MAP研究会は,宮城県教育公務員弘済会の支援によって活動しています。
■ 日 時: | 2011年 7月31日(日) 10時〜17時 |
■ 場 所: | 国立花山青少年自然の家 |
■ 内 容: | 体験ベースのクラスづくりワークショップ [1st Stage] 〜子どもが元気になるために、今、教室でできること〜 |
■ 担 当: | あやや,いのき,タッキー,みっちぃ,Sphinx |
■ 報 告: | Sphinx |
■ 参 加 者: | 20名 |
7月31日(日)に,MAP研究会主催の教員向け講座「体験ベースのクラスづくりワークショップ」を開催しました。教員経験が1年ないし数年の若い先生(講師を含む)からベテランの先生まで20名の参加者が集まり,児童生徒が安心していられるクラスづくりについて楽しく学びました。
このワークショップは,311の震災を受けて急きょ開催されたものです。私たちのもとには,津波の被害を受けた沿岸部の学校で,特に若い先生がクラス運営に苦労しているという声が届いていました。津波の被災地では,二つの学校を一つの校舎に押し込めて運営せざるを得ない地域もあり,こどもたちも教職員も互いに疲弊していて,なかなかこれまでのような穏やかな学校生活を送ることが難しい現実があります。
加えて,例年夏休みに行われる公立学校教員初任者の宿泊研修も今年度は行われず,教職員対象のMAP研修会もまったく行われない(今年度の予算0円)ということで,若い先生が悩みを分かち合ったり,ベテランの先生からアドバイスをもらうという機会も激減しています。
そのような状況の中でMAP研究会が果たすべき役割があるだろうという話が6月の総会で持ち上がり,短い準備期間ではありましたが,教職員向けにMAPの講習会をすることになりました。講習会の名称は「体験ベースのクラスづくりワークショップ」です。今までの「MAP体験会」のような名前を敢えてつけずに,参加者に伝えたい内容をストレートに講習会名にしてみました。
今回のワークショップのメインテーマはフルバリューです。児童生徒や担任の先生が,互いの存在や気持ち,考えを互いに尊重しあって,安心してその場にいられる教室をどうつくっていくか。これを1日の活動(体験)を通して学んでいくことにしました。被災地の学校で,クラス運営に苦労している若い先生に焦点を当てて考えています。ワークショップのチラシには,次の3つのポイントを明記しました。
互いに尊重しあって,安心していられる教室をつくるための手だてとして今回選んだのが「ビーイング」です。1日の活動時間を大きく3分割して,序盤はビーイングをつくるために必要な活動と雰囲気づくり,中盤はビーイングづくり,そして終盤はつくったビーイングを活用する方法を,それぞれ体験的に学びました。
さらに,今回集まった参加者の集団は,そのままクラスのこどもたちの比喩となっています。参加者は個々のこどもたちがどんな気持ちで集団に参加しているかを自分の気持ちとして感じながら1日を過ごします。と同時に,1日の活動は,ひとつのクラスの1年間の比喩にもなっています。10時にワークショップが始まったときは,互いに知ってる人が少ない「始業式」の頃。そしてお昼休みは「夏休み」。午後の活動が2学期,3学期で,活動が終わるときが学年末です。
今回は,このような流れで活動を行いました。この掲示物で一つだけ追加があります。午前の最後にキーパンチを行っていますが,その前に「ミラー・ストレッチ」も行いました。
この模造紙に書かれたものが「ビーイング」です。今回のビーイングには,この集団の中に「学びやすい環境をつくっていく」ために,自分がこうありたいという目標,その目標に近づくために今から自分が行動していくこと,そのためにみんなに期待することの3つを書き入れました。
ビーイングをつくる過程で出てくる言葉や気持ちを共有することで,互いの気持ちを理解し,尊重しようという意識が高まります。さらに,集団のルールや価値観を,与えられるのではなく自分たちで決めたということによって,それを守ろうという責任感を生み出します。
まとめは,1日の活動を通して学んだことを,自分の学校や教室に持ち帰るための時間です。1日の活動をしただけでは教室にうまく持ち帰ることは難しいのです。活動の意味や自分の気持ちの変化などを振り返り,自分のクラスの状況と結びつけながら考えることで,どうやって持ち帰ったらいいかが見えてきます。
ビーイングに書かれた言葉の一つ一つは,そのクラスの仲間で共有できた,そのクラスの価値感であり規範(ルール)です。皆さんは,クラスのルール作りを1年のどこに位置づけていますか? 4月当初の学級の時間に行うことが多いでしょうか?
今回,ビーイングをする前に,いくつもの活動があったことに注目してください。クラスのルールをつくる前に,必要なことがあります。それは,このクラスにどんな人が集まっているのかを知り,このクラスの人たちと活動するとどんな感じなのかを感じること,つまり共通体験です。共通体験の中にちょっとした達成感があって「このクラスの人たちと一緒に活動するとなんだか楽しいぞ」と感じることができれば,その後のビーイングにも意欲的に取り組むことができるでしょう。
ビーイングに意欲的に取り組むことができれば,それを守ろうとする意欲も高まり,良い循環でクラスが運営されていきます。安心していられるクラスを,児童生徒が自分たちでつくっていけるのです。
今回のワークショップのメインテーマは「フルバリュー」です。「互いに相手を尊重しましょう」,「居心地のよいクラスにしましょう」という言葉の中には,どう行動すればそうなるのかというところまでは含まれていません。どう行動すれば互いに相手を尊重したことになるのか,どう行動すれば居心地のよいクラスになるのか。そのことをもう少し具体的に言葉で表したものがビーイングです。ビーイングは,フルバリューの理念を言葉で「見える化」したものなのです。
具体的な言葉で,それも,体験をとおして自分の中から出てきた言葉で共通理解するから,こどもたちはそれを実践することができます。時にぶつかり合ってしまうこともあるかもしれません。そんな時も,このビーイングを真ん中においてみんなで考えてみましょう。ビーイングに書かれた言葉の中に,ぶつかり合いを乗り越えてるヒントがあるかもしれません。あるいは,話し合う過程でビーイングに追加したい言葉が出てくるかもしれません。
このビーイングは,一度つくったらそれで完成ではないのです。そのクラスが続く限り,クラスのメンバーの成長に合わせて,ビーイングも成長していきます。ビーイングに足りない言葉があるとみんなが思ったら,すぐに書き加えましょう。ビーイングは,そのクラスが解散になる日まで,クラスの成長を見守ってくれています。
1年間を見通す大きなビーイングの他に,運動会や学芸会といった行事にあわせてピンポイントのビーイングをつくることも効果的です。例えば,その行事をどういうふうに成功させたいかという目標を真ん中に置いて,それを実現するために,自分がしていきたいこと,みんなに望むことをまわりに書き出してみるというやり方もあります。
行事の準備に取り組む前に,そのビーイングを見て気持ちを一つにする。準備が終わったときにビーイングを見ながら振り返り,必要があれば言葉を書き足す。行事が終わった時に,ビーイングを見ながら学びの過程を振り返る。そんなふうに使ってみてはいかがでしょうか。
ビーイングの導入に不安がある場合は,こういうピンポイントのビーイングから取り組むのも一つの手かもしれません。「まず」やってみましょう。
また,1年間のビーイングを,例えば1学期にひとつつくってみて,そして2学期はあらためて新しいものにしてみる。そんな使い方もあります。クラスのこどもたちの様子を見ながら,柔軟に取り組んでみてください。
ワークショップ後に,メールで寄せられた参加者の声を掲載します。
あのときにできたつながりは、着実に、強いものとなりつつあります。私は、この1学期、とても苦しい状況での学校再開だったもので、本当に疲れがたまっていて…そんな中での研修会で、本当に、頼れる先輩や仲間たちと出会え、一緒に活動できたことは、心身のリフレッシュになったのでした。色々な事情で、今年は担任を持ちながらも、実際的なクラス作りができないような状況にあります。だから、学校に帰ったら生かせ…ないよな。みたいに思いつつも、かえって、「クラス作り」ということを貪欲に考えるようになりました。クラスが、この間の研修中のように、本当に安心できる、高まりあっていく集団だったらどんなに素敵なことでしょう! ここでのつながりを大切にし、ここでエネルギーをたくさんもらって生涯パワフルな先生でありたいと思います。
当日,会場で紹介されていた参考図書です。みんなで持ち寄ったら,同じ本が2冊,3冊…。同じ本がそろうということは,みんなその本を読んでいて,しかもお薦めしたいと思っているということですね。今回ファシリテーターとして参加してくれたKAIさんの著書もありました!
【Project Adventure Japan 資料・研究】
今回のワークショップの理解を深めるために最適な参考資料が,プロジェクトアドベンチャージャパンのホームページからダウンロードできます。上記リンクをたどって,ぜひ印刷して一読してください。
こちらの報告の中の「事例(8) PAJ 10周年シンポジウムの発表より」の中に,kenyaが2年生のクラスで取り組んだビーイングの紹介があります。また,「事例(9) PAを参考にした幼児教育の取り組み」は,かりっちが保育園の5歳児クラスでビーイングに取り組んだときのお話しです。低学年のクラスを受け持っている先生には,特に参考になると思います。
※画面が急に緑になりますがビックリしないでください。昔のMAP研のホームページはこうだったんです!
今回のワークショップは,PAJのはるみちゃんに全面的にスーパーバイズをいただいて行われました。また,東京都の派遣教員として南三陸町の入谷小学校の支援に入ってくれていたKAIさんには,私たちと一緒にファシリテーターとしてワークショップをつくっていただきました。さらに,玉川大学で冒険教育の研究をしているりょうちゃんも,このワークショップのために東京から来ていただいて,はるみちゃん,KAIさんとともに準備過程から3日間を共に過ごしていただきました。多くの方々の支援があって,ワークショップを開催することができました。この場を借りて皆様に感謝を申し上げます。