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'96 地学部会秋季総会・巡検

仙台周辺の断層と地すべり地形の旅


【はじめに】

 宮城県高等学校理科研究会地学部会は,県の高等学校の地学教員の集まりです.地学部会では,毎年1回,総会を兼ねた巡検を一泊二日の日程で行なっています.今年(平成8年度)の巡検は,去る10月17日(木)から18日(金)にかけて作並〜奥新川方面で開催されました.参加者は32名(大槻教授を含む)で,宮城県の全地学教員の約6割です.所属は,公立高校・私立高校・特殊学校(盲学校,養護学校)などバラエティーに富んでいて,年齢も若者からベテランまで偏りのない構成になっていました.
 今年のテーマは「活断層」.阪神大震災でその怖さを世に知られるようになった「活断層」について,東北大学大学院理学研究科教授大槻憲四郎氏を講師に招いて勉強しました.奥羽山脈の形成に大きく寄与した活断層である「作並断層」を例にとって,断層の露頭や周辺の地質の勉強をすることができたのは,私にとって最大の収穫でした.その他,仙台北西部で見られる地すべり地形,新第三紀中新世後期のカルデラ生成に伴う湖成層や貫入岩体なども見学しました.


[目次]

  1. 八幡7丁目放山[はなれやま]地区:地すべり地形とその対策
  2. 赤坂ニュータウン:活断層による段丘面の変位・火山灰層
  3. 熊ヶ根野沢橋:白沢層(湖成層)・断層と地層の変形
  4. 鳳鳴四十八滝:貫入岩体・柱状節理・差別侵食による滝と峡谷の形成
  5. 作並宿:作並断層と地層の急斜帯の露頭と断層地形
  6. 八森駅から奥新川駅:作並断層やグリーンタフなどの中新世の地層
  7. 泉区焼河原[やけがわら]:竜ノ口層の貝化石

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1.八幡7丁目放山[はなれやま]地区:地すべり地形とその対策

【地形図】1:50,000「仙台」,1:25,000「仙台西北部」

 まず初めに,地すべり地形とその対策工事について見学しました.見学地は,仙台市八幡7丁目の放山地区です.ここは,青葉丘陵を開析して流れる広瀬川の左岸にあたり,地すべりの末端部には国道48号線が通っていて,それに沿うように民家が密集しています.また,地すべりを起こしている山の上には,新しい団地が造成されています(葛岡団地).
 記録によれば,ここで地すべりが発生したのは,明治41年5月15日.広瀬川に面する6万坪(20万立方m)が崩落し,国道48号線は300m以上にわたって通行が途絶したといことです.その後,昭和53年6月の宮城県沖地震のときに,観測中の地すべり計器に顕著な変動が記録されたため,対策工事が施されるようになりました.
 この地域には,新第三紀中新世の三滝層と綱木層が分布しています.安山岩を主体とする重い三滝層が,軟質な凝灰岩からなる綱木層の上に載っていて,もともと不安定な構造になっているところです.一番大きな地すべりブロックは,平行して走る2本の断層で両脇を規制されながら,三滝層と綱木層の不整合面ですべっています.つまり,地下水によって凝灰岩の上面が粘土化し,そこをすべり面にして重い安山岩のブロックが滑り落ちたということです.

 この地域の地すべり対策は,基本的に(1)水ぬきと,(2)抑止杭の二つです.

(1)水ぬき

 岩盤に浮力を与えないことと,粘土鉱物に水分を与えないことを目的として,水抜きのための対策工事が行なわれました.この地域の地下に,雨水がしみこんでいかないように,2段階の水ぬき対策をとっています.

(2)抑止杭

 長さ35m,直径約20cmの鋼鉄製のパイプを,2m間隔でたくさん打ち込んでいます.鋼鉄製のパイプは,三滝層を貫いて,綱木層の中まで食い込んでいます.要するに,三滝層の安山岩がずれないようにするための,巨大な釘です.

【写真】表面排水路,集水井,抑止杭

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2.赤坂ニュータウン:活断層による段丘面の変位・火山灰層

【地形図】1:50,000「川崎」,1:25,000「熊ケ根」

 バスに乗って次の観察ポイントへ.48号線を山形の方へ向かって走り,途中で大倉ダムへ向かう道路に入りました.観察ポイントは,赤坂ニュータウンへの入口の交差点です.ここでは,広瀬川がつくった数段の段丘が,愛子断層によって切られて変形している様子を観察することができます.
 愛子断層は,東落ちの主断層(延長2km)とその西側の西落ちの逆向き低断層崖(延長1km)が並走していて,主断層により河岸段丘が最大29mほど変位していることが分かっています.段丘面の生成年代と垂直変位量から,断層の垂直変位速度を求めると,主断層が 0.2 - 0.3 mm/年,副断層が0.05 - 0.06 mm/年という結果になります.主断層は,活動度Bクラスということになります.

 ちなみに活断層の活動度は,年平均変位速度で定義され,

  Aクラス:10〜1mm/年
  Bクラス:1〜0.1mm/年
  Cクラス:0.1〜0.01mm/年

となっています.

 ここで,大沼先生が双眼実体顕微鏡を出して,近くで取れた火山灰の重鉱物を見せてくれました.角閃石が入っているという説明でしたが,宇留野先生がバスの中で「あれは本当に角閃石かなあ」と言っていましたね.真相はいかに?

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3.熊ヶ根野沢橋:白沢層(湖成層)・断層と地層の変形

【地形図】1:50,000「川崎」,1:25,000「熊ケ根」

 赤坂ニュータウンから48号線に戻り,さらに山形方面へ.熊ヶ根橋の手前からバスは河原に降りました.河原から対岸を見ると,きれいに成層した白っぽい堆積岩の大露頭.崖の高さは30mぐらいあるようです.この堆積岩の地層は,白沢層です.白沢層はシルト岩と凝灰岩の互層からなる湖成層で,植物化石や昆虫化石が産出することでも有名です.分布域は,愛子盆地を中心にして,北方は七北田川沿いの根白石・長命ヶ丘付近まで,南方は名取川沿いの秋保温泉を越えてやや南側まで.当時はこの地域に広大な湖があったわけで,この湖を「古仙台湖」と呼んでいます.白沢層が堆積した約800万年前は,奥羽山脈付近を中心にした多量の珪長質火砕流と多数のカルデラ生成で特徴づけられる時代です.白沢層も,カルデラに堆積した地層であると考えられています.

 秋には芋煮会でにぎわうこの河原から,対岸の露頭を見るとスランプ構造や逆断層が観察できます.逆断層の存在は,白沢層が堆積した時代の広域的な応力場(NW−SE方向に引っ張りの力)を考えるとつじつまが合いません.すると,この断層はずっと後の時代の圧縮応力場のもとでできたものでしょうか?でも,その逆断層をよく見ると,断層面のところで両側の地層がかなり引きずられていることから,白沢層堆積後まもなく形成されただろうと想像できます.ということは,この断層は広域的な応力場による断層ではなくて,この付近の局所的な力によってできたものだということになります.

【写真】白沢層

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4.鳳鳴四十八滝:貫入岩体・柱状節理・差別侵食による滝と峡谷の形成

【地形図】1:50,000「川崎」,1:25,000「熊ケ根」

 48号線をさらに西に進みます.仙山線の西仙台ハイランド臨時駅を過ぎ,仙台ハイランドの入口のT字路を越えてすぐのところに「鳳鳴四十八滝」という滝があります.この滝は,観光ガイド「るるぶ宮城」にも載っていて,観光名所のひとつになっています.この辺りは先ほど見た白沢層を堆積させたカルデラの縁で,滝のまわりでは玄武岩の貫入岩体が観察できます(貫入岩体はカルデラの縁によく見られます).
 貫入岩の節理の方向(NE−SW)から,貫入岩の走向がNWであることが分かります.

 滝を見ながら目を遠くにやると,鎌倉山が遠望できます.これは太白山と同じ「火山岩頚(volcanic neck)」だそうです.いかにもニョキッと立っていて,これぞ火道の跡という感じがします.この上に載っていたはずの溶岩が,付近の山の高い部分に散在するということで,たしかにキノコの笠のような地表に流出した部分もあったのだという説明を受けました.

【写真】鳳鳴四十八滝の玄武岩,鎌倉山

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5.作並宿:作並断層と地層の急斜帯の露頭と断層地形

【地形図】1:50,000「川崎」,1:25,000「作並」

 48号線をさらに西進.奥新川駅へ至るT字路の直前で右折.少し進んで工事現場(ボーリングをしていた…温泉?)にバスを停め,広瀬川の河原を上流(北)へ登っていきます.ほとんど垂直に近い作並層の泥岩層が続きます.作並層は,1,500万年前から1,200万年前に堆積したと考えられていて,泥岩の他にシルト岩とわずかな凝灰岩・砂岩からなります.日本海が開いたときに堆積した地層で,当時の海深は500〜1500mだったということです.ここで,大槻先生に垂直層の上下判定のコツを教えてもらいました.

「泥岩の中に薄くはさまれている凝灰岩に注目!」

 さて,さらに上流にいくと,東側から小さな沢が流れていて,そこから突然,流紋岩に変わる地点がありました.そこがうわさの「作並断層」!作並層の泥岩と,それより古い(日本海が開きはじめた頃の)流紋岩が,約2mの断層粘土をはさんで接しています.上盤が流紋岩ですから逆断層です.断層による垂直変位量は,簡単に見積もると,

断層粘土の厚さ×100(m)

ぐらいだそうです.この作並断層は,奥羽山脈を1,000mほど持ち上げた張本人だと言われていますが,ここでは断層粘土の幅が2m程なので,垂直変位は200mほどだということになります.

 この断層粘土は,続成作用を受けていない非常にフレッシュなものなので,この断層はかなり新しい時代のものだということが分かります.また,断層粘土をうまく割ると,ピカピカなすべり面が出てきます.その面をよく観察すると,断層がすべった跡(断層条線)を見つけることができます.

 それから,作並断層に沿って,青根温泉や作並温泉などいくつかの温泉が湧いているという話も興味深い話でした.

【写真】断層粘土の条線を見る

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6.八森駅から奥新川駅:作並断層やグリーンタフなどの中新世の地層

【地形図】1:50,000「川崎」,1:25,000「熊ケ根」と「作並」

 48号線を仙台方面に少しもどって,ニッカウヰスキー仙台宮城峡工場の方へ右折.工場を左手に見ながらどんどん山の方へ登っていくと,廃れた別荘の造成地があります.そこでバスを降りて,山道を降ります.仙山線の八ツ森臨時ホームの辺りは,鳳鳴四十八滝と同じ白沢層を堆積させたカルデラの縁にあたり,ここでは見事な柱状節理が発達した流紋岩の火山岩頚を見ることができます.八ツ森臨時ホームを過ぎて,さらにしばらく歩くと,新川川のほとりにつきます.
 新川川がS字状に屈曲しているその辺りが,先ほど広瀬川で見た作並断層の続きです.流紋岩の火山岩頚と作並層が,約8mの断層粘土をはさんで接しています.断層粘土の厚さから考えると,ここでの垂直変位量はほぼ800m程だということになります.
 ここから奥新川の芋煮会会場で有名な長命のわき水の場所までは,「新川ライン」というハイキングコースになっています.このコースには,作並層とその下位層である荒沢層が露出していて,

などを観察することができました.吊橋を3つも越えて長い長い道のりでしたが,ゴール間近で若い女性たちがつくっていた芋煮のにおいで元気付けられて,みんな歩き通すことができました.

【写真】タービダイトの砂岩

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7.泉区焼河原[やけがわら]:竜ノ口層の貝化石

【地形図】1:50,000「仙台」と「吉岡」,1:25,000「仙台西北部」と「根白石」

 芋煮会の家族連れを横目で見ながら(この人達は仕事お休みなのかなあ?)おいしい御弁当を頂き,バスに乗り込みます.奥新川を後にし,次に目指すは仙台市泉区の焼河原.48号線を仙台市の方に向かってひた走るバス.陸前落合で左折して,芋沢をとおり,住吉台ニュータウンを回り込むように左折して,住吉台と泉国際ゴルフ倶楽部の間の低地を走ります.トタンの塀が目立つ工事現場でバスを降り,そこから車が通れる程度の山道を少し歩きました.道が右に折れる地点から沢におり,しばらく沢歩き.やがて見慣れた竜ノ口層の貝化石層準が目に入ります.
 ここでは,竜ノ口峡谷であまり取れない大きなタカハシホタテが採れることで有名.みなさんタガネを振り回して懸命にホタテ探しをしていました.収穫は,タカハシホタテ数個とエイのトゲのかけら1個でしょうか?収穫物の品評会をしなかったので,誰がどんな宝物を見つけたか分かりません.ぼくですか?ぼくは,せっかく見つけたタカハシホタテを,回収作業中に割ってしまい,泣く泣く現地にほうむって来ました.アーメン!

【写真】タカハシホタテ

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8.さいごに

 というわけで,予定時刻を1時間ほどオーバーして,無事,宮城広瀬高校に到着.焼河原からバスで移動している間,野町先生が幻日を発見!バスの中では,太陽からの角度がどうの,色は普通の虹と反対だ,などと盛り上がりました.幻日のおまけが付いて,充実した二日間の巡検が終わりました.

 実際に野外でいろいろなものを見ることができたのはもちろんですが,バスの中での雑談,飲み会の中でのお話(大沼先生のアイスランド紀行も秀逸でしたね),大槻先生のちょっと難しい講義(2回もしてくれた!)など,二日間の全日程でとてもたいせつなものをたくさんいただくことができました.ぼく自身は,残念ながら出張ではなく年休の自費参加でしたが,これだけ充実していれば自費で参加した甲斐があるというものです.秋季巡検に参加した先生方,秋季巡検を企画運営してくれた先生方,そして二日間ずっと一緒に歩いて稚拙な質問に答え続けてくれた大槻先生,皆さんにお礼をいいたいです.ありがとう.

【写真】幻日

('96/11/9)


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