■ 研 修 会: | 第15回全国都道府県PTA連合会代表者連絡協議会 |
■ 日 時: | 2014年11月30日(日) 9:20〜11:50 |
■ 内 容: | 防災教育の日常化 |
■ 講 師: | 山口裕之(宮城県立光明支援学校・教諭) |
■【5】から続く
学校から目を転じて,家庭における日常防災について考えてみます。
さあ,この質問はどうでしょう。ちょっと聞いてみましょう,手を挙げて答えてください。
はい,ありがとうございます。地震が起こりやすい時間帯というのは特にありませんので,どちらか長い時間を過ごしている方で地震にあう確率が高くなります。学校と家を比べると家の方が圧倒的に長い時間を過ごしているので,家庭で地震に遭う確率の方がずっと高いのです。
こちらの動画をご覧ください。同じ造りの古い住宅を実験室に持ち込んで,左側だけに耐震補強をしました。これを阪神大震災の揺れで揺らしてみます。
ご覧の通り。耐震補強をしていない家は,あっという間に1階がつぶれて崩壊してしまいました。地震が起こったとき一番先にやることは,揺れている数十秒間を生き抜くことです。家が倒れてしまうと,生き残る可能性がかなり低くなってしまいます。
昭和56年6月で耐震基準が大きく変わりました。昭和53年に起こった宮城県沖地震がきっかけで見直されたものです。昭和56年というと34年前です。けっこう前ですが,先ほどの宿題の中で家の建築年も聞いてみたところ,昭和56年より前の住宅に住んでいる生徒がけっこういることが分かりました。古い家でも耐震診断・耐震補強で倒れない家にすることができます。
被災生活のような非日常で,一番安心できるのは「日常」を感じられるときです。食事で言えば,特殊な非常食より食べ慣れたものを食べたほうがずっと心が落ち着きます。普段食べているものを多めに買って,古いものから順に食べていく方法を,ローリングストックとかランニングストックといいます。お米や缶詰,冷凍食品などこのパターンでやってみてはいかがでしょうか。
ローリングストックは食料だけじゃありません。常用薬や灯油も,トイレットペーパーもこれでいけます。靴のローリングストックというのは,新しいのを買ったときに古いものをすぐに捨てないで,それを寝室のベッドのそばに置くということです。夜に大地震があってガラスが飛散した,真っ暗だ…というときも,その靴を履いて逃げることができます。
キャンプは災害時の練習になります。家族でキャンプに行けば,子どももキャンプ道具の使い方を覚えます。
備蓄は3つに分けて考えます。(1)家庭での備蓄,(2)職場や学校での備蓄,(3)いつも身につけて持ち歩く備蓄,の3つです。
私が身につけている防災グッズは,ラジオ,懐中電灯,鏡,笛,歯ブラシ,薬,iPhoneの予備バッテリ,予備電池などですが,これらは学校で仕事してるあいだも持ち歩いています。寝るときは枕元に置いてあります。
「知識はすべての前提」だと私は思っています。
今年8月にあった広島県の豪雨災害。ある崖下の家では,子どもを崖側の1階の部屋で寝せていたために,崖崩れの土砂に埋もれて亡くなってしまいました。崖崩れの土砂は1階に入ってくるのですから,崖下に住んでいるなら,子どもの寝室は2階の,崖から遠い部屋がいいわけです。2階に寝せていれば,地震で万が一家が倒壊しても助かる可能性が高まります。先ほどの映像でもつぶれたのは1階でしたね。ですから,土砂災害が起こりそうなときだけじゃなく,「いつも」(=日常)毎日2階に寝せておくことで命を守ることができます。
土砂災害からの身の守り方を知っているか知らないかで,運命が分かれてしまう。まずは知識として持っていること,そしてそれを日常生活で実践すること。これが日常防災です。
家を建てたり住む場所を決めるときに,災害のことを考えて決めるという人はあまりいないかもしれません。が,実はそこからもう防災は始まっています。
昨年の伊豆大島の土砂災害では,残念ながら避難勧告がでませんでした。避難勧告を待って死んでしまっては,文句も言えないですね。災害が起こりそうなときは,行政からの指示を待つのではなく,自分から情報を取りに行くことが大切です。幸い今はインターネットでいろいろな情報を得ることができます。
災害時に使えるスマートフォンのアプリを紹介しましょう。
Yahoo! 防災速報 | 地震の速報,豪雨予報,噴火警報などいろいろな災害に対応。プッシュ通知で教えてくれる。 |
---|---|
X-MP雨情報 | X-MP(=国土交通省が運用しているレーダー)を使った雨量情報。 |
ゆれくるコール | 緊急地震速報アプリ(iOS用)。 |
Signalnow | 緊急地震速報アプリ(Android用)。 |
高解像度降水ナウキャストとNHK河川情報はアプリではなくホームページです。が,それをアプリと同じようにホーム画面に置いて,ワンタップでそのページを表示させることができます。iOSでのやり方はこちを参照してください。Androidはこちらをどうぞ。
こういうアプリを日常使って情報を得ておくことで,いざという時も自分で早めに判断できるようになります。今回は紹介しませんでしたが,雷や竜巻の情報も気象庁のホームページで公開されていますので,それもすぐに見られるようにしておくと便利です(気象庁のレーダーナウキャストの「雷」「竜巻発生確度」のタブをクリックすると表示されます)。
感震ブレーカーというのをご存じでしょうか。大きな地震の揺れを感知すると自動的にブレーカーが落ちるというものです。大きな地震で停電した後,電気が復旧したときに火事になることがあります。通電火災といいます。なので,地震の後逃げるときはブレーカーを切らなければいけないのですが,慌てていると忘れてしまうことがあります。感震ブレーカーに替えておけば,自動で切れてくれるので安心です。私はかつて家族旅行中に自宅のある場所で大きな地震が起こった経験があります。家がどうなってるか心配でしたが,こういうのがついていて自動で切れてくれれば安心ですね。
分電盤を取り替えるのは結構お金がかかるのですが,実は2000円で今の分電盤を感震ブレーカーにすることができます。右の写真がそれです。赤いおもりが落ちたら,ブレーカーのつまみが重みで引っ張られて落ちる。ローテクです。これ,我が家でつけているものです。「スイッチ断ボール2」という名前でアマゾンで買えます。
ついでに私の仕事部屋も紹介しましょう。こういうつっぱり棒も,一度取り付けてしまえば安心です。この付け方はちょっと甘いのですが,これで東日本大震災の揺れでも本はほとんど落ちませんでした。
「ちょこっとねっと」という小冊子があります。東日本大震災を体験した障害児の保護者が集まって作った冊子です。家族向けと,支援者向けの2つがあります。家族向けの表紙には「ちょこっとした受援力があなたと家族を守ります」と書いてある,支援者向けの表紙は「ちょこっとした手助けが必要でした」と書いてある。
災害が起こってしまったとき,障害児者やその家族は,自分たちだけでは何ともしがたいところがあります。といって,周囲の支援をただ待っているだけでもうまくいかない。受援力…つまり援助を受ける力と,支援力…援助をする力,これが両方から歩み寄って初めていい形になっていくのだと思います。
東日本大震災では,障害児を抱えた家族はとても大変な思いをしました。そんなとき,一番の支えになったのが近所の人のちょっとした支援だったと言います。
近所の人に自分たちの存在を知ってもらう,ごく当たり前の近所づきあいでいいのです。道で会ったらあいさつする,町内会の行事にこどもと一緒に参加する,そういったことです。居住地校交流をしている場合は,交流している地域の学校から,地域で行われる防災訓練の情報をもらって,参加してみることもおすすめです。
それに加えて,もっと深く知ってもらうためには,ヘルプカードやサポートブックを作ってみてはいかがでしょうか。これは緊急時サポートブックといって,災害時とか迷子になったときとかに使うためのサポートブックです。震災を体験して,やはりこういうのが必要だなと思って作ってみたものです。私のブログで配布しています。全国いろんなところで使っていただいているようです。もしよろしければ使ってください。
また,全知P連のホームページにはこういうものもあります。共助のところを抜き出してみました。日常生活の中でこういう準備をしておくと安心ですね。
日常の当たり前の生活の中に,防災につながるものがたくさんあると感じていただけたでしょうか。