■ 研 修 会: | 第3回東金地域防災教育ネットワーク会議 |
■ 日 時: | 2013年 8月22日(木) 15:00〜17:00 |
■ 内 容: | 防災教育の日常化 |
■ 講 師: | 山口裕之(宮城県立光明支援学校・教諭) |
生きる力は,「確かな学力」,「豊かな人間性」,「健康と体力」の3つの要素からなります。
地震の瞬間から,その後の被災生活までを振り返ってみると,一寸先は闇,毎日がアドベンチャー,明日どうなってるか,何が起きるか分からない。そういう状況でした。津波や余震はもちろんのこと,ライフラインが途絶して,食料はない,ガソリンもない,原発事故で放射性物質が降ってくる。事態が日々刻々と変わっていきました。そのような状況に対応するためには…
つまり,生きるちからの3つの要素がすべて大事だったのです。災害のときは,人間としてのすべての能力が試されます。ということは,学校で学ぶことすべてが防災教育と言っても過言ではない,ということです。
防災教育というとどんなイメージですか?
震災前の私はそうでした。しかし,震災で必要だったのは,
ということは…防災教育というのは避難訓練や防災マップづくりもそうなんですが,それよりもっと広い概念,つまり「生きる力を育む」ということが防災教育と考えていくことが必要なのだと思います。文科省『「生きる力」を育む防災教育の展開』,この題名にもそういう意味がこめられています。
私はそのことに,東日本大震災で気づきました。でも,もっと前に気づいていた人たちがいます。
阪神大震災後の兵庫県では,新しい防災教育の3本柱として。「防災知識」,「防災リテラシー」,「人としての在りかた,生きかた」の三つを掲げました。防災知識と防災リテラシーは「確かな学力」,人としての在りかた,生きかたは「豊かな人間性」ですよね。「健康と体力」に対応するものはないですが,大きな地震を体験すると同じような考えに至るんだなと思いました。
健康,体力を考えた時に思い出す生徒がいます。石巻市内の高校に通っていたIくんという生徒です。私の学校の生徒ではありませんが,夏休みに行われた青少年赤十字のリーダー研修会に参加してくれたので,私は彼と出会うことができました。
Iくんには脳性まひの障害があって,新聞では車椅子に乗っていますが,当時は松葉杖で自力歩行ができました。リーダー研修会の会場になった自然の家には階段がたくさんありました。バリアフリーではなく,バリアフルな生活です。その中で,彼は周囲に少し手伝ってもらうこともあったけれども,できるだけ自力で移動していました。2001年~2002年の頃の話です。
その石森くんが,今年の元日の新聞に紹介されていました。津波が来て,母が「2階に逃げて!」と,叫びます。階段をなんとか,はい上がった直後,1階は津波で水没しました。それまで何年も,階段は使っていなかったそうです。車椅子だったら助からなかっただろうとおかあさんは記事の中でおっしゃっています。
自分の体力,移動能力を高めるということは,災害時の命に直結する問題です。これこそまさに「生きる力」,彼にとっては命を守る防災教育でもありました。
※講演後に片貝幼稚園の園長先生と話していて思い出した事例
岩手県の野田村保育所では,普段から避難場所までのルートをお散歩コースにして,しかも「早足散歩」と言って,急いでいく練習をしていたのだそうです。たとえばこちらの記事。こういう取り組みはまさに「生きる力」を育む防災教育であり,日常生活の中の防災です。
防災教育は「生きる力」すべてです…と言ってしまうと,あまりにも漠然としてしまって,「じゃあなにをすればいいの?」ということになりますね。東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議の最終報告では,障害のある子どもたちの防災教育の方向性として,2つのポイントを指摘しています。
3・11のときの自閉症の人のエピソードを2つ,私が聞き及んだところでお話しします。自閉症青年2人が,仕事場から帰るためにバスに乗っている時,大震災が発生しました。一人は話はできない,もう一人は片言の言葉をなんとか話せる人です。バスは大地震で停車し,乗客は全員降ろされました。当然,降りたことのない場所です。彼らはどうしたか。
なんとか近くの避難所にたどり着き,そこで食料と水をもらい,トイレも借りて,そこから歩いてそれぞれの自宅に戻ったのだそうです。とてもよくできたなーと感動します。
別な自閉症の青年は,一人で家にいるときに大地震が発生しました。経験したことのない非常事態にパニックになり,家を飛び出してしまいます。そのまま一時行方不明になってしまったそうです。これらのエピソードからも,有識者会議が言っているこの2つのことは大切だと分かります。
ところで,最初の自己紹介で,私は自閉症の意思表示の指導にチカラを入れていると言いました。覚えていますか? 1998年頃からですから,もう15年ぐらいになりますが,震災前にはこれを防災教育と思って指導したことはなかったです。でも,今はこれも防災教育なんだと思ってます。
これは,スマートフォンやタブレット端末で使える,会話支援アプリの画面です。Voice4u(ボイスフォーユー)といいます。このVoice4uというアプリを使うと,喋らない生徒でも意思表示できるようになるというわけです。
こういうアイコンと音声が170種入っていて,タッチすると声が出ます。または,そのまま相手に見せて意思表示します。今,この指導をしている生徒は,すぐに使いかたを覚えました。だんだん使いこなせるようになると,教えていない言葉も使うようになって,筆入れがないときに「えんぴつ」など,なんとか工夫して,言葉を選んで伝えてくれます。
私とおかあさんの話が長びいたときには 「あきました」と言われました。(笑) いつもわきでニコニコと話を聴いているように見えたので「まさか飽きていたとは!!」と驚きましたが,同時に,意思表示のスキルを与えることがいかに大事なことか,私たちは,生徒のことを分かったつもりでいて,いかに分かっていないか,思い知らされました。
こういう意思表示の学習も,「必要なときに援助を求める」ことにつながる,防災学習です。
私自身が3・11のときに心理的な罠にはまってしまったことは話しました。災害直後はボーッとして,頭が正常に働きません。思考力ゼロです。