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 防災教育の日常化(3)

■ 研 修 会:第3回東金地域防災教育ネットワーク会議
■ 日   時:2013年 8月22日(木) 15:00〜17:00
■ 内   容:防災教育の日常化
■ 講   師:山口裕之(宮城県立光明支援学校・教諭)

緊急時にできることは日常していることだけ

日常化=習慣化

私自身が3・11のときに心理的な罠にはまってしまったことは話しました。災害直後はボーッとして,頭が正常に働きません。思考力ゼロです。

そのときできることは,考えずにやれることだけ。じゃあ,考えなくてもできたことって何だろうと振り返ると,それは例えば,地震の揺れに対する初期対応でした。これは子どもたちもそうだったようで,文科省の調査には,揺れたらすぐに机などの下に隠れた子どもたちが多かったと書いてあります。避難訓練の成果が出たわけですね。

思考力は0でも,繰り返しやって体が覚えていることは,できる!

一方,緊急時に突然やれと言われても,やってなかったことはできない。

そこで,防災の一つのキーワードとして「日常」という言葉が浮かんできます。災害への備えを,日常化していく必要があるのではないかということです。

日常化=習慣化

皆さんの日常生活を思い出してください。朝起きて,顔を洗って,着替えをして,ごはんをつくって食べて,歯みがきして,出勤…,だいたいそんなかんじでしょうか。そう考えると,毎日していることしかしていない,ということに気付きませんか?

日常というのは,習慣の羅列なんですね。なので,災害の備えを日常化するということは,その行動を習慣化するということです。習慣に関するこんな言葉があります。

Watch your thoughts, for they become words.
Watch your words, for they become actions.
Watch your actions, for they become habits.
Watch your habits, for they become character.
Watch your character, for it becomes your destiny.

毎日している行動が習慣となり,どんな習慣を身につけるかで,やがて運命が変わっていく。災害も,同じ事が言えるでしょう。

どうしたら習慣化できるか

では,行動をどうやって習慣化するのか。新しい行動を習慣にするのは難しいですよね。三日坊主という言葉もあります。でも,私はとてもよい方法をあみ出しました!

ものを無くさないコツは,いつも同じ場所にしまうこと。それと同じように,新しい行動を1日の習慣のどこかに挟み込むんです。いつも同じ時間に,同じ行動の後に入れてしまう。例えば,ランニング。早朝でも夕方でも夜でもいいと思ってやっていると,習慣化は難しい。仕事から帰宅したらすぐ走る,終わったらシャワーを浴びて夕食,と決めてしまうと,習慣になる可能性が高まります。私はここ数年,毎日はできませんが,このやり方で,細々とランニングを続けています。

「できた」を「している」に

考えてみたら,習慣にしておかないと,いざという時にできないというのは,特別支援の子どもたちは特にそうですね。何か新しいことを教えて「できた」と喜んでると,すぐにできなくなってしまう。特別支援教育では「できた」で指導を止めたらダメなんだと思います。「できた」で止めずに,何度もその指導を繰り返して,その子がいつも「している」になったときに,本当に新しいことが身に付いたんだと思います。

どうやって「できた」を「している」にするか,それは繰り返しです。日常化です。何度も学ぶ,そして,何度も使う。学んだ知識を何度も使うことで体に染みこませていくわけです。

この青黄赤の3つの丸は,信号機ではありません。栄養の三大要素を表しています。例えば,これを学習した後,「している」にもっていくにはどうしたらいいでしょう。繰り返し学び,繰り返し活用しながら,使える知識にしてあげるための手だてはなんでしょう。

1つの答は,食事日記を書かせるということです。毎日の自分の食事を3つに分けて記録することで,だんだんその意味が分かっていく,また,自分の食事の傾向も分かる。これもいいです。

私がやったのは,献立係に任命するということです。黒板に給食献立を書く欄がありますよね,あの欄を3つに分割しました。3つにはまらないのもあるので,正確に言うと4つに分割しました。普通は献立表に書いてある通りに書き写すわけですが,そうではなく,赤の食品が主体の料理は赤の欄に,黄色の料理は黄色の欄に書くのです。そして,栄養素の勉強をした人たちを献立係に任命しました。一人ずつ交代で書きます。分からないときは互いに相談します。やりかたは一つじゃないんです。でも,習慣化させるという意識と手だてが大切!

防災教育の日常化



特別支援の子どもたちは,体験を繰り返す中で学んでいく。となれば,彼らの防災教育は,なおさら,日常化,習慣化されている必要があります。防災教育が日常化するとはどういうことか。それは日々の授業の中に,防災教育が混じってるということです。ここではそれを「練り込まれている」と表現してみました。

もしかしたらイメージがわきにくいでしょうか。防災教育の枠を広げて考えましょうということでもあります。防災教育は,避難訓練や防災マップづくりだけじゃなくて,「生きる力」すべてが防災教育。そう考えるということです。

生きる力に関連して防災教育を一本の木にたとえると,健康体力というのは,根の部分にあたります。豊かな人間性は幹の部分です。確かな学力というのは,例えば防災の知識やスキル,いざという時の判断力や意思決定,情報リテラシーなどですが,これらは根と幹に支えられて,葉っぱとして生い茂るというイメージです。今まではこの「葉っぱ」だけに目が行っていたのではないでしょうか。

防災教育をこのように広くとらえると,日々の授業に練り込んでいくというイメージがわきませんか? 防災に関連した「生きる力」を,ある場面では知識やスキルとして,別な場面では人間づくりや体力づくりの形で,いろんな教科やいろんな指導場面で育んでいくのです。

豊かな人間性,健康体力は,今までも学校教育のいろんな場面で指導してきていますよね。そこは今まで通りです。ただし,今まで防災と思っていなかったことを防災教育ととらえ直してみると,教えかたや内容が変わったりすることがあります。iPod touch の意思表示の学習もそうです。私はこれを自立活動と思って指導しています。天気予報の学習も,天気だけじゃなく,警報と災害を結びつけて教えたくなってきますよね。天気は,私は日常生活の指導の中でやっていますが,生活単元学習でもできるでしょうか。そういうふうに,防災の学習をいろんな授業に割り振って,今まではもしかしたら教えていなかったかもしれない,災害の知識もしっかり伝えていくということです。

<資料2>をご覧ください。昨年の10月に出された「みやぎ学校安全基本指針」の中にある指導内容表です。災害安全ではこういうことを教えてくださいということが一覧になっています。特別支援学校でも教えるべきことは星印で示されています。例えば(3)地震に関する知識の⑤では,緊急地震速報について教えることになっています。裏の(1)大雨による被害の⑥では,天気予報のほかに,警報や注意報のことを教えることになっています。これらの指導内容を、学校安全計画の年間計画の中に反映させていき,生活単元学習や,朝の会などの場面をとらえて,指導していくのです。

■資料2:みやぎ学校安全基本指針(抜粋)

これは1人が,がんばってもムリですよね。全校的に共通理解して取り組む必要があります。そのために学校安全計画があります。と,同時に,やはりリーダーの存在が必要です。担任の先生たちにタイムリーに防災に関する知識や情報を伝えていく取組が求められているのだと思います。

<資料1>の防災に関するニューズレター「BOSAI STAND」はそのような意味を込めて作っています。また,<資料3>は,災害が起きた翌日の朝に「今朝の朝の会で,こういうことを指導してくださいね」とお願いするためにつくった文書です。これを職員室の入り口に貼ったり,先生たちが朝にチェックするサーバーのフォルダに入れておきます。

■資料3:防災主任からのタイムリー情報

タイミングの重要性と見通しを持たせること

災害の知識ところで,今「その日の朝の会で指導してもらうことを朝にお願いする」と言いました。そんなムチャブリ…と思われるかもしれません。でも、災害の知識を伝えていくときに,タイミングを外さないという視点が大事だと思ってます。

タイミングを外さないというのは,子どもたちの生活体験と結びつくようなタイミングで教えるということです。例えば大雨,雷,竜巻などの気象災害。雪の話を夏にしても,子どもたちには何のことやらですよね。その災害が,今,身近で起こっているか,ニュースで報道されたとき。それが指導のチャンスです。地震などのめったに起こらない災害の場合は,過去に大災害があった日に教えるというのも,同じような考えかたです。

タイミングよくということは,計画性はないですね,臨機応変ということ。そういう指導で使いやすいのは,やはり朝の会や帰りの会じゃないでしょうか。

次に見通しを持たせることの大切さ。特に障害のある子どもたちは,見通しが持てるかどうかで適応性が大きく影響します。やったことがある,知っている,できる,と思えることは,自信を持って取り組むことができる。

なので,なにが起こるのか,次にどうなるのか,どう行動すればいいのかを,繰り返し防災教育の中で伝えていくことで,災害時にもパニックを起こさずに対応できるようになってくれるのではないかと思っています。例えば,初期対応で,机の下にもぐる行動も,避難訓練だけじゃなく,授業の中でも何度も何度もやる。それで,見通しを持ち,しかも体で覚える。これが日常化です。

防災の日常化

次は防災の日常化です。防災教育を日常化するというのは、日々の授業の中に溶け込ませるということでした。となると,防災を日常化するということは,日々の生活の中に溶け込ませるということになります。特に防災を意識しなくても,そうすることが当たり前になっている。生活の中で無理なく何度も繰り返す仕組みになっている。そんなイメージです。


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