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平成8年度

高等部 学部研究のまとめ


I.はじめに
II.研究経過
III.各論
1.実態把握について
2.本年度の課題について
3.目標の設定
4.授業(題材)前後の記録
5.評価
6.題材配当
7.資料管理
8.学習指導案
IV.まとめと今後の展望
1.1年間を振り返って
2.来年度への展望


I.はじめに

 高等部では,年々拡大していく生徒の能力差に対応した指導をするために,昨年度末から生活学習を中心にした教育課程の再編成に取り組んでいる.そして,その効果を検証するために,生活学習の記録様式や学級経営案の改善を行ない,一人一人の生徒の変容(個別目標と題材・学期ごとの評価)を記録しながら,日々の指導にあたっている.

 本共同研究の主題は,「個の課題に応じた指導はどうあったらよいか」というものでる.そして,「個の課題に応じる」ための方策として「個人情報の管理・活用と目標・手だて・評価の明文化による授業・題材の改善」に取り組もうということになっている.この主題と方策は,「生徒の能力差に対応した授業を展開したい」という高等部の問題意識と方向性が同じである.

 したがって,わたしたち高等部は,現在進めている教育課程の再編成の取り組みの一環として「個人情報の管理・活用と目標・評価の明文化による授業・題材の改善」を行ない,それを学部研究としてまとめていきたいと考えて研究を行ってきた.

II.研究経過

 今年度の高等部の研究活動は,大きく三つのステージに分けることができる.以下に,順を追って研究経過を概観する.なお,今年度の研究で用いた書類の様式や記入例については,各マニュアルに一括してあるので,そちらを参照していただきたい.

第1ステージ:資料づくりの期間

 本年度が始まった4月から,夏期休業が明けるまでの約5カ月が第1ステージである.本研究の方向性を確認し合った上で,以下の作業を行なった.

  1. 各担任が,生徒一人一人の「生徒の実態」と「本年度の課題」を書き,それを高等部の全教員に配布した.
  2. 各担任が,生徒一人一人の「おおまかな将来像」を書いて,学級経営案の所定の欄に添付した.
  3. 各指導の形態の担当者が,受け持ちの生徒について,「本年度の課題」から年間の個別目標を設定した.

第2ステージ:授業研究とそれに関した討議の期間

 夏季休業が明けた8月末から1月末までが第2ステージである.この期間は,第1ステージで作成した資料を活用・修正しながら,1回の研究授業(指導主事訪問)と2回の授業研究会を行なった.また,それにかかわる討議の中で,書類の様式の検討や表記のしかたなど研究に関する具体的な検討を行ない,特に「本年度の課題」については,新たな共通理解のもとで全面的に書き直した.

 研究授業および授業研究は,いずれも生活学習で行なった.それぞれの題材名と研究のねらいは以下のとおりである.

 9月 5日 指導主事訪問
題材名:学芸会「アトランタオリンピックを楽しもう」
研究としてのねらい:生活学習の個別目標を授業に取り入れてみる.
11月15日 第一回校内授業研究会
題材名:作業所を知ろう(進路学習)
研究としてのねらい:生徒一人一人の様々な目標を達成させるための指導の手だてと授業展開を検討する.
 1月30日 第二回校内授業研究会
題材名:余暇を過ごそうII
研究としてのねらい:個別評価の様式と表記の方法を検討する.

第3ステージ:まとめと来年度の計画を練る期間

 2月と3月が第3ステージである.この期間は,第2ステージで検討したことをまとめ,次年度の作業内容を明らかにするために,7つの係に分かれて作業マニュアルの作成を行なった.マニュアルの内容は,以下のとおりである.

 来年度の高等部研究の作業は,これらのマニュアルにしたがって行う.マニュアルの内容については,各マニュアルを参照されたい.

III.各論

 この章では,以下の8つの内容について,今年度討議して共通理解されたことと,それに基づく来年度への展望(作業内容)を簡単に説明する.詳しくはそれぞれのマニュアルを参照していただきたいが,マニュアルとそれぞれの項目は必ずしも一対一に対応していない.

1.実態把握について

 生徒一人一人の「生徒の実態」や「本年度の課題」,あるいは「おおまかな将来像」を書いてみて,私たちは担任として把握している情報の少なさをあらためて認識し,より詳しい実態把握の必要性を実感した.普段,担任が直接指導している日常生活の指導に関する部分は比較的書きやすいのだが,班別になっている作業や各教科については,生徒たち一人一人の実態や課題がほとんど分からなかった.また,課題を決めたり将来像に思いを馳せるときに,保護者や本人の希望を把握していないために担任が一方的に決めたような形になり,その課題や将来像の妥当性に今一つ自信を持てないという状況だった.

 そのような経験を基にして,来年度はいくつかの新しい挑戦をすることにした.

保護者(学園)との共同作業

 家庭訪問や授業参観後の学級懇談の機会に,担任が保護者(学園)と意図的に情報交換をしていく.来年度は,実態把握のための新しい書類を導入し,それを手がかりにして具体的な話ができるようにする.

新しい様式の導入

 保護者(学園)と情報交換をするための資料として,以下の書類をあらかじめ作成してもらうことにした.実際の書類の様式などについては,実態把握マニュアルを参照のこと.これらの書類の作成にあたっては,安田生命社会事業団から出された「個別教育計画の理念と実践」を参考にした.

 これらの書類を,簡単な記入説明書とともに配布し4月の第2週をめどに回収,それを基に担任が一人一人の生徒の「本年度の課題」や「生徒の実態」,「おおまかな将来像」を作成するという手順で作業を進めていく.それらの資料を用いて,授業参観後の学級懇談や家庭訪問の機会に,保護者(学園)と指導内容について共通理解を図っていきたい.

 実施に際しては,保護者(学園)の負担をなるべく減らしたいと考えて,次の2点を確認した.

  1. 1年時(入学時)にしっかり書いてもらい,次年度からは変更点が少ない場合は赤書き・青書きで修正してもらう.
  2. プライバシーについては十分注意する.「書きたくないことは書かなくてよい」と必ず伝える.

「生徒の実態」の書き方…本年度の課題と一対一になるように書く

 このようなたくさんの書類を用いて実態把握をすると,1枚の用紙には書ききれないくらいの様々な実態が浮かび上がってくるだろう.それを全部書いていたのでは,用紙も時間も足りないし,必要な情報も重要度の低い情報の中に埋もれてしまうことになる.それで,担任以外の指導者が知っているべき最小限の情報は何かを吟味し,「生徒の実態」の欄には「本年度の課題」に関する実態のみを書くことにした.もし,そこに書かれていない実態について知りたい場合は,それぞれに生徒の個人管理ファイルに綴じ込まれている実態把握の各書類を直接調べるということにした.

2.本年度の課題について

 「本年度の課題」は,研究当初から,

という共通理解のもとに作成していた.しかし,実際に生徒一人一人の「本年度の課題」を作成してみると,次の四つの問題点が明らかになった.

1)実態把握や前年度の記録の蓄積が不完全で,課題を作成するのがとても大変だった.

 実態把握のところでも書いたことだが,実際に課題を書き出してみることで実態把握や(前年度の)記録の大切さを実感した.また,前年度の記録が,閲覧しやすい場所に存在することも大事なことであると痛感した.(→来年度からは3年間の実態と課題が一覧できるような書式を採用することになった)

2)表現が抽象的で,具体的に指導の場面で目標として採用しにくかった.

 担任の方では具体的に書こうと意図して書いたにもかかわらず,実際に書かれた「本年度の課題」を別の教員が自分の受け持っている授業の中で取り入れようとすると,書いた担任の意図がうまくくみ取れないということが多かった.例えば,「落ち着いて教師の指示を聞くことができる」という課題の学習場面を設定しようとするときに,「落ち着いて」というのがどういうことを差すのか分からないと指導の方針が立たなかった.このような問題を減らすためには,担任が「本年度の課題」を作成するときに,その生徒に対する具体的な指導の場面を想像して,例えば「よそ見をしないで」「教師の目を見て」「手を膝に置いて」などと具体的に書き換えてみようということになった.

 似たような例として,「指示されたことに,すぐに取りかかる」の「すぐ」というのはどういうことか?とか,「自主的に…」,「主体的に…」,「積極的に…」という語句も,具体的でない表現として書き換えるほうがよい語句とされた.

3)否定的な表現や実態を単に裏返しただけの課題が少なくなかった.

 「生徒の実態」の欄には,その生徒の不適切行動の記述もある.それは当然だろうが,その右側の「本年度の課題」の欄に,それをそのまま裏返したような課題が立つことがあった.やや誇張して例をあげると「イライラすると腕をかむ」という実態の右側に,「イライラしても腕をかまない」という目標が立ってしまう(これはかなり誇張しているが).

 このような記述も,先ほどと同じように,担任の意図−どう指導すればいいのか−が伝わらない.この問題を解決するために,次のようなことを考えて「本年度の課題」を作成しようということになった.

  1. その生徒の問題行動が出現する場面(出現しない場面)を想像しよう.
  2. どういうときにそうなるのか考えてみよう.
  3. どういう理由でその行動が発生するか考えてみよう.
  4. それが解消されるような目標(指導内容)が何か考えてみよう.

また,この問題に関する討議の中で,「問題行動を禁止する」という発想を越えて「問題行動を起こさなくてもすむような環境をつくって,その中で生徒の成就感を大切にしていこう」という方向性を確認した.

4)指導の場面としてリクエストする指導の形態に偏りが見られた.

 「本年度の課題」の各指導の形態へのリクエスト先を見てみると,「日常生活の指導」と「生活学習」と「すべての指導の形態」で全体の3/4を占めていた.これは,把握している実態の偏りを反映していると考えられ,来年度は実態把握の方法を改善することによって解消されるだろうと予想している.また,ひとつの課題を,様々な形態へリクエストする例も見られた.同じ目標をいくつかの指導の形態で協同して取り組むことはよいことだと考えられるが,配分先が多すぎると実際の指導場面で目標の立ちすぎになる可能性があるので,あまり多くの形態にリクエストしないように申し合わせた.

 これら四つの問題点とその対策を確認し,10月に「本年度の課題」の全面書き直しを行なった.11月および2月の授業研究会は,書き直した「本年度の課題」から個別目標を立てて授業を展開したが,(授業研究で取り上げた)進路・余暇という題材に取り入れられるような「本年度の課題」が立っていない生徒が多く,生活学習の担当者から担任へ「本年度の課題」の再検討をお願いする場面があった.

 このような経緯を踏まえて,「本年度の課題」作成マニュアルをつくった.その中で,次の3点を確認した.

1)3年間の記録(実態と課題)が一覧できる様式を採用する

2)課題の表記のしかた

3)「本年度の課題」や目標が変わったときの学部内での情報の伝達方法(資料の書き換え)

3.目標の設定

 今年度は,各生徒の指導の形態ごとの「個別目標」と,その生徒が参加する「題材の内容」が,今一つしっかりと結びつかなかった.年間目標が年度半ばの9月に立ったということもあり,旧来の「題材の目標」を手がかりにした指導から個の課題を前面に出す指導への転換が,完全には行なわれなかったといえる.

 そこで次年度は,「個別目標」と「題材の内容」の結び付きを,年度当初からもっと意識して計画的に授業展開が行なえるように,「年間到達目標と題材の対応表」という書類を用いることにした(年間題材配当マニュアル参照).

 この「年間到達目標と題材の対応表」は,次の2つの役割を持っている.

  1. 一人一人の生徒の生活学習における個別目標を,どの題材でねらって学習させるかということを計画し,年間の見通しを立てる.(→○印)
  2. 題材実施後に,計画通りそれぞれの個人目標をねらいとして授業が展開できたかどうかを点検し(→◎印,○の上に×印),次年度の題材配当計画を行なうときの資料とする.

 題材のT1が,その題材の内容を考えるときに,この表で各生徒の(年間の)個別目標の中のどれにねらいを絞るのかをチェックして,それにしたがって題材の展開や内容を考えていけば,今年度よりも各生徒の「年間目標」が題材や授業の中にしっかり反映されるものと考えている.

4.授業(題材)前後の記録

 今年度,題材の開始前と終了後に記録していた書類は,次の通りである.

 今年度は,学部共通の書類を用いてはいたものの,書類の書き方や使い方については特に約束事を設けていなかったので,生活学習の班ごとにばらついた対応になってしまった.それで来年度に向けて,これらの書類の書き方について,以下のような確認をした.

指導展開計画

 この書類については,来年度も今年度通りに記入する.題材が始まる前に,この書類を資料としてT−Tの打合せをする.(次に記した「生活学習・記録/担当者用」による個別目標の打合せと一緒にやることになるだろう)

生活学習・記録/担当者用

 題材開始前に,指導展開計画に基づいて「年間到達目標と題材の対応表」で個々の目標を確認して,担当する生徒の題材の目標と指導の手だてを書き入れる.その際,一つの題材に目標が3つも4つも立たないように,課題を厳選するように心がける(2つ以下).また,この書類を用いて,題材前にT−Tの打合せをする.

 題材終了後は,到達度評価の欄に,○,△,×の記号と補足説明を書き入れる(記号の意味や補足説明の書き方については,後の「評価」のところで詳しく述べる).また,個別目標以外のことで個別の内容について記録しておきたいことがある場合は自由記載欄に書き,それを学期・学年末に「生活学習 題材別 個人記録」(様式4−1)の裏側に貼ことにした.また,個別の記録ではなく,授業全体に関する反省等は,この書類ではなく次に述べる「指導反省記録」に書く.

指導反省記録

 題材全体についての反省記録は,この書類に書く(個別の記録は書かない).

年間目標と題材の対応表

 年度当初に,各題材で個々の生徒のどの目標について取り上げるのかが計画されている.それは,この書類に○印で表されている.実際に題材を展開して,それが計画通りに行なわれたかどうかを◎印や○×印でチェックする.

5.評価

 評価には,次の3種類がある.

 この中で今年度は,主に「題材の評価」について取り組んだ.授業研究にかかわる話し合いの中で,次の指導へつながる評価の書き方について検討し,来年度へ向けていくつかの共通理解を図った.

1)授業中のメモを活用するなどして,事実に即した具体的な文章で表す.

2)3種類の記号による評価は,次の指導の方向性を指し示すものとする.

目標が達成されていて,その目標の指導が完了する,または,レベルをあげて次の目標を設定したほうがよい場合.

充分定着していないので,次回にもう一度同じ目標を設定したほうがよい場合.

×
達成できなかった.達成すたてには今後もかなりの努力を要するので,次回はレベルを下げた目標を設定したほうがよい場合.

3)到達しなかった課題の評価は,到達度の途中経過で表現する.

 例えば「1000円以内の買い物でレジで正しくお金を出すことができる」という目標が達成されなかったとき,「正しくお金を渡すことはできなかった」と書くのではなくて「100円硬貨のみの場合はうまくできたが,500円硬貨が混じると間違えてしまう」というように書こうということ.つまり,目標に向かってどこまで向上して,どこからできないのかが分かるような評価の文章にしようということである.そうすることによって,次の個別目標が立てやすくなり,次の指導の手だても講じやすくなる.おまけに,否定的な表現をしなくてもすむので,保護者に評価を見せられるようにもなる.

4)評価の欄に次回の指導の手がかりを書く.

 題材終了時に書く「生活学習・記録/担当者用」の「到達度評価」の欄に,今回の指導の手だてについての評価や,次回の指導へ向けての指導の手だての改善の方向性,次回の個別目標をどのあたりに設定すべきかについても記録する.

6.題材配当

 毎年,年度末になると,次年度の教育課程の編成の中で,各指導の形態の年間題材配当の計画を作成する.今までは,題材の指導反省記録を主な資料として行なっていて,個別目標に立ち帰って題材の内容を点検するシステムにはなっていなかった.個別目標と題材の内容の関連については,担当者の頭の中で処理されていたり,何人かの生徒については議論になることもあったが,一人一人の生徒について資料を用意してはいなかった.

 来年度からは,個々の生徒について「年間到達目標と題材の対応表」を作成し,年度当初に個別目標と題材の内容の関連をはっきりさせ,実際の授業で計画通りにできたかどうかを評価することにした.そうすると,年度末には,1年間の指導の状況が分かりやすい形で(記号の配列で)示されていることになる.次年度の題材配当の計画の際に,この「年間到達目標と題材の対応表」を点検することで,より個々の目標が反映された題材の計画ができると考えている.

7.資料管理

 資料管理については,「情報の共有」,「プライバシーへの配慮」という二つの点に注意して検討を行なった.

個人情報

 個人の情報は,生徒一人に一冊のファイルを用意し,実態把握の書類,「本年度の課題」,「生活学習題材別個人記録」,「年間到達目標と題材の対応表」などを綴じ込む.学期末・学年末には,それを学級経営案の一部として教務に提出する.

班の情報

 班別にファイルを用意し,「指導展開計画」,「生活学習・記録/担当者用」,「指導反省記録」などを綴じ込む.班の各生徒の「本年度の課題」のコピーも,班のファイルに綴じ込む.

保管場所と管理

 個人別のファイルおよび班ごとののファイルは,全部で80冊ほどになる.それらの保管場所として,職員室の高等部の領域に,新たに棚を設置して保管することを考えている.また,資料の閲覧の際には,利用・閲覧簿の記入を義務付けて,慎重な扱いを意識付けることにした.

8.学習指導案

 1回の指導主事訪問での授業公開と,2回の校内授業研究会において,個の課題を明示した指導案の書き方について検討を行なった.その授業が,集団で行なわれつつも,目標や指導の手だてが個別に用意されているということが伝わるような指導案をめざして取り組んだ.

 しかし,個別の内容を増やしていくと,どうしても分厚い指導案ができ上がってしまう.この問題については,次年度も引き続き考えていきたい.

IV.まとめと今後の展望

1.1年間を振り返って

 今年度1年間は,「試行の年」と位置づけて「今できるところから変えていこう」ということで研究に取り組んできた.したがって,ある程度行き当たりばったりになることは覚悟の上であった.実際,「本年度の課題」にしても,題材の個別の記録の様式にしても,年度途中で書き換えたりして,まさに走りながら考えるといったふうであった.

 また,高等部としては,「年々拡大していく能力差に応じた指導をする」という学部としての課題に取り組みはじめたところで,個別の記録を蓄積して教育課程の改善の効果を点検しようとしていた矢先だったので,本共同研究は,渡りに船という側面もあった.

 そのような高等部ならではの背景もあり,先の見えにくい研究活動ではあったが,「個の課題に応じた指導」を目指した研究活動は,高等部の教員20名の努力によって当初の予想よりもうまく事が運んだという印象を持っている.細部では,もちろんまだまだ検討の余地がたくさんあるとはいえ,この1年の最も重要な変化は「個の課題」を意識して,題材の内容を考えたり授業を行なったりできるようになったということである.日常の職員室での会話の中や,題材に関する打合せの中で,「本年度の課題が…」とか「この生徒の将来像は…」などの会話が普通になされるようになったことは,この1年の研究活動の大きな成果といってよい.

 一方で,従来の指導のやり方や指導内容が、新しいシステムの中でどう位置づけられて(あるいは整理されて)いくのかということを問い続けた1年でもあった.その一つは「生活学習という指導の形態がもつ指導領域と,個別目標の関係をどうとらえるか」という問題である.生活学習は,集団で行なう合せた指導であり,生徒は1年を通して様々な題材を経験することで生活力を高めていく.そのような生活学習の目標を,「1年間で到達可能な具体的な行動目標」という観点のみで作っていくと,今まで指導してきた内容の少なくとも一部分が抜け落ちていくのではないだろうかというのである.これについては,係からは「集団の教育力を期待しつつも,個々の課題を明確にして授業を展開する」というふうに理解してほしいと言っているが,そう言っている係も含めて,今もなお腑に落ちていないというのが実情である.また,いわゆる経験題材と呼ばれる題材の中で,生徒の反応を確かめながら指導内容を変えていくタイプの授業がある.例えば,それぞれの生徒に合った余暇を探そうという目的で行なわれる授業では,いくつかの余暇的な指導内容を試してみて,生徒の反応を探っていくことになる.そのようなときに,その題材における生徒の目標というのが,どのように表記されればよいのか?これについては,今もっていいアイディアがない.

 もう一つ,やや別な観点からの問題点として,「記録を書くための時間がない」あるいは「教材を準備するための時間が足りない」という問題もある.それらの作業をする時間を奪っているのは,たくさんの長時間の会議だろうと思われるが,これについては研究の範囲を越えるので,学校運営の視点から見直していく必要がある.ただし,高等部の教員一人一人が,会議の効率化を意識して参加方法を改善することで,かなりの時間節約になるだろうと思われる.

 このように,少なからぬ問題を抱えながらの1年間であったが,今年度の経験を元にして,来年度の作業計画−マニュアル−もでき上がり,来年度のスタートを待つばかりとなった.

2.来年度への展望

 来年度の作業計画−マニュアル−が完成し,走りながら考えてきた「試行の年」が終わった.実態把握から評価に至る指導の流れの中で,今年度はどちらかというと課題の設定や評価など,教師作業の部分に研究の重点が置かれていた.それで来年度は,今年度あまり深く検討できなかった,実態把握や題材・授業の改善のほうに重点が移行していくだろうと考えている.それらの業務は,教師だけの作業ではなく,保護者(学園)や生徒との共同作業ということになる.

 それを踏まえて考えると,高等部としての来年度の重点課題は,次の3つである.

1.保護者(学園)との連携

2.指導技術の向上

3.指導の流れの改善

 保護者(学園)との連携は,年度当初の実態把握と学期末・学年末の評価の機会をとらえて検討していきたい.指導技術の向上については,授業研究や日々の授業実践の中で研鑽を積んでいきたい.指導の流れの改善については,日々の実践や抽出事例の研究を通して,1)マニュアルの改定,2)チェックリストの作成,3)記録の量の調整の3つの作業を行っていきたい.

 


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