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 防災管理の実際

■ 研 修 会:平成24年度 新任防災主任研修会(共通研修2)
■ 日   時:2012年 7月12日(木) 13:10〜14:15
■ 内   容:防災管理等の実際
■ 講   師:山口裕之(宮城県立光明支援学校・教諭)

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事前の危機管理・4つの観点

kanri18-001.jpgではここからは,今まで述べてきた6つのポイントを,少し違う角度から眺めてみます。「学校防災マニュアル作成の手引き」では,災害時の対応を時間軸の中で3つに区切って考えています。事前の危機管理,発生時の危機管理,そして事後の危機管理です。その中で,「事前の危機管理」がすべての土台となりますというのが,先ほどの「手引き」の要点2点目でした。「事前の危機管理」には4つの項目があるのですが,これについて1つずつ見て行くことにしましょう。

体制整備と備蓄

kanri19-002まずは体制整備と備蓄です。ここに挙げた項目は,「学校防災マニュアル作成の手引き」の項目通りにはなっていないんですけれども,私なりに大事だなーと思うところを並べてあります。

kanri20-003「手引き」の要点3点目は「学校の地域性を考えて,学校独自のマニュアルを作る」でした。

ここで,先生方に紹介したい事例があります。もし,皆さんの学校がこういう状況だったら,どういうマニュアルにするでしょうか?

この状況で,高台避難と屋上避難,どちらを選択すべきか? という問題です。

校長先生は,屋上避難にするべきと職員会議で提案しましたが,先生方は「津波は昔から高台避難」と言って譲らなかったそうです。2年間にわたって何度もその件で話し合いを続けましたが,結論を得ないまま3・11を迎えます。大きな地震の後,校長先生は,それまでの自分の考えをくつがえして高台避難を指示しました。高台から見ていた学校の校舎は,屋上まで完全に水没したそうです。

このように,選択肢が2つあって,どちらをとっても危険はゼロにならないというケース。災害時はそういう場面の連続でした。校長先生の話をうかがった時,災害のただ中で正しい判断ができるかどうかは,それまでの議論や準備の積み重ねにあるんだなと強く感じました。結論は出なくても,教職員でいろんなケースをイメージしながら議論しておくことが,瞬間の判断の下地になるのです。

kanri21-004そうやって学校の置かれたいろいろな環境を考え,職員間で議論をしながらマニュアルの内容を自校化します。そのときの観点はこの3つです。

【資料】つくってみよう! 自分の学校の環境リスト

では,資料に記入しながら自分の学校の環境についてリストアップしてみましょう。

自然環境は,学校の周りに,海や川,山など災害と結びつくような自然環境があるかどうかを考えます。そして例えば川があるとき,水害が起きるような状況なのか,そういう災害のハザードマップが作られているかどうか調べてみます。また,その地域が,昔からどのような災害に襲われてきたか。こういうことは,児童生徒の祖父母に聞いたり,市民センターや公民館に地域の歴史をまとめた冊子などがあれば,助けになるかもしれません。

自然環境の中で気になるのが,アースフィルダムという灌漑用ダムの存在です。東日本大震災では福島の藤沼湖というアースフィルダムが,地震で決壊して下流域で犠牲者が出ました。学校の近くに川がある場合,上流にダムがあるか,それはロックフィルなのかアースフィルなのか,確かめておいた方がいいでしょう。

次に社会的環境。学校の周りにどのような施設があるのか,災害時にそれがどう影響してくるか。地域住民はどのような人たちか…どんな人が避難してくるのか,都会だと昼と夜で状況がまったく異なることもあります。それから,災害時に頼りにできる関係機関はどこなのか。

最後に校内環境です。児童生徒や教員の数はもちろんですが,登下校中に災害が起こったときに,誰がどこにいるのかが分かっていると素早い対応につながります。また,生徒がどんな医療ニーズをもっているのか。アレルギーなのか糖尿病なのか。障害のある生徒がどのような支援ニーズをもっているか。そういうことが分かると,どんな準備や備えをしておくべきか分かります。これらの観点で,自分の学校がどんな特性をもっているのかを把握することが,マニュアルを自校化するためのヒントになります。

【資料】玉浦小「個人マニュアル票」

これは先日の河北新報で紹介されたものです。児童が保護者と相談しながら,自分の通学路の避難場所を複数決めて,自分専用のマニュアルに記入します。こういうものを作っておくと,登下校時に災害が起こった時に,児童は近くの避難場所に迷わずに避難できますし,学校も家庭も,児童がどこに避難しているか分かります。このアイディアを新聞で読んだときにとても気に入って,今日,ぜひ皆さんに紹介したいと思って,データを貸していただきました。先生方も新聞を読んだとき,このマニュアル票をもっと詳しく見たいと思いませんでしたか?

【資料】緊急時サポートブック

障害のある児童生徒が,災害時などに見知らぬ人から支援を受けるという場面があると思います。その時に,その子どもの障害の特性や医療ニーズ,支援の仕方などを簡潔にまとめたものがあると,適切な支援が受けらる可能性が高まります。特別支援学校の生徒の中には,一般のバスや電車を使って通学している生徒もいます。通学途中に地震が起こったときでも,このサポートブックを持ち歩いていれば,少し安心かなと思います。

kanri23-002次に校外学習への対応についてです。5年ぐらい前になりますが,校外学習で名取市サイクルスポーツセンターに行ったことがありました。閖上の海岸沿いにサイクリングロードがあって,自転車を借りて楽しむことができます。教員2名で障害のある生徒8名を引率しました。

海岸沿いなので, 震災では津波の直撃を受けました。今年の3月に行ってみました。工事の人に話を聞いたら,電柱より高い津波がきて,日和山という小高い丘も水没したそうです。何もなくなった閖上の町を見て,もし引率中だったらどうなっていたんだろうと思いました。

校外学習は,引率している教員もその地域に不案内なので,災害時の対応がとてもムズカシイと思います。3・11のことを考えると,保護者案内プリントに災害時の避難場所や引き渡し場所,連絡方法を書いておくべきだと思います。そのためには,下見で避難場所なども見てくる必要があるし,実施計画にも書いていく必要があります。また,校外学習当日は,ラジオや地図を携帯して,情報を取れるようにしておくことも必要でしょう。この「校外学習への対応」は,喫緊の課題ではないかと思います。

kanri25-002「手引き」の要点6点目は「学校の教職員だけでなく,多くの人にかかわってもらいましょう」ということでした。

【保護者】

その中で,保護者に協力を仰ぐことはたくさんあります。大きな災害が起こったときに,引き渡しや待機をどのように行うか,在宅時の安否確認をどう進めていくか。これについては,事前に保護者と協議して,取り決めておく必要があります。今回の震災でも,大津波警報の中で児童生徒を保護者に引き渡すかどうかという点が課題として浮かび上がっています。事前の取り決めのあるなしが,そこでの判断に影響します。

また,うちの学校では備蓄に関しても,保護者に協力を依頼しています。家庭でリュックを用意し,その中に災害時に必要となる物品を詰めて,学校に持参してもらいます。中味は水や食料,災害時にこどもが安心できる絵本などのグッズ,それから医療的ケアの道具などです。障害のある子どもたちの中には,偏食がきつかったり,ペースト状にしないと食べられないなど,食べ物に個別の配慮が必要なこどもたちが少なくありません。家庭で協力していただけると児童生徒個々に合わせた食料を準備できるし(例えばペースト食の生徒はウィダーインゼリーを持ってきている),賞味期限についても家庭の管理でやってもらえます。アレルギーがある子など,個別の配慮が必要な子どもはどこの学校にもいると思います。

また,今後は教職員も自分の防災リュックを用意する方向で準備しています。教職員の防災リュックの中には,水食料に加えて,ラジオや懐中電灯などを入れてもらいます。

【地域】

地域との連携については,後でまた述べますが,ここでは「見学会」について触れておきます。高等学校や特別支援学校の場合,地域との日常的なつながりが小中学校に比べてどうしても弱いです。いきなり地域と合同の避難訓練というのが難しければ,まずは地域住民に避難訓練を見学してもらうところから始めてみるのも一つの方法です。うちの学校でもやってみたのですが,町内会の皆さんが予想以上に見学に来ていただいて,関心の高さを感じました。

【専門家】

学校のマニュアルや避難訓練について,専門家からのアドバイスはほしいですよね。文科省で「実践的防災教育総合支援事業」というのを立ち上げて,その中に「学校防災アドバイザー事業」というのがあります。が,これは現状では宮城県の学校は活用できません。そうなると,地域の消防署に頼んだり,学会に顔を出して個人的にツテをたどるなどの方法になるかと思います。

kanri27-002体制整備のひとつとして,最後に電子データのことをお話しします。これは「手引き」には載っていないのですが,大事なことだと思うので。スクリーンにケースを2つ紹介しています。

電子データは児童生徒の命に比べると二の次だが,学校の再開には欠かせないものです。災害後に学校をできるだけ早く再開することは,地域の大人たちが復興にむけて仕事するためにも,児童生徒の心の安定のためにも大切なこと。地震が起こってから,サーバーを上層階に運んだり,USBを取りに戻ることもできるのですが,場合によっては教職員の命を危険にさらすことになってしまいます。なので,学校を再開するために特に大事な電子データは,災害時にも失わないような対策を取っていく必要があります。

kanri28-001どう守って行くか。今回の震災では,大事な電子データをUSBメモリに保存しておいて,それを持ち出すことができたという学校があります。また,津波で校舎全体が水没しなければ,サーバーを始めから高層階に設置することでデータを守れる可能性があります。

最近は,教育委員会単位で「教育クラウド」を活用するところも増えてきました。これは,学校にサーバーを置かずに,外部のサーバーにデータを置いて,学校のパソコンと通信回線で結んで仕事をするというものです。この外部のサーバーのことをクラウドといいます。学校全体が被災しても,データが別な場所にあるので,電子データを失わずにすむことになります。


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