私のいくつかの経験から気づかされたコミュニケーションのコツみたいなものをまとめてみました。
●指導者のニーズより先に本人のニーズを
コミュニケーション指導は誰のためにするの?ということです。こちらの意図を分からせるとか,教師がさせたい意思表示(トイレとか)とかは二の次です。まずは生徒本人が心から表現・意思表示したいものから始めるべきです。
- アギトくんの「こちょこちょして」
- はなわくんの絵カード導入(絵本,トランプを取ってください)
などがその例です。絵カードを差し出すことで何かとてもうれし,/楽しい状況をゲットできるという場面設定が大事です。「トイレに行きたい」という意思表示からはじめたらまず成功しません。トイレって楽しいことじゃないですよね…私はこれで何度も失敗しました。
●今現在理解できるレベルから
実物コミュニケーションのレベルの生徒に,絵カードの指導を行うのは至難の業です。即効性を求めるなら(もちろん求めるべきです),生徒のレベルにしっかり合わせる必要があります。
●彼のブックは彼の言葉
これは,生徒のブックを使って教員が指示してはいけないということです。彼のブックは彼の要求や意思表示のための言葉なんです。それを教師が取り上げて,教師の指示に使うとどうなるか。教師に操られるためのブックなら持ちたくない。そう思う可能性があります。生徒によってはせっかくの指導をおじゃんにする危険があるので注意したほうがいいです。
それは,裏を返せば教師や保護者は,それぞれ自分のブックを持ちなさいということです。本人は本人の言いたいことをブックに,親は親の言いたいこと,教師は教師の言いたいこと,それぞれ自分の言葉を絵カードにしてブックをつくるのです。そうすると一人一人中身が違うブックができあがります。
●家庭を巻き込む
できるだけ,家庭でも同じコミュニケーションシステムを構築するべきだと思います。学校での指導は,地域や家庭への般化をねらっているわけですから,般化のことを考えると家庭を巻き込まない指導はあまり意味がないと思います。
家庭の場合,父と母でコミュニケーションに関する意見が一致していなかったりして,こちらが期待するほどの協力は得られない方が多いと思いますが,できるところからはじめて,生徒の進歩とともに家庭での取り組みも改善していくというスタンスでいいのではないでしょうか。
●VOCAや絵カードが発語をうながす
VOCAや絵カードに関する誤解の一つに,VOCAや絵カードを小さいうちから使ったり,言葉が出ているのに使ったりすると,言葉が出なくなってしまうというものがあります。最近ではこの考えは否定されています。実際に使ってみると,むしろ使うことで言葉が増えていく場合が多いという印象があります。
のび太くんのところでも触れましたが,これらのコミュニケーションエイドは,私たちにしてみれば外国に行ったときの自動翻訳装置みたいなものです。自動翻訳装置を使って,自分の気持ちや要求が相手に通じれば,コミュニケーションしようという意欲は高まります。きっと子どもたちも,VOCAや絵カードを使いながらコミュニケーションの意欲を高めて,そのうちそれらに頼らずに自分の言葉を使おうと思うようになるんだと思います。
|