■ 研 修 会: | 第15回全国都道府県PTA連合会代表者連絡協議会 |
■ 日 時: | 2014年11月30日(日) 9:20〜11:50 |
■ 内 容: | 防災教育の日常化 |
■ 講 師: | 山口裕之(宮城県立光明支援学校・教諭) |
■【4】から続く
先ほど述べたように,学校安全計画を具体的な指導場面と結びつけて作ったことで,本校の防災教育は大きく動き出しました。
生活単元学習の場合,各学年に担当者がいて,年度初めに1年間の授業の一覧表を作ります。学校安全計画に「生活単元学習でこういう防災教育をする」と書いてあると,それも拾い上げて表の中に入れてくれます。
次に,授業担当者が年度初めに集まってその一覧表を見ながら役割分担をします。この単元は私がやる,こっちは私が,みたいにそれぞれの単元の主担当(T1)を決めていきます。これが決まれば,あとは安心です。
6月の地震の単元の担当になった先生は,時期が近づくと防災主任のところにやってきて「今度地震の授業やるんだけど,なんかいいネタない?」と聞いてくれるんです。こんな感じで,いろんな教室で防災授業が行われるようになりました。
学校安全計画というのは,ちゃんと使えばこのようにとても威力があるものですが,ただの飾り物になってしまわないためのちょっとしたコツがあります。というのは,学校には「なんとか指導計画」「なんとか年間計画」みたいなのがたくさんあるので,意識しないと見る機会がなかなかないという事情があります。
そこで本校では,職員会議の中で先生方に毎回学校安全計画を開いてもらって,次の月にどのような防災授業を行うか確認するようにしています。それに加えて,各学部の会議というのがあって,そこでは学部の防災担当者から同じことを再度伝えるようにしています。
防災主任一人が言うのではなく,学校内のいろんなところから同じことを伝えることによって,学校全体で防災教育に取り組んでいくという雰囲気になるように気を配っています。
そして,この学校安全計画に基づいて授業が行われていきます。大きく2つの系統があって,ひとつは普段の授業の中で行われる「防災教育に見えない防災教育」,もう一つはいかにもな防災教育です。氷山モデルで言えば,(上)が海面より下の部分,(下)が海面より上の部分にあたります。
普段の授業の中では,このような(スライド参照)部分が特に防災と関連が深いと考えています。歩行・移動については,一つの新聞記事を紹介しましょう。
東松島市に住む石森さんという青年の震災体験です。彼は脳性麻痺のために普段は車椅子を使っています。だけどゆっくりなら自分で歩くこともできます。震災の時,彼は自宅にいました。津波が来て,母が「2階に逃げて!」と叫びます。階段をなんとか自力ではい上がった直後,1階は津波で水没しました。それまで何年も階段は使っていなかったそうです。車いすだけの生活だったら助からなかっただろうとおかあさんはおっしゃっています。
石森さんとは,彼が高校生の頃に毎年会う機会がありました。自然の家で行わた青少年赤十字の研修に毎年参加してくれていたのです。自然の家には階段がたくさんありました。バリアフリーじゃなくバリアフルな生活です。その中で彼は周囲に少し手伝ってもらうこともあったけれども,松葉杖を使ってできるだけ自力で移動していました。自分の体力,移動能力を高めるということは,災害時の命に直結する問題です。これこそ本当の「生きるちから」,彼にとっては命を守る防災教育でもありました。
普段の授業の中での防災教育には,例えばこのようなものもあります。
これはVoice4uというアプリを使った意思表示の学習です。Voice4uは主に自閉症の人が自発的に話ができるように作られたアプリです。アプリの中にいろいろなアイコンと音声が入っていて,タッチすると声が出ます。または,そのまま相手に見せて意思表示します。スライドにあるものは卒業した生徒の例ですが,こんなかんじで学校の中で会話を自分でできるようにと指導していました。ちょっと防災用のページも試作してみました。
昨年これを使っていた生徒には重度の知的障害がありましたが,すぐに使い方を覚えました。だんだん使いこなせるようになると教えていない言葉も使うようになって,筆入れが見つからないときに「えんぴつ」というカードを見せてくれたりして,なんとか工夫して言葉を選んで伝えてくれていました。
私とおかあさんの話が長びいたときには「あきました」と言われました。いつもわきでニコニコと話を聴いているように見えたので,まさか飽きていたとは!! と驚きましたが,意思表示のスキルを育てることの大切さを再認識させられました。私はこの指導を自立活動として行っていますが,こういう意思表示の学習も防災学習です。
特別支援学校でどのような防災教育をするべきかということについて,震災後に出された有識者会議の報告書にはこう書いてあります。
この「必要な時に援助を求める」力を,すべての子どもたちに育んでいかなければと思います。しゃべらない生徒だったら,どうやって意思表示させるか,考えていかなければいけないということです。
感情認知や感情コントロールの学習も防災教育です。被災生活の中では様々な感情が入り乱れます。私の場合は,コミック会話や社会性についての短い読み物を使ったり,気持ちの上がり下がりを温度計にたとえる指導法(温怒計)を使って感情についての指導をしています。
また,自尊感情や自己効力感を高めていくことは,辛い出来事が起こったときに,それを乗り越えていく力につながります。授業の中の小さい達成感の積み重ねとか,人の役に立つ体験が,そのような力につながっていきます。
要するに,「いつもの当たり前の授業をしっかりやっていくこと」が,そのまま防災につながっていくのだと考えています。その中で,防災の視点から捉え直すことで,生徒への与え方が変わったりするということは当然出てきます。
そしてもう一つがこちら(下の方),防災をテーマにした防災教育らしい防災教育です。
黄色い字で小さく書きましたが,こちらは高等部中心です。学部ごとの事情をお話すると,小学部の児童に防災を言って聞かせてもやはり理解はしてもらえません。なので小学部は上の方,普段の授業の中で「生きる力」を高めていくことが,防災につながると思ってやってます。小学部の学校安全計画にもそう書いています。高等部では,言葉での理解力が増してくるので,それに上乗せして防災を授業でもやっていきます。
高等部の授業では,生活単元学習,日常生活の指導(朝の会・帰りの会),特別活動で防災を扱います。
単元としては3つ,6月と3月に地震,11月に火災です。生活単元学習で防災を取り上げる際,私の中で意識しているのは家庭との連携です。6月に安全な家具の配置の学習をしたときは,まとめとして「自宅の安全チェックをしよう」という宿題を出しました。授業の中で住宅用火災報知器の設置義務のことを教えたのでそれもチェック項目にもしてみたら,予想外に火災報知器未設置の家庭が多かったんです。そこで,プリントに書いたコメントでも設置をおすすめして,この生徒の場合自分のクラスの生徒だったので,家庭訪問の時もつけるように再度おすすめしました。そうしたらちゃんと設置していただくことができました。子どもたちへの授業を通して家庭の防災力を高めたいと思っているので,これは一つの成功事例だと思いました。
日常生活の指導では,タイミングを見計らって指導する内容が中心です。例えば夏の暑い日に雪の授業をしても分かってもらえない,雷が鳴ってないときに雷の指導をしてもピンとこない。台風や雷などの気象災害,防災の日などの記念日,そういったタイミングが大事になる内容については,朝の会や帰りの会をつかって各クラスで指導しています。
その際,ただ指導してくださいと言っても,何を言えばいいのかなかなか分からないので,防災主任から,指導マニュアルを当日の朝の打ち合わせで配布します(配付資料を参照)。クラス担任はそれを持って教室に赴きます。
特別活動で行っているのは,要するに避難訓練です。ここは各学部共通です。今年の避難訓練では初めて煙体験を実施しましたが,意外にみんな怖がらずに体験できてよかったと思います。
防災ショート訓練というのは,地震が来て安全な場所に隠れるまでの訓練で,毎月一回いろんな時間帯でいろんな場所でやっています。うちの学校の食堂は2階までの吹き抜けになっていて天井がとても高いのですが,東日本大震災とその余震で天井板が2回落下しています(2回とも生徒がいなくて助かりました)。あるとき,給食中に緊急地震速報が鳴って比較的大きな余震がありました。私はその時出張でいなかったので,翌日出勤してどうだったのか聞いてみたんです。そうしたら「生徒はみんなまったく動じないでそのまま食べ続けていたよ」と言うんです。それを聞いたときの私の残念な気持ちを想像してください(苦笑)。その時思ったのは,食堂で地震が起こったらどうするかは,食堂で練習してないと分からないんだということです。これは生徒も教員もです。
なので,食堂でできるだけ早く訓練したいと思っていたのですが,給食中に避難訓練をするのはある意味冒険です。食べることを途中で止めなければいけないので,みんな怒り出すんじゃないかと…。でもやりました。その結果,ほとんどの生徒がとても上手に隠れることができました!
初めて食堂での訓練をした年は,1年間何度もいろんな場所で訓練を重ねて,年度の一番最後に満を持して食堂でやりました。1年前にまったく動じないで給食を食べ続けた生徒たちが見事に隠れる様子は,ちょとした感動でした。
慣れていくと,生徒たちは自分から隠れられるようになっていきます。あるとき,係の先生が訓練の時間を間違って早めに鳴らしてしまったときがありました。教師たちが「あ,間違ったね」と余裕をかましている隙に,生徒たちはビューンと机の下に隠れていました。また,朝の会の最中に小さな余震が来たときがありました。この時も,クラス担任が「はい,地震!」と言っただけで,ザザーッと机の下に隠れました。ショート訓練を何回も繰り返して練習することで,隠れ方が素早く上手になるし,地震の時はこうすればいいんだということを体で覚えて見通しを持てるようになるんですね。これはなかなかいい訓練だと思っています。
うちの学校ではこんな感じで,学校安全計画に基づいて防災の授業を行っています。