ」の話が出てきました。リッツ・カールトンの話は,この「Sphinxのひとこと」でつい先日(10月5日)紹介したばかりです。
皆で作った目標も、次第に忘れてしまう。
日々の体験で、価値観を共有することが大事です こちら
これには本当に驚きましたが,裏を返せば,今の学校に足りないものを追い求めると,同じようなところに行き着くということだと思いました。MAPが目指しているものを学校レベルで具現化し,具体的に成果を上げている学校があるというのは,実に気持ちよく,かつ励みになります。
鳴子峡の紅葉 ― 早起きは三文の得
見頃を迎えた鳴子峡の紅葉を見てきました。早朝6時半出発。「早起きは三文の得」を実感したドライブとなりました。(写真はクリックで拡大します)
ETCの通勤割引で古川まで高速を使い,鳴子峡の駐車場に着いたのが8時過ぎ。渋滞はなく駐車場も待たずに入れました。鳴子峡レストハウスの見晴台で記念写真を撮り,新しくできた大深沢遊歩道をゆっくり散策して車に戻ったのが9時半。鳴子温泉に移動して早稲田桟敷湯に入り,一之坂餅屋で栗だんごを買い,あ・ら・伊達な道の駅でラーメンを食べて12時すぎ。午前中で行楽の一切が終了しました。遊歩道も温泉も,人だらけということもなく快適でした。
昼過ぎに国道47号線を古川方面に帰る際,鳴子峡に向かう反対車線は見事な渋滞になっていました。この人たちは,行きも帰りも渋滞で,鳴子峡も人混みなんでしょうね。昨日は本当に「早起きは三文の得」を実感できました。
ちなみに,鳴子峡の遊歩道は昨年秋に落石事故があり,現在も上流側半分は通行止めになっています。仙台・宮城DCに合わせて10月1日に下流側(鳴子側入口〜花渕山側入口)が開通したほか,大深沢の廃道を整備して新しい遊歩道もできました。また,車で行く場合,鳴子峡レストハウスの駐車場にとめると便利ですが,こちらは紅葉期間中,駐車料金がかかります。その一つ手前の駐車場(大深沢遊歩道入口)に駐めると無料で,レストハウスまで歩いても10分もかかりません。レストハウスの駐車場は8時半からですが,手前の無料駐車場は8時過ぎにはほぼ満車でした。
修学旅行のしおりで視覚支援
久しぶりの更新です。先月末に修学旅行があり,10月後半はその準備で忙しい毎日でした。今は大きな行事を終えた解放感にひたっているところですが,3000枚のデジカメ画像と6時間分のビデオ映像の処理が待っています。この3連休はそれで終わってしまいそう。
道頓堀/USJ:マジカル・オズ・ゴーラウンド/ジュラシック・パーク/ハロウィン・パレード
大阪城/海遊館:カマイルカ/イトマキエイ/ジンベエザメ
海遊館:「太平洋」水槽/アザラシ/夕暮れのフライト(すべてクリックで拡大)
修学旅行の行き先は大阪でした。道頓堀,USJ,海遊館,大阪城という定番メニュー。道頓堀ではお好み焼きやたこ焼きを食べて,観光船にも乗りました。天気もまずまずで,1日目の道頓堀で小雨に降られた以外は,きれいな青空が広がり,USJも大阪城も,気持ちよく活動できました。
ところで,養護学校(特別支援学校)の修学旅行では,引率教員は生徒と同じ部屋に泊まります。夜に生徒が体調を崩したり,一人でお出かけして行方不明になったりしては困るからです。同室の生徒が起きている間はずっと付き合って起きていなければいけません。修学旅行で気持ちが高ぶったりすると普段以上に寝つけない生徒も多く,運が悪いとほとんど眠れないこともあります。
今回私は睡眠が不安定になりやすい自閉症の生徒と同室で,ほとんど眠れないだろうと予測して臨んだのですが,実際ふたを開けてみれば,しおりに書いてある時間通りに10時でピタッと寝てくれました。その理由は定かではありませんが,案外しおりの日程表が分かりやすかったのかもと思っています。
養護学校では,どの学校もそれぞれ工夫して校外学習の日程表をつくっていると思いますが,今回うちの高等部では「時間・場所・すること」の3つの欄に分けて,それぞれ文字と画像をつけました。さらにひらがな版と漢字版の2種類を用意して,生徒の実態に合わせて適切な方をしおりに綴じ込みました。
私と同室の自閉症の生徒は,部屋にいるときもしおりを手放すことなく,部屋の時計としおりを何度も見比べていました。そして,食事の時間になれば「ごはん!」,お風呂の時間になれば「おふろ!」と催促するのです。しおりの日程表をしっかり使いこなして,見通しをもって行動していたんですね。安眠できたのは,そうやって見通しをもてたこととも関係があるのかなと思うのです。
ちなみに「すること」欄の画像は,Mayer Johnson社のボードメーカーに収録された画像です。時計画像は「ぽっしゅん」bo-yaのページからいただきました。これら2つの画像集がなければ,このような日程表をつくろうとは思わなかったでしょう。ありがとう!