地盤災害の現場に立つ
山武温泉さくらの湯の大場社長にきく
荒砥沢ダムの下流側に,山武温泉さくらの湯という温泉宿がある。その温泉を経営している大場武雄さんは,地震直後にダムを見に行って,荒砥沢ダム上流域の大崩落を目撃した。大場社長と従業員の方に,そのときの様子をうかがった。
<大場社長の話>
お客さんが3名来たんですよ。それで600円をもらおうとしたときにバーンと来た。地震というよりね,ぶち上がったんですよ,みな。ダーンと1回上がって落ちただけ。あんな地震は経験がなかった。
地震の後,すぐに車でダムの堤体(ていたい)に上がったんですよ。表側は大丈夫だったので裏にまわった。そうしたら噴火のような光景が見えたんです。噴火してお湯かなんかが吹き上がったと思ったんです。ボーッと上がってグルグルまわっているような感じだった。滝から水が落ちるような感じで崖が崩れていくのが見えて,そして中から雲のような物が上がってきてグルグルまわっていた。一度に落ちたのではなく,3回ぐらいに分けて崩れたと思う。手前の方ではヒノキや杉がまっすぐ立ったままダムの中に沈むんですよ。
怖いと言うよりあっけにとられてすごいなという気持ちで見てたんです。そのまましばらくしたら波がやってきた。ブイのところで波が押しもどされていたが,3mぐらいの波が来て,バシャーンとぶつかった音がすごかった。
<従業員の方のお話>
私はそのときお風呂にいた。一瞬地震だとは思わなかったんです。ドーンと山が爆発したような感じで,そしてお風呂のお湯がビューンと上がって,湯船にお湯がなくなって,天井を見上げたらグラグラっと動いたんですよ。地鳴りはなかったです。花火のようにドーンときた。
大場社長も従業員の方も,グラグラというより一度だけドーンと突き上げられたと言っている。
その揺れ方を裏付けるような事実がある。地震のあと,男湯の脱衣場では脱衣カゴが落ちて散乱していたのに,女湯の脱衣カゴはひとつも落ちていなかったそうだ。女湯と男湯はちょうど向かい合うような位置関係にある。地震の揺れは,女湯の脱衣カゴを壁に押しつけるように,男湯の脱衣カゴを壁と反対方向に押し出すように揺れたということが推測される。
地盤全体が斜め上に急激に動いたことで,湯船のお湯がぜんぶ外に出てしまった。震源地の揺れ方は,日頃体験する地震の揺れとは,かなり違ったもののようである。
お話を話をうかがった後,さっそくそのお風呂に入った。赤茶色のお湯で掛け流しになっている。汗を流してさっぱりした後,建物のまわりを散策してチョウザメとイワナのいけすを見学した。
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