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共同研究係だより(第3号)

題材の目標と個別目標の関係


【質問】題材の目標と個別目標の関係は?

【回答の骨子】
 今回の研究においては,「題材の目標」とはその題材における一人一人の「個別目標」のことであるととらえたいと思います.つまり,それぞれの題材には,その題材に参加する生徒の人数分の「題材の目標」があるということです.
 今までは,題材を作成したときに指導案や指導展開計画(展開例)に「題材の目標」というものを書いていました.この「題材の目標」は「題材設定の理由」とあわせて「題材のねらい」として一本化し,個々の目標とは切り離して考えることを提案します.

【詳しい回答】
 「個の課題」という言葉は,今回の研究のキーワードのひとつです.私たち共同研究係は,今までこの「個の課題」から導かれる「個別目標」の対極にあるものが「題材の目標」であるととらえてきました.「題材の目標」は平均的な生徒を想定したときの概括的な目標であって,必ずしも個々の生徒の現状に合うものではない.そういう全体的あるいは平均的な目標で,個性豊かな生徒を導くところに矛盾が生じると….ところが,そのような視点で研推委に臨んだら,ベテランの先生方に「題材の目標が固定的に初めからあるなんていうのは幻想だ!考え方が硬直しているのは君達の方だ!」と一蹴されてしまいましたので,その点について少し考えを改めたいと思います.
 経験豊富な(一部の?)先生方のおっしゃるところによれば…昔は4月に生徒が集まってから1カ月ほど実態把握をして,各生徒の課題がはっきりしてからそれに基づいて題材を決めていたのだそうです.だから,たとえ同じ様な題材でも年度が変わって生徒が入れ替わると「題材の目標」が当然変わることもあったわけです.そのようなやり方は,個の課題に対応しやすかったわけですが,一方で計画性に欠けるという欠点を抱えていました.そこで,指導に計画性を持たせるために,年間題材配当や題材の目標を作っていったのです.そうすることによって,1年間の見通しがつくようになりました.しかし,そのことが逆に指導の硬直化をまねいてしまっているという現状につながっていくのです.
 このような伝統的な考え方に立てば…つまり生徒の実態を把握してそこから題材を組んでいくというやり方をとれば…「題材が生徒の実態に合わない」という状態は,そもそもありえないということになります.同時に,生徒の個別目標と題材の目標がかみ合っていない題材というのもありえません.しかし現状では,生徒が入ってくる前の3月に翌年度の年間題材配当が決まってしまっていて,その題材展開計画の中には「題材の目標」が確固たる形で記述されています.そしてその題材に集う生徒は毎年違うのに,年間題材配当や「題材の目標」は毎年ほとんど変わらなかったりします.経験豊富でない私たち(?)は,どうしても印刷された題材や題材の目標の呪縛から抜け出せないでいるということなのかもしれません.

 そこで,係は考えました!
     それはきっと「題材の『目標』という言い方が悪いに違いない!」

 題材の「目標」と言ってしまうと,それは目標なわけですから到達を前提にした取り扱い方になります.題材にはあらかじめ2〜3種類の目標が立っていますから,その題材に参加する生徒全員がそこを目指して頑張らなければいけなくなります.それは「題材が生徒の実態と合わない」という考え方にもつながっていきます.また,題材の「目標」を作るときのことを考えてみると,個々の課題を達成させるための題材であっても,その目標を2〜3本の文章にまとめてしまうと,次のような問題が発生します.

 それで,「題材」と「目標」を切り離して考える必要が出てくるのです.「目標」を達成するのは生徒自身ですから,当然「目標」は個別に立つべきものです.一方,私たちはその題材を「ある意図(=ねらい)」にしたがって展開していきます.それは個別の問題というよりは,授業をする私たちの側の問題です.今までそのようなねらいは,「題材設定の理由」ということろに書いていたわけですが,実は「題材の目標」の中にも少なからず表現されていたのではないかと考えています.例えば,先にあげた「一人一人の表現能力を高めさせる」とか「主体的な取り組みができるようにさせる」などは,題材の目標の中に書かれていますが,「〜させる」という書き方から言っても,目標と言うよりは「ねらい」と言うべきものであることは明らかでしょう.
 つまり,今まで「題材の目標」とか「題材設定の理由」の中に書いていた授業者としてのねらいを「題材のねらい」としてくくりなおし,個々の「目標」はそれと明確に分けて別に記述した方がよいという結論にいたりました.係としては,題材とは「教材教具や展開を含めた学習活動の場面設定」であり,個々の生徒はそれぞれの目標を持ってそれに参加する,という考え方を提案したいと思います.別な言い方をすれば,「目標」を,授業をする私たちがもつねらい(=題材のねらい)と生徒の個別目標(=題材の目標)とに分けて考えましょうという提案です.そうすることによって,上にあげたような2つの問題を回避でき,今後の研究もやりやすくなっていくと考えています.


('96/7/17 発行)


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