この研究をうまく進めるためには,記録を書くための時間を今まで以上に確保する必要があります.この共同研究係だよりでは,会議を効率的にすることで,新たに時間を捻出しようという提案をしています.
野口悠紀雄著『続「超」整理法・時間編』より
私たちが,今,取り組んでいる共同研究の目的は「子供たち一人一人についてよく考え記録しよう」というものです.2回の授業研究を通して,先生方は「共同研究係の言っていることも分からないわけではないけれど,言われたとおりにすると時間がかかる」という感想を持ったのではないでしょうか?そうなんです!私たち係でも,そこが一番問題だと思っているのです.では,どうすればよいでしょう.時間がないということで,「一人一人についてよく考え記録する」ことをあきらめますか?いえ,ちょっと待ってください.性急に結論を出す前に,私たちの日常で無駄な時間がなかったかどうか,もう一度点検してみましょう.
8:30から17:15までの勤務時間の中で,無駄に過ぎ去っている時間はどこにあるでしょう?私たちを,教材・教具の準備や記録の整理から遠ざけているもの…それは「たくさんの会議たち」です.生徒を帰してから30分後には始まって,延々勤務時間が終わるまで(運が悪いと,その時間の壁を乗り越えて果てしなく)続く会議.これを短くできたらどんなに仕事がはかどるでしょう!
この共同研究係だより(第5号)では,会議を短時間で終わらせるためのシステムについて提案し,そのシステムがもたらす効用についても,簡単に紹介したいと思います.
1.会議資料(アジェンダ)を事前に用意する
現在の会議の時間を延している最大の要因は,議題が事前に明らかになっていないということです.そのために,
という問題が生じています.この問題を回避する方法は簡単です.会議資料(アジェンダ)と添付資料を,事前に配ればよいのです.アジェンダと添付資料のつくりかたについては,もっと下の方で説明します.
【補足】
1)について:
事前に議題が分かっていれば,それに関する資料を見直したりして,自分の考えをまとめた上で会議に参加できます.ところが,現状では,資料が手元にない状態で頭の中だけで議論を進めることが度々あります.また,議論の最中に他人の話を聞きながら,同時に自分の考えをまとめるという形になるので,なかなかよいアイディアが浮かんできませんね.それで長引くわけです.2)について:
会議の参加者が事前に資料を読んで質問や意見を用意している状態で会議が始まれば,会議中は簡単な補足説明のあと,すぐに議論に移れるし議論の流れも整理しやすくなります.ところが,現状では,初めて見る資料を読みながら,長い長い説明も聞いて,さらに自分の考えをまとめなければいけない.やはり非効率的です.また,会議中に資料説明をすると,その問題にあまり興味のない人(もっと直接的に言うと利害関係を持たない人)は,頭の活動が停止してしまいます(それがいやだから内職をするんですよね→心当たりのある方 (^。^) ).事前に資料が渡されていれば,利害関係のない議題(項目)については読む必要がない.したがって,その時間を他の有効な仕事に割り振ることができるというわけです.(私たちは,学校で行われている全てのことに首を突っ込んでいる暇はありません)
2.参加者は資料に事前に目を通して質問・意見をまとめてくる
アジェンダと添付資料が事前に配られても,参加者がそれを会議の前に見てこなければ,意味がありません.参加者は,配られた資料に目を通して,質問・意見をまとめた上で会議に参加します.
資料についての理解を事前に済ませるやり方の利点を,いくつか思いつくままに挙げてみましょう.
3.会議の目的をはっきりさせる
その会議は何をするための会議なのか,その目的をはっきりさせて,参加者間で共通理解してください.会議の目的を履き違えると,いたずらに無駄な議論が続く危険性があります.私たちが会議を開く目的は二つだけです.「利害関係の調整のための会議」と「創り出す会議」です.前者の代表例が,運営委員会,後者の代表例が行事を計画するためのいくつかの委員会,例えば「バザー実行委員会」です.皆さんは,今まで「利害関係の調整のための会議」で何かを創り出そうとしたり,「創り出す会議」で利害関係の調整をしてしまった経験はありませんか?議論の流れがそういうふうになったときには,司会が収拾に乗り出す必要があるのです.多くの場合は,その目的のための係がすでに存在するので,その係にお任せするという解決策が採られるでしょう.場合によっては,資料を整えてあらためて同じメンバーで会議を開きましょうという結論になることもあるでしょう(学部会などはそうならざるを得ない).
また,一つの会議に「利害関係の調整」と「創り出す」ことの両方の目的を持たせようとするのは止めるべきです.そうすると,会議の参加者は膨れ上がり,そのために共通理解のための時間が多く必要になり,議論が収束しにくくなる…悪いことばかりです.さらに,一人がかかわっている会議数が増えるという弊害もでてきます.
ところで,会議にはもう一つ「報告・伝達のための会議」というのもあるではないかと思うかもしれません.しかし,「報告・伝達」は,ほとんどの場合,資料をつくって配布すればそれで済みます.したがって,「報告・伝達」のために会議を開くというのは,基本的には時間の無駄遣いです.(全部が無駄だとは言いません.「伝達講習」などの場合は,集まって学び合う方が効率的な場合もあります)
前の文章で3つの改善策を提示しましたが,次にその中の「アジェンダ」と「添付資料」について,少し具体的な提案をします.
1.始めに議題を吟味しよう
アジェンダ(または添付資料…以下同様)を作り出す前に,その会議で何を決めるのかを文章に書き表して具体的に考えてください(この文章はそのままアジェンダに盛り込まれることになります).その上で,下記の2点の確認をしましょう.
1)その問題は,本当に会議を開く必要性があるものかどうか.
報告や伝達だけの議題は,多くの場合会議を開くほどのことはありません.回覧や掲示という方法で処理してください.
2)その問題の,どの部分が参加者全員で検討すべきことなのか.
もし,その問題が参加者全員で検討すべきことでないなら,その会議に提出されるべきではありません.
2.誰がそのミーティングに参加するべきか考えよう
会議の目的に応じて,参加者を吟味します.会議の目的が「利害関係の調整」であれば,利害関係が生じる団体の代表者がその会議に出席すべき人です(利害関係が生じる団体の全員が出席する必要はありません).会議の目的が「創り出す」ことであれば,「創り出す」ための役割(分担・知識・技能)を持っている人が出席するべき人です.利害関係の調整のためのメンバーを加える必要はありません.
3.アジェンダには何を書くのか
アジェンダに書くべき項目のリストを下に記します.これは,最低限のリストです.注目すべき点は二つ.一つは,会議の終了時間を明記すること.もう一つは,今まで会議中に説明していたことを,アジェンダにあらかじめ盛り込んでおくことです(「議論すべき問題点」に書く).そうしておかないと,参加者が事前に考えをまとめることができません.
また,「議題」には,先ほどアジェンダを書く前に「1.始めに議題を吟味しよう」でつくった文章をそのまま掲載してください.今までの資料によくありがちな「○○について」というような項目立てだけでは,参加者はその○○の何について考えてくればよいのか分かりません.学部会のように,提案者が複数いる場合は,アジェンダではなくて,提案者が提出する添付書類の方に「議題」および「議論すべき問題点」を書くことになります.その場合は,なるべく資料の一番上に,箇条書きで書くのがいいと思います.
このようなアジェンダをつくるシステムの利点を,いくつか挙げてみます.
そしてもう一つ,会議は教員同士でやるものだけではありませんね.
電話での突然の相談事にも,スムーズに対応できるようになる(でしょう).電話での相談は,往々にして長電話になります.しかもたいていの場合,名案が浮かばずに会話だけがだらだらと続くことも多いです.そういう時は「では,○月●日△時に学校に来ていただいてお話し合いをしましょう」と言いましょう.電話では,アジェンダをつくるために議題の内容を整理して,話し合いの日程を調整するだけです.電話を切ったあとで,ゆっくりとアジェンダづくりと解決策の検討をしてください.
('97/1/10 発行)