MAP研究会は宮城県教育公務員弘済会の支援によって活動しています。
■ 日 程: | 2016年 1月23日(土)10時〜15時 |
■ 場 所: | 大崎生涯学習センター(パレットおおさき) |
■ 内 容: | アクティブ・ラーニングにMAPを活用しよう! |
■ 講 師: | 関田 一彦(創価大学 教授・日本協同教育学会 会長) |
■ 報 告: | Sphinx |
■ 参 加 者: | 30名 |
ここでもう一度,今の話を受けて感じたこと,思ったことを4人組で一言ずつ。(3分)
(3分後)
今,グループで振り返りと共有をしましたが,授業の作り方で言えば,新しい情報を次々と与えるのではなく,一つのことを伝えたら,それを子どもたちがちゃんと受け止めるための時間を授業の中に組み込んでおくんです。3分とか,5分とか。
「今,先生はこういうことが大事だと言ったんだけど,君たちどう思うの?」と投げかけて,一人一人がどう受け止めたのかを仲間同士で確認してみる。「おれ,全然分からなかった」「寝てた…」といろいろな反応が出てくる。そうすると,ペアやグループの相手から「こういう話だったよ」とフォローが入ります。
そうやって「みんなで学んでいくんだ」「自分が学んでそれでよしではない」という場をつくり,「自分たちはみんなで学んでいるんだ」「他の友達の考えを聞くことが自分の学びに役に立っている」ということを,子どもたち自身が授業の中で感じながら学んでいくと,それだけで子どもたちの主体性が変わっていきます。
大事なのは子どもたちが主体的に学ぶことで,そのためには課題を意識させることがとても大事ということでしたが,それは言うほど簡単ではないかもしれない。でも少なくても「隣の子に説明しなくちゃいけないからしっかり聞こう」「隣の子に自分の意見を言わなくちゃ行けないからちゃんと聞こう」という場をつくっていくことはできます。つまり,主体的な学びを誘発していくための方法として,ペアとかグループという場を使っていくわけです。
繰り返しますが,グループ活動という形に持っていくことがねらいではないということです。それはペア学習,グループ学習を「させています」ということであり,教授(教え込み)と一緒になってしまう。あくまでも自分たちが課題を自分のものとして学んでいくための一つのきっかけやチャンスとしてそのような方法があるのです。
協同学習がある程度進んでいくと「先生,ちょっとグループで話し合うための時間をください」というふうに話が変わってくる。初期のころにグループ学習を「させる」としても,最終的には子どもたちにとって意味のあるもの,使いこなせるものとして定着していくことが大事です。そのためには,その時間や内容を子どもたちの力量に合わせてこちら側である程度コントロールすることも必要かもしれません。
午前の話の中で,スッキリしなかったこと,分からなかったことはなかったか,自分のゴールイメージに近づいているか,などグループで自分たちの仲間の学びが順調かどうか気遣いあってください。(2分)
いつもはペアでやるのですが,今回は3~4人のグループで行います。1分ずつ時間をお知らせするので,午前中の学びについて1分間話し続けてください。他の人は相づちぐらいはいいですが,話を取らないように。1分過ぎたら時計回りに隣の人に移ります。その時,次の人は前の人の学びを簡単に受けてお礼を言ってから,自分の学びについて話します。
アクティブ・ラーニングと真ん中に「・」がついているのは文部科学省系の方々が使っている言葉で,研究者の間では「・」をつけない「アクティブラーニング」が普通です。
午前中に見てきたように,これをやればアクティブ・ラーニングというものではなく,「自立した学習者」「能動的な学習」というものを実現するためにどうしたらいいのかといろいろ工夫して取り組んでいる授業実践がアクティブ・ラーニングということになります。
その一方で,一般的にこういうやり方をすると学習者が能動的に学ぶ可能性が高まりますという,アクティブ・ラーニングに適した方法はいくつもあります。例えばディベート。ディベートをすれば,少なくても表面的には活動的・能動的に取り組んでいるように見えます。しかし,子どもたちが「授業の中でやれと言われたから」という気持ちで取り組んでいるのであれば,活動はポジティブでもマインドはパッシブ(受け身)。やらされてやっている「アクティブもどき」です。
ぼくたちはこういう問題を認識している,なんとかしたい,解決したいと子どもたち自身に課題意識が生まれ,そのためにどうするか(A案? B案?)という段階でディベートを持ってくると,アクティブ・ラーニングとして魅力的なものになってくるわけです。
同じ技法を使っても,その先に何を求めているかによって,アクティブもどきになる場合と,アクティブになる場合がある。形だけ整えてはいけないのですが形も効果的であるという,ややこしい話です。
アクティブ・ラーニングは時代の要請です。日本(日本人)がこれから直面していく社会の変化…たとえばグローバル化があります。日本にずっと住んでいても,外国からの観光客が収入源になる,文化も価値観もまったく違う外国人が自分の上司になる,本社とのテレビ会議は英語でやる,そういう時代がすぐやってくる。そういう中で,自分がどうやったら生きていけるかという問題意識,課題意識を持って,生涯学び続けられるようなアクティブなマインドを,小さい頃から身につけさせないと心配じゃないですか? それをアクティブ・ラーニングと言うんです…というのが文部科学省のスタンスです。
今ある仕事の半分は20年後にはなくなるという話もありますね(→参考)。そういう時代に今ある仕事のための準備を学校でしててもしょうがない。自分が教えている子どもたちが社会に出る10年後,20年後の社会に向けた教育を意識していかないと。その時,生活できる力とはなんでしょう。それがアクティブ・ラーニングという言葉に託されたメッセージです。表面的に「もどき」をやってて本当に大丈夫なのか,本当に伸ばしたい力は何なのか,それを本当に伸ばしているのか? を意識していきましょう。
<参考>
■2030年までになくなる仕事と生き残る企業ランキングTOP5
https://careerpark.jp/38103
■オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」
702業種を徹底調査してわかった
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40925
アクティブなマインドをもつ人を育てる…そのための方法の一つは「仲間」の存在を活用することです。人は誰かのためとなると,自分一人でやるときの限界を超えてやっていける。それで「誰かのために」という状況を上手に,かつ適切に授業の中で使っていくのです。互いのために,隣の子のために,目の前の仲間のために,クラスのために…。仲間というキーワードでグループのダイナミクスを使っていくというのが大事なポイントの一つになってきます。プロジェクトアドベンチャーもまさにそういったチームで課題にチャレンジしていくものですし,同じように授業の中で様々な課題に挑戦して乗り越えていく,そのための一つのアプローチが協同学習です。
午前中のグループでの話し合いの中でも,ペア学習やグループ学習はしているけれども,それが本当にアクティブ・ラーニングになっているか不安だという声が聞かれました。グループで活動させればそれが協同学習…とは限らない。形だけそろえただけでは協同学習にはならない。では,どのようなグループ学習なら協同学習と言えるんでしょうか?
一般的にグループ学習は何のためにやるのか。それは,互いの考えを知り,自分の視野を広げながら,その教科の内容について理解し,深く考えてほしいということ。つまり,その授業における学習目標を達成させるためにグループを使います。
一方,私たちが授業で伸ばしていこうとしている力は,単なる知識の習得に留まらず,もっと汎用的な,人としての生きる力につながるようなところも合わせたものです。つまり,教科の「学習目標」に加えて,コミュニケーションスキルとか,学ぶ態度など,そういった「態度目標」も合わせて二つの系統の目標を同時並行で意識的に指導していくということになります。
アクティブ・ラーニングというのは,これら二つの目標を同時に学習することができる学び方であり,その中の一つの選択肢として,協同学習があります。(関田先生の図を少しアレンジしました)
協同学習とはどんな学習なのか,大きく二つの説明の仕方があります。一つは,「協同」の考え方に立って学習活動がなされているものを協同学習という,という説明です。「協同」というのは一つの目標に向かってみんなで心と力を合わせていくものですから,
ジョンソンらの協同学習の定義を元に,協同学習と一般的なグループ学習を比較してみましょう。
No | ジョンソンらの協同学習の定義 | ←→ | 一般的なグループ学習 |
---|---|---|---|
1 | 生徒たちは互恵的な協力関係(肯定的相互依存)にある | ←→ | 教師は生徒が協力し合うことを期待するが,その目的・目標を曖昧にしがち |
2 | 学習活動における個人の責任が明確である | ←→ | 学習活動における個人の責任ははっきりしない |
3 | 対面しての活発な(課題に対する)相互交流がある | ←→ | 相互交流は部分的・偶発的になりがち(無制御・ほとんど放任) |
4 | 小集団技能活用の奨励および技能訓練がある | ←→ | 特に配慮されていない |
5 | 活動に関する振り返り(改善手続き)の時間がある | ←→ | 活動に関する振り返りは通常行われない |
補足しますと,3の「対面しての活発な(課題に対する)相互交流がある」というのは,実際に課題に関連したやりとりが発生しているということです。4の「小集団技能活用の奨励および技能訓練がある」とは,仲間同士でより良く学び合えるようなソーシャルスキルのトレーニングが意図されているということ。そして5の「活動に関する振り返り(改善手続き)の時間がある」とは,ちゃんと意図されたような学び・成長が見られるか点検する場面があるということです。
こうやって見てくると,私たちがアクティブ・ラーニングと言ってやっている様々なグループ学習の中で,協同学習と言えるレベルものは必ずしもたくさんあるわけではないということが分かると思います。
先生たちの中には,「ムリムリ! グループにしてもうまくいくはずないよ。生徒が未熟だから。一斉で教える方がいい」という人がいるんです。でも,そうしたら,その子たちのグループ・スキルはいつ磨かれるんでしょう? できないまま社会に出すのでしょうか? できないからこそグループにして,ひとつひとつ訓練してできるようにしていかないと,ということですね。
学習には目標がある,ということは,その目標に向かって自分たちに何が期待されているのかはっきりしています。「グループで話し合って」と言われれたとき,自分は何をすればいいか。それをすぐに理解して参加できる子もいる一方で,どうしたらいいか分からない子もいるかもしれない。
一つの例として,今日の一番最初に4人のグループで自己紹介をしてもらうときに,どこから来たか,好きな食べ物をたずねてくださいと言いましたね。それについて相手に尋ねて答えを得ることは,本人の責任ですよね。そして,相手は聞かれたらちゃんと答えてあげなければならない。そして,その情報を残りの2人にちゃんと伝えることは,聞いた人と聞かれた人の二人の責任になります。そしてグループ全体の目標としては,後でグループの一人について講師に聞かれたときに,誰について聞かれてもみんながしっかり答えられる準備をしましょうということ。
こんなふうに手順とか期待されている役割が明確になっている時は,一人一人が目標に向かって動きやすいわけです。そのグループの実態がよく分からない状態のときは,まずは枠を与えて動かしてみる。そうすると,うまくいったかいかなかったかの振り返り(確認)ができる。つまり,ここで「個人の責任が明確である」ということの意味は,自分が行うべき手順や,期待されている役割が理解できているということなんです。
この辺は,PAをやっている人には説明はいらないのですが,確認です。互恵的な協力関係,つまり WIN-WIN な関係,互いにポジティブな関係を作り出すためにどんな要件が必要かということです。
これらはMAPも同じですね。MAPで使っているマインドを,授業の中に持ってきて具体的にそれを担保する。MAPでジャイアントシーソーをするときにファンタジーを使っているのに,授業にファンタジーがなかったらもったいないじゃないですか。上手な先生はなにかしらそういうものを使って,子どもたちがまとまりやすいような枠組みを与えています。
□難しい課題を多くの知識から解決するジグソー学習法とは?
http://www.tarianaweb.com/info/Jigsaw.html
個人の責任を考えるときに,一人一人が自分の考えを持って参加することがとても大事です。協同学習では,話し合いの前に,自分で何をしゃべろうかというものを用意してから話し合いに入ります(個人思考)。例えば「1分間,個人思考の時間にします。自分の考えをノートに書き出してください」というふうに。その後に,互いに自分の話題を持って,グループでの話し合いに移ります(集団思考)。
グループ活動をきちんと評価・点検する活動が入って,それを次に生かしていくというところが,通常のグループ学習が協同学習になっていくための大事なポイントになります。
協同学習の特徴について分かったことを,ペアで確認してください(2分半)。その上で,他の人が協同学習の特徴について理解したか確認できるような簡単な問題を1人1問つくってください。それをカードに書いてもらいます。表に問題,裏に答えを書きます。(2分半)
では,これから席を立っていろんな人とペアをつくって,問題を出し合って答えてください。相手が間違ったら正解を教えます。グループごとに青か白のカードが渡っているので,違う色(別なグループ)のカードを持っている人を探して,ペアになります。お互いに問題に答えたら,カードを交換して次のペアになる相手を探します(また違う色)。できるだけたくさんの相手と問題を交換しましょう。(3分半)
今の活動は個人の責任を発揮していますよね。問題をつくらないと参加できない。でも一人でできなかったかもしれないけど,ペアで確認してから問題作りをしました。やることがはっきりしていて,しかも仲間の存在もあります。
この次の展開としては,じゃあみんなで問題を出し合ったので,この問題の中から次の試験をするよ,という方向もあります。自分たちが自分たちの学びを点検して深めていくことができる。
こういう活動を Mixed-Pair-Share と言います。今回はやりませんでしたけど,ペアで問題をつくったときに「どっちの問題がよかったかな?」「どっちの方が他の仲間の学びに役に立つと思う?」と考えさせて,いい方の問いに○をつける。それを取り替えっこしていくと,いい問いには○がたくさんつく。
こんな風にすると,「問いをつくる力」を育てることができる。これからの時代,よい問いが立てば課題の半分は解決しますので,問いを通じて互いの学びを深めていく力を磨いていきたいというときにも使えます。
(次のページに続く)