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共同研究係だより(第6号)

もっとリラックスしましょう!



1.この共同研究係だよりの概要

 この共同研究係だよりでは,共同研究の1年目が終わるにあたって,もう一度,私たちが行なっている研究の意味について考え,今後の見通しを述べたいと思います.

2.研究ってなに?

 私たちは今,「個の課題に応じた指導」をテーマに研究を進めています.そして,その研究成果は,日々の生徒の指導にダイレクトに反映し,生徒は以前よりもよい教育環境の中で学習を行なうことができるようになると考えています.

 ところが,この1年,係から研究の方法や内容について提案した時に,「今回の共同研究が,生徒のための研究と思えない」という意見や,「それは日々の業務の中でやることじゃないですか」という意見を耳にすることがありました.これらの意見は,「研究」に対する考え方の違いからもたらされるものだと思います.それで,これらの意見に対する私たちの見解を通して,この研究の意味を考えてみたいと思います.

●この研究は生徒のための研究か

 この研究が生徒のためになるとことは間違いないと思うのですが….しかし,「生徒のための研究」という語句を「直接的に授業を変えていくための研究」と読み替えて考えてみると,この意見は「授業以外のことを研究してもしょうがないんじゃないの?」というふうに読み取れます.そう解釈して,その疑問に答えます.

 この研究がめざすものの一つに「個別の記録をきちんと取ろう」というものがあります.授業を変えていこうとするときに,きちんと記録が取られていなかったら困りますよね.例えば,生活学習を改革しようと思ったときに,個々の生徒が生活学習でどんな目標をどの程度達成したかが記録されていなかったら,何を根拠にどんな改革ができるのでしょう?「授業改革に取り組む前に,しっかりした記録の態勢を作りませんか?」ということです.この研究が成功して,活用可能な記録が蓄積したら,次のステップ(直接的な授業改革)へ進みましょう.

●日々の業務と研究は違うもの?

 「日々の業務」の中で,努力すればできることをなんでわざわざ研究などと銘打って,仰々しくやるんだろう?そう思っている方は,実は少なくないかもしれません.それについて,ちょっと考えてみましょう.

1)「努力すればできることだったら,なぜ今まで努力できなかったのだろう?」

2)「『日常の業務』と関係のない研究ってどんな研究だろう?」

1)について

 「日常業務の中で努力すればできる」と言うときに,その主体は誰を想定しているでしょう.個人ですか?それとも組織ですか?私たちは,個人個人の責任で教育を行なっているのではなく,組織(チーム)として教育を行なっています.組織の仕事の一部がうまくいかなかったときに,その原因を個々人の努力不足(あるいは過失)で説明しても,根本的な解決にはなりません.

 私たちが考えるべきことは「なぜできなかったか→努力が足りなかった」ではなくて「どうすればできるか」なのです.そして,その解決策は,あくまでも組織としての解決策でなければ意味がないのです.組織としての解決策とは,簡単に言うと日常業務のシステム(具体的なやり方)を変えることです.日常の業務がきちんと目的に沿って遂行されるためのシステムを作ればいいのです.これが,私たちの研究です.

 私たちの研究を「養護学校におけるQC活動」と評した方がいます.QCというのは経済用語で「品質管理.市場に送り出される製品やサービスの品質が,一定の許容範囲内に維持されるように,検査・評価・修正・改善などを行なう経営管理法」という意味だそうです.「市場に送り出される製品やサービス」というのは,私たちの場合は「教育活動」ということになるのでしょう.「教育活動」というサービスの品質を,組織として維持しよう(個人の努力のみに期待するのではない)ということです.まさに,そのとおりですね.

2)について

 私たちの「日常の業務」は,すなわち教育活動そのものです.その中には,実際の授業場面も含まれるし,その授業の準備や後片付け,生徒の実態の把握や授業後の評価など,私たちが学校で行っている全てのことが含まれます.それを改善していこうというのですから,この研究によって,児童・生徒の学習環境が以前よりも良くなることは間違いないと言ってよいでしょう.(もちろん,期待通りに「改善」されればの話ですけど…)

 ついでに書いてしまうと…数多くの学校研究が見事に消え去ってしまうのは,「日常の業務」からかけ離れた研究だからではないでしょうか.あるいは,研究成果を「日常の業務」に無理なく組み入れる方法を考えていなかったからではないでしょうか.この研究では,同じ過ちを繰り返したくないものです.

3.私たちの研究のゴールは−2年後を遠望してみる−

 昨年の12月21日付けで共同研究係から出された「共同研究のまとめをするにあたっての再確認について」というプリントを読んで,皆さんはどう思いましたか?「おいおい,本当にこれを全部やっていくの?」と思った方が,少なくないのではないかと思います.私たち共同研究係は,「個の課題へ対応」するために考えられる観点を,できるかぎり考慮に入れて研究していきたいと考えているのです.

 研究の手法として,いろんな観点の中からいくつかを選んで,それを深く掘り下げるというやり方は当然考えられます.しかし,私たちは,そういう道を選びません.なぜなら,私たちが目指している「個の課題へ対応」するシステムというのは,その一部分を改善しても意味をなさないと考えているからです.例えば,家庭との連携だけを取り上げて研究し,その観点のみから「個の課題へ対応」していく状態を考えてください.残りの部分を今のシステムのままで,です.それで今の状態よりも「個の課題へ対応」できると思いますか?私たちは,ほとんど変わらないだろうと思うのです.そのような研究こそ,先ほど言った「日常の業務からかけ離れた研究」なのではないでしょうか?日常の業務全般に目を配って,少しずつでもいいから全体的に底上げをしていくことこそが,「個の課題へ対応」する有効なシステムを作る早道だと考えています.

●どんなレベルまで?

 というわけですから,この研究に完璧さを求めるつもりはありません.例えば,「家庭との連携」.これに「まじめ」に取り組むと,これだけで3年越しぐらいの研究ができ上がります.そういうことを,やってくださいとは言いません.日常の業務全般を「個の課題に応じた指導」という目的に沿っていくつかの観点で見直してみて,その中のあるものについては「今までよりちょっとやり方を変えてみよう」と挑戦する,またあるものについては「今までやってこなかったけど,これからやってみよう」と挑戦してみる.そういうふうにとらえてさらりとやっていきましょう.私たちの研究は「完璧な理想の追及」ではなく,理想をめざした「着実な第一歩」なのです.

 ただし,その業務の内容(レベル)が学部内で異なると,うまくありません.例えば,あるクラスではしていることを,別のクラスではしていないというこになると,その業務は組織として行なわれているものとは言えなくなります.組織全体としてのレベルは低い方で測られてしまうということです.私たちが組織として教育活動をしている以上,どの先生に担任されても一定の水準で指導されるという状態が必要です.レベルの高さについては高望みしませんが,学部内でのレベルの統一には注意を払う必要があります.

●学校共通の書式を作るのが目的ではない

 共同研究というと「学校全体で統一した方針を打ち出す」というゴールを想定される方が多いようですが,私たちはそのようなことは考えていません.例えば,書類の様式について考えてみましょう.書類の様式を学部共通のものにする意義があるかどうか…事情の違う各学部の書式を統一する労力と,それによってもたらされるプラスの効果を比較してみるどうでしょう?学部間で何度も会議を開いて,調整に調整を重ねて,でき上がってみたら,全ての学部が少しづつ不満を感じていたなんてことにはならないでしょうか.一方,統一した書式によるメリットは,学部を移行するときに,そのままの枠組みで転記できるということだけです.それらを比べて考えると,特に統一したいとは思えなくなります.

 書類に関して大事なことは,何をやってどうなったかという記録が,きちんと引き継がれるということです.どんな様式の書類に書いてあるかということは,二の次です.例えば,「本年度の課題」の区分が,小学部と中学部で少し違っていたとします.それで引継ぎのときに何らかの問題が生じますか?中学部の新担任は,小学部の旧担任が書いた「本年度の課題」や指導記録を見て,中学部の書式の該当部分に区分けしなおせばいいだけの話ですよね.

 もちろん,必要なことが網羅されていなかったり,学校全体の数少ない約束事が守られていなかったりすれば,それは問題です.ですから,100%学部独自にしてとは言えないのです.必要に応じて,最小限の部分に枠をはめる.それ以外の部分は,各学部の実情に応じて,オリジナリティー豊かな書式でやればいいのです.無理をして全体に枠をはめることはありません.

4.もっとリラックスしましょう

 いかがでしょうか.今まで先生方が抱いていた研究のイメージと同じだったでしょうか.あるいは,これを読んで気が楽になった方はいらっしゃるでしょうか.私たち共同研究係は,先生方に無理難題を吹っ掛けているわけでも,理想を追及して現実を顧みずに突進しているわけでもありません.「個の課題に応じた指導」というキーワードを手がかりにして,児童・生徒のためによりよい教育環境を用意するにはどうするか,その問いにつとめて現実的に答えようとしているのです.

 もちろん理想はあります.だけど,そこに一気に到達できるわけはありません.一歩,また一歩と,試行錯誤しながら進んでいくしかないのです.「日々の業務」を,少しずついい方向に変えていくこと,これこそが私たちがしている教育研究なのです.無理して背伸びしないで,リラックスしていきましょう.

目標は高く!大きく! 歩みは小さく一歩一歩!


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