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実態把握の留意点(高等部)


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 実態把握から目標設定までの過程で,私たち教員は保護者の方と何度も情報交換をする必要があります.その時に,教員が注意するべきことをまとめてみました.これ以外にも,ありそうです.お気づきの点があったら教えてください


1.はじめに

 私たちは,「個に応じた指導」を目指して研究しています.一人一人の生徒のライフスタイルやQOL(それを一言で言って「将来像」)を大切にした指導をするためには,生徒の家庭や地域での様子をなるべく詳しく知る必要があります.ところが,あまり詳しく知ろうとすると,本人や家族のプライバシーを侵害してしまうおそれがあります.

 高等部では,今年度,生徒全員の保護者に,実態把握のための調査用紙を配布して,記入してもらうことを計画しています.この調査は,たいへん多くの有用な情報を私たちにもたらすと思いますが,使い方を誤るとそれ自体が「プライバシーの侵害」になる危険性を持っています.

 そこで,私たちが保護者との話し合いの中から一人一人に合った課題を設定するために,また,不用意に「プライバシーの侵害」をしないために,もう一度,

を,頭の中で整理してください.

 その上で,実際に保護者と情報交換するときの留意点を,このプリントにまとめてみましたので,よく読んで失敗のないようにしていただきたいと思います.

2.実態把握の留意点(高等部)

(1)実態把握や課題設定に関する資料の紛失・情報の漏えいに注意する.

 特に,家庭訪問や学級懇談などで持ち運ぶときに,他の家に忘れてきてしまったり,他の家庭に資料を見せてしまうことのないように,取り扱いには十分注意する必要があります.

(2)指導に不必要と考えられる個人情報を収集しない.

 宮城県では,条例で「個人情報を収集するときは,あらかじめ当該個人情報を取り扱う目的を明らかにし,当該目的を達成するために必要な範囲内で収集しなければならない.」と決められています.また,「思想,信条又は信教に関する個人情報及び社会的差別の原因となるおそれのある個人情報」は,収集が禁じられています.

 「不必要な情報を収集しない」というのは,逆に言うと「必要な情報だけを収集する」ということです.そのためには,あらかじめ「本年度の課題」の原案を作っておくのがよいと思います.原案ができれば,不足している情報が何なのかがよくわかるはずです.保護者に「何でそんなことを聞くんですか?」と尋ねられたときに,「それは○○という目標の設定にかかわってくることなんです」というふうに,すぐに答えることができることが望ましいと思います.

 それから,「今までこういうことは,ご家庭でなさらなかったんですか?」とか「もっと早くから取り組んでいればよかったですね」などのように,過去のことについての発言も気をつけたいところです.実態把握は,基本的には現状をあるがままに認識することですから,過去のことを聞きたいと思ったときは,それが今後の指導にどう役立つのか,ちょっと考えてから聞いてください.

(3)課題設定にあたっては,生徒本人や家族の負担を考慮する.

 今年度は,実態把握のアンケートなどから,今までよりも多くの情報を得ることができます.特に,家庭や地域における生徒の様子が明らかになり,そこから様々な課題が浮かび上がってくるでしょう.しかし,それらの課題を一度にたくさん解決しようとすると,生徒本人や家庭に負担を与えてしまいます.生徒や家庭の状況を考えながら,無理のない範囲で課題を設定してください.

 また,家庭と学校で指導内容を一致させたいことがあるときに,「学校では,○○という指導をしますから,ご家庭でも同じようにやってください.」と,一方的に「学校側の指示に従ってください」というような言い方をすると,保護者の負担感が増す可能性があります.最初から家庭に多くの協力を求めずに,はじめは負担にならない程度でお願いしたほうがよいでしょう.その他の部分については,生徒が伸びていく姿を見てもらうことによって,保護者に「うちでもやってみようかな」と思ってもらえたら大成功です.

(4)あまり強引に説得したり,不必要に譲歩したりしない.

 学校と保護者…立場が違う以上,両者の見解が完全に一致することは難しいでしょう.意見がなかなか一致しない場合は,保護者の希望や意見を受け止とめた上で,学校としての見解を明示するべきだと思います.

 例えば,

「この目標は,学校の授業の時間数などを考えると,ちょっと1年では無理だと思います.それで,今年はまず○○という目標からスタートして,年度途中で到達した場合は,この目標にしてみましょう.」とか,

「この課題は,ちょっと学校の授業として取り上げにくいので,家庭で取り組んでみてはいかがでしょうか」のように.

(5)指導のためのすべての文書は,後々本人や家族に公開する可能性があることを頭に入れて作成する.

 学校で指導のために作成している文書(生徒の実態,本年度の課題,評価など)は,今後,請求されれば本人や家族に公開せざるを得なくなっていくでしょう.それらの資料は「生徒の実態」も含めて,保護者に見せられるような書き方をしていく必要があります.

(6)その他

3.保護者へ伝えること

(1)学校は,親御さんが学校に知らせたくないと思う個人情報については,収集しません.

 思想,信条又は信教に関する個人情報及び社会的差別の原因となるおそれのある個人情報ならびに学校での指導に必要のない個人情報は,学校として収集が禁止されています.学校での学習に関係がない,または指導しなくてよいと思うことについては,お話ししていただかなくて結構です.

(2)「本年度の課題」は,重点目標です.今年の全ての目標ではありません.

 これまで通り,例えば音楽なら音楽の指導目標に則って授業を行います.その中で特に個々に重点的に教えていきたいことを「本年度の課題」として明確にして,いろいろな指導場面で統一的に指導していこうと考えています.

4.保護者の希望があまり具体的でなかったら…

具体的な内容になるように導く
 例えば,「自分のことを自分でするようになってほしい」という希望があったら…
→具体的な行動を一つずつ点検しながら,今年一年でできそうなものを探していく.

問題点を,もう少し掘り下げてみる
 例えば,「問題行動を減らしたい」という希望だったら…
→対象を明確にして,問題点を分析しながら,その原因と指導の手だてを保護者とともに考える.
  1. その問題行動は,具体的にはどういう行動のことですか?
  2. それはどんな場面(どこ)で,よく起きますか?
  3. それが起きないのは,どんな場面(どこ)ですか?
  4. その問題行動を起こす理由は,何だと思いますか?
  5. その問題行動をなくすには,どうしたらよいでしょう?

※「個別教育計画の理念と実践」の資料7(問題行動の理解と対処法マニュアル)を参考にしてください.

5.具体的な作業手順

  1. 家庭訪問の前に,昨年度の「本年度の課題」などの資料を用いて,今年1年の重点指導内容を検討する(→今年度の「本年度の課題」の原案).
  2. 家庭訪問で,調査用紙を配布して,調査の意図と活用方法を説明する.その上で,少し保護者と話し合って,書ける部分はその場で書き込んでもらう.
  3. 保護者へのアンケートを回収(締め切りは6/2〔月〕あたりを考えている)
  4. 必要であれば連絡帳や電話で連絡を取りながら,「本年度の課題」を作成する.
  5. 「本年度の課題」のコピーを保護者に配布して,内容を確認してもらう.
  6. 必要なときは修正して,再度,完成版を保護者に渡す.
  7. 「本年度の課題」が完成!(6/21〔土〕)

※今年度は諸般の事情で実態把握の保護者宛調査が遅くなりました.

6.学部研究係からのお願い

 実態把握をしてみて気づいたこと,困ったことは,すぐにメモして「アイディア募集」の紙に書いて投函してください.

【付録】

−個人情報保護条例(抜粋)とその解釈−

第8条(収集の制限)

 実施機関は,個人情報を収集するときは,あらかじめ当該個人情報を取り扱う目的を明らかにし,当該目的を達成するために必要な範囲内で収集しなければならない.

2〜3(略)

4 実施機関は,思想,信条又は信教に関する個人情報及び社会的差別の原因となるおそれのある個人情報を収集してはならない.(以下略)

(解釈)

第9条(利用及び提供の制限)

 実施機関は,個人情報を取り扱う目的以外の目的で個人情報を利用し,又は提供してはならない.(以下略)

(解釈)


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