MAP研究会は,宮城県教育公務員弘済会の支援によって活動しています。
■ 日 時: | 2009年1月17日(土) |
■ 場 所: | 東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館)→Google Map |
■ 内 容: | 「MAPこんなときこう使うシート」実践事例発表 PAをベースにした教科学習—作家の時間等— |
■ 講 師: | 甲斐崎博史先生 |
■ 担 当: | 研究委員 |
■ 報 告: | Sphinx |
30名 |
今年の一大イベント「MAPミーティング2008」が,東京エレクトロンホール宮城で開催されました。今年のゲストは,小学校で「作家の時間」を実践されているKAIこと甲斐崎博史さんです。宮城県内で初めて開催される「作家の時間」のワークショップ。盛り上がりましたよ!
活動内容 | |
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9:30 10:00 | 受付 |
10:10 | 開会行事 |
〜 11:30 | |
12:00 | ワークショップ【「MAPこんなときこう使う」シートを用いて】 |
12:00 13:00 | 昼食休憩 がんばろう栗原・即売会 |
〜 16:00 |
ワークショップ【PAをベースにした教科学習 —作家の時間等— 】 講師:甲斐崎博史先生 |
16:00 16:10 | 閉会行事 |
「MAPこんなときこう使うシート」は,MAPを学んだ指導者が,実際に教室でMAPをどのように活用したのかという事例を集めたものです。MAPの考え方をどういかして,アクティビティをどうアレンジしたか。いつ,誰を対象に,どんなことをどんなふうにしたら,いかなる効果や失敗があったのか。そういうことが,今までの事例集よりも生々しく,赤裸々に書かれているので,MAPを使った実践の雰囲気がよく伝わるのではないかと思います。
MAPを学んでいる人なら,ここに書かれたものから自分なりのアレンジや新たな工夫ができると思います。また,このファイルはどんどん追加していけるようになっています。この中身がこれからどんどん増えていって,私たちの共有財産になっていけばと考えています。
では,この「MAPこんなときこう使うシート」から実践事例を発表していただきましょう。
小学6年生の国語に出てくる宮沢賢治の「雨ニモマケズ」。最後の言葉は「サウイフモノニ/ワタシハナリタイ」だが,これを「ナリタクナイ」とひっくり返すとどう見えるか。視点を逆にすることで,賢治がなりたかった姿への理解が,より深まるのではないかと考えました。
授業の導入では「指回し」を行いました。頭の上で時計回りに回しているのに,そのまま降ろしてくると逆回りに見えてくる…。「逆から見ると同じものでも違った風にみえるね」とおさえ,「ナリタイ」ではなく「ナリタクナイ」という詩を作ってみようと本題に入りました。2人1組のペア学習で作品づくりを行い,ペアごとに読み手を決めて共有し,感想を発表しました。
普通は「どんなものになりたいのかな」などと一問一答のようなつまらない授業になってしまいがちなところですが,逆から行くとたいへん盛り上がりましたた。こどもたちは逆の視点で考えようと頭を働かせたことで,その逆が宮沢賢治がなりたいものなんだなという理解が深まったようです。
ペア学習にしたことで,1人では考えつかないことも互いに共有でき,練り合いの基礎の部分を学ぶこともできました。ただし,ペアの数が多かったために発表時間に時間を取られてしまって,まとめの時間が少なくなってしまったのが反省点です。それから,2人でやると子どもなのでどんどん脱線してしまいます。『「ナリタクナイ」といっているのはあなたではなく,宮沢賢治なんだよ』と釘を刺す必要が何度かありました。
最後に実際の児童の作品を朗読しました。
児童がよくここまで完成させたと感心し。こどもたちの作品の中で,表現としてまずい部分が出てきたときに,どういうふうにしたのか? | |
いのき: | 「ナリタクナイ」姿なので,「それはヤダよね〜!」と指摘する程度にした。 |
参加者: | いのきの実践を参考に私もやってみた。「ナリタクナイ」を最後までやると時間がかかる。いくつかの部分に分けてそれぞれ分担し,後でからみんなで組み合わせるというのも楽しい。時間も短くてすむ。とても楽しい授業だった。作り手が本人になってしまうという話があったが,「ナリタクナイ」というのが入っていることで,こどもたちには逆に賢治の姿が見えてくると感じた。 |
いのき: | 分割については,こどもによってやりたいところがあったりするのかなと思って,悩んだがこれでいった。子どもに書かせるときは「そういうものにワタシハナリタクナイ」というところは書かせて,そこから始めた。 |
参加者: | 最後に「コンナ現代ッ子ニ/ダレガシタ」という,この業界で有名なパロディがある。 |
なぜか毎年中学3年生を担任する巡り合わせ。やんちゃなグループとまじめなグループがなかなか混じり合わないのが毎年の悩みの種です。
中学校生活の最後の1年を盛り上がるものにならないか,満足感・達成感を得られるものにならないかと考えて,クラスの一人ひとりの思いが書かれた,自分たちの手で作り上げる学級旗づくりを行っています。クラスのどの生徒もこの学級旗を大切に扱い,卒業するときには「成人式のときに持ってきて」と担任に預けたり,成人式でみんなで持ち寄ろうとバラバラにして持ち帰ったりと,それぞれ自分たちで相談して扱いを決めています。
学級開きでは,学級目標,係決めに加えて,学級のキャッチフレーズ,学級のマーク,学級カラーを考えます。
キャッチフレーズというのは,みんながひとつになれる言葉です。みんなで黒板にいっぱいアイディアを出して,その中から選びました。マークは,学級目標とキャッチフレーズを受けて,自分たちを象徴する形を決めます。文字でも絵でも「こんなかんじ」というイメージだけでもいいので,一人一人考えて黒板に全部張り出して,その中から生徒たちが相談して決めました。
学級カラーは,1年間学級の掲示をその色を中心にしてやると話して考えさせました。体育祭のはちまきの色,合唱コンクールのときの楽譜の台紙の色なども,この学級カラーを採用しました。
写真の学級旗は,数年前のクラスのものです。
このクラスは,キャッチフレーズを書くときに,全員一人一文字は必ず書こうとこだわっていました。不登校の生徒もいましたが,家庭訪問のときにこんなことをしているよと話をしたら,その子も一文字書いて参加してくれました。
マークの図案をつくった生徒は普段目立たない生徒でしたが,マークを決めるときに,いろんな生徒に「これがいい」と言われて(誰が書いたかは分からないようにしていたが)とてもうれしそうにしていました。そこで,スキャナで読み込んでシールにして,毎日の振り返りシートなどで使ったり,筆入れや通学カバンに貼りたいという生徒に分けてあげました。生徒たちは,うちのクラスだけのマークだなどと言って,喜んで貼っていました。
行事にこう取り組みたいという生徒たちの思いがあるときは,そこに向けて何が必要か,どう取り組んでいくかなど,生徒たちでいろいろ考えて,キャッチフレーズの周りにそれぞれの言葉を書き足して行きました。
体育祭のときの入場行進のときや,リレーのときの応援でも使われるなど,行事の中の重要な場面で使われていく中で,この学級旗は次第に生徒たちの心のよりどころになっていきました。
これをやり始めたとき,指導主事訪問で学級旗に書き込むという授業をやってみたところ,違う人が見てるというだけで固まってしまって動かなくなってしまいました。また,参観日に保護者に書いてもらおうとしたら,保護者同士で譲り合ったり,こどもが「母ちゃんやめろ!」となってしまって,活動にならなかったという失敗があります。
学級旗には「クラスのために必要なこと」を書き込んでいますが,「自分はどうするのか」は別な形で提示しています。行事のたびに「これだけはがんばる」というものを決めている。例えば「合唱のとき口を開ける」など。行事の後には「Good and New」(行事を通して発見した友だちのよい面や新しい面)を書いて共有しています。
成人式のときにこの旗を持ってきてくれと私に預けるクラスもあれば,卒業時に全員で切って持ち帰り,成人式であわせようというクラスもあります。自分たちでつくった旗なので,扱いについてはそれぞれすごく相談して決めています。
これをしたからクラスがとってもよくなったというわけではなく,苦労は絶えなかったのですが,クラスのまとまり,所属感をいくらかでも感じてもらえてのではないかと思っている。
参加者: | 学級旗に書いてあることから,「今,必要なことだよね」と使ったこともある? |
中学生になると学級での活動は教師が口を出すところと出さないところがある。生徒たちにまかせると必ず衝突が起こる。全体に話をしなくてはいかないときは,この旗に戻って「どうかんじるの」と投げかけをしたりした。 | |
参加者: | 中学校3年生ではビーイングが成り立っていることが分かった。高校ではどうか? |
部活ではよく使う。今,不安に思っていることとか,みんなに守ってほしいことなどを書かせてから,部活としての目標,自分の目標などを書いていく。部活は目的を共有できているので実践しやすいが,クラスで全体のビーイングというのをやっているというのは正直ない。ぺったんメモで「こういうのをしてほしくないこと」などを一人一人で書かせて,全体で共有するという取り組みはある。 |
グループ学習の充実を図るためにということでお話ししたいと思います。まず始めに,グループ学習のメリットについて確認しましょう。
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先日,グループ学習を取り入れた授業というのを参観しました。古今和歌集のひとつの和歌を題材にした授業でした。まず個人でノートに自分の解釈を書かせます。その後,生活班で解釈について話し合いをします。次に,生活班の代表者が他の班に行って,自分の班の成果を発表しました。
事後検討会では,授業を評価する発言のオンパレードでしたが,私にはグループ学習が成立していたとは思えなかったのです。生活班6人のうち,話していたのは活発な男子1人か2人。他の生徒は,話し合いと言っても,まだ自分の考えを書いているような状態でした。また,大人しそうな一人の生徒がボソボソ言ったひと言は,私にはよい意見だと思えたのに,班では無視され流されてしまっていました。そんな状態なので,他の班に行って説明している意見を聞いても「それは君の個人的な意見であって,班の意見ではないのでは?」としか思えませんでした。こういう授業はよくありがちで,私たちもやってしまいがちです。
では,こういう轍を踏まずにグループ学習の充実を図るためには,どうしたらいいでしょう。プリントの1にグループ学習の充実を図るためにどうしたらいいか書いてみてください。(2分)
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ありがとうございます。よく出てくる意見は,MAPのアクティビティやエンカウンターのエクササイズを行って普段からよい関係をつくっておく,学習者の学習状況を十分リサーチする,課題を設定し手立てを準備する,などです。
私の主張としては,グループ学習の充実を図るためには,ペア学習を各教科で行うことです。グループ学習の前にまず対話ができていない。その状態で安易にグループ学習に流れると,ぼんやりしたグループ学習になってしまう。1対1の対話—ペア学習—が原点であり,基本であると考えています。ペア学習は相手がひとりしかいなくて逃げ場がないので,話し手には「この人に話す」という相手意識,聞き手には「この人の言葉を受け止めるのは自分だけ」という自覚を,それぞれしっかりと培うことができます。
しかし,ペア学習もさまざまな手立てを講じて,きちんとステップを踏まないと上手くできないのです。そこで,国語科でペア学習のやり方を教えて,それを各教科でもやってもらっています。例えば,理科では実験で,体育でもリレーのときに。それぞれの教科で行うと,その度にペアが変わるので,いろんな人と交わり,理解が深まります。
八木重吉の「ねがひ」を題材にして,ペア学習を行いました。
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私としては,ここでペアで話す・聞くの基本を学びましょうと言うんです。態度も大事だけどスキルも大事で,今の場合は,聞き方スキルで「相手の目を見て話を聞く」というものを,指示ではなくこんなふうに自然な形でやっていきます。
他には,例えば「暗唱かるた」。持ってきたのですが時間がないのでできませんが,これを使って,距離感を縮めたり,競うにはルールがあるということを伝えていきます。また,世界のナベアツで協力とか課題解決に持っていきます。
また,問答ゲームでは,受けたら返すというのをします。ペア学習でありがちなのは「ボクの意見はこうです」「私の意見はこうです」「ふ〜ん」と二つの意見が絡まないんですね。絡むにはどうしたらいいか,受けたら返すというトレーニングが必要です。二つの意見が絡んでくると,化学変化が起こる—これが練りあいです。私たちがグループ学習で見たいのはこの化学変化です。問答ゲームをすることで,それができるようになってくることが分かりました。
まずペア学習で対話を通して人とかかわる楽しさを実感させる。二人で学習すると自分一人よりは考えが広がったり深まったりするよね,と学習効果を実感させる。そして,ペア学習から全体発表へ。
よく総合的な学習の時間で福祉学習をします。遠くの困っている人も大事だけど,まずは隣の人とのフルバリューをしっかりやっていこうと生徒には伝えています。
私は常々,生徒を指導する上で,指導者の自己変容が大事であると感じていて,今日はそのことについて発表したいと思います。
自分の体験から,指導者が自己変容すると何が変わるかというと,ひと言で言えば「生徒へのファシリテーション」が変わります。アクティビティをするときだけではなく,日頃の接し方や言葉掛けなどの生徒とのかかわりがすべて変わってくると感じています。
指導者の自己変容がなぜ生徒とのかかわりの変化につながるのか。それは,自己変容プロセスを指導者自らが体験することで,生徒たちの自己変容プロセスに共感できるようになるからではないかと思います。感じ方が変わる。そして,生徒たちの現状に仮説を立てることができる。自分も自己変容のプロセスでこういう場面があった。もしかしたら,生徒も今こういう場面なのではないだろうかと仮説を立てられる。そうすると今,どういう支援ができるのか,必要なのかを考えられるということではないでしょうか。
つまり,自分が自己変容すると,他者の自己変容を支えられるということです。他者の自己変容を支えるにはたくさんの経験が必要で,その経験があるからこそ,他者に共感し,今の感情や行動,認識を感じ取って,仮説を立てられる。それにそって適切な支援ができるのではないかと感じています。
8年前,教員になった年にMAPに出会い,その中でNAJ(ネイチャー・アドベンチャー・ジャパン)代表である吉岡秀晃さんに出会い,翌年にはPAJ主催研修(AP,ABC,AITC)の中で難波さんとの出会いがありました。これらの出会いは私にとって大きいものでした。この出会いをきっかけに,アドベンチャー教育に関わるようになっていきました。
今,私が目指しているのは,「その場に行った瞬間に,今ここにいる人たちの成長に何が必要なのかを全身で感じ取り,活動を提供できるファシリテーター」です。そこを目指して,これからも自己鍛錬を積んでいきたいと考えています。
これらのスライドは,私がアドベンチャー教育の中で学び,体感していることです。言葉にすると難しいなあというのが実感ですが,MAPでアドベンチャー教育を実感しているみなさんには共感していただけると思います。
この写真(上)は自分が岩壁でスタックしている状態です。こういう状況を体験することで,例えば不登校の生徒に出会ったときも,学校に対してスタックした感覚なのかなという仮説を立て,ではどういうアプローチができるんだろうかと考えていくことができるようになります。
また,自分がアドベンチャー教育のルーツを探求していく上で感じることは,自分自身と向き合うことの大切さです。自己認識(セルフ・アウエアネス)。自分を知ることは教育者として大事であると体感しています。
指導者が自己変容することによって,生徒たちの心に共感できる。それが私にとって大きな強み,スキルになっています。わからないことへのアプローチ,支援も,自分の体験や感覚に基づいて支援することができます。
定時制の生徒たちは,なかなか学習にも自信のない生徒が多く,人前で発言をするということもハードルが高いのが現状です。それでも,それに対して支援をする過程で,少しずつ自信をもてるようになってくれていると感じています。
教員の自己変容によって生徒の自己変容に付き合ってあげられる。そのアプローチの例をもうひとつぐらい。 | |
けい: | 学習の例で言うと,今の学校の生徒たちは基礎学力が足りないがゆえに,「わからない」ので取り組むこともいや,したくない,という状況。それに対して,例えば茂木健一郎さんの話を比喩として出しながら,「何かひらめいたり,分かったときの気持ちってどう?」「何かを思い出したときの気持ちってどう?」「それとこの機械の勉強で分かったときの気持ちを比べるとどう?」というように投げかけたりします。自分も悩んでいるところですが,今まで自分の中に,優しさと厳しさの感覚についての葛藤があったのですが,この場面ではこうしてあげたほうがいいのではないかという信念が,アドベンチャーの学びを通して大きくなっていると感じています。 |
午前中の最後の活動は,15分程度のミニ・ワークショップ。
当日,受付で配布された「MAPこんなときこうつかう」のシート集。もしこんな本が一般の本屋さんで売られることになったら,宣伝のための帯をどうつくりますか。「MAPこんなときこうつかう」の仮の表紙(←左図)を配布して,そこに巻きたい帯を,各自で考えてつくりました。
15分という短い時間で,作成から共有までを行ったので,細かく作り込むことはできませんでしたが,午前中の実践発表のキーワードなどがちりばめられた,魅力的な帯ができあがりましたよ。
こちらに,皆さんが作成した帯をPDFファイルでまとめてあります。ぜひご覧になってください!
この「MAPこんなときこうつかう」の冊子はまだ未完成です。これからどんどん事例も増えていき,その過程で中身も整理していくことになるでしょう。帯をつくってみるということは,逆に言うとその帯に書かれているような冊子に育てていきたいということでもあります。将来,完成した冊子に巻かれた帯を見た人が,手にとって中身を見たくなるような帯をつくり,冊子の中身を見た人が,「これはいい!」と思えるような中身にしていきましょう。
会場では,昨年の6月14日に起こった岩手・宮城内陸地震に関連したグッズの販売も行われました。くりこま高原自然学校がまとめた「くりこま高原自然学校の岩手・宮城内陸地震報告書」,くりこま高原自然学校再生Tシャツ,そしてくりこま耕英震災復興の会の「山にカエル!」ステッカーです。
これらも,多くの方にお買い求めいただきました。ありがとうございました!
ある年,史上最強の学年といわれた,荒れた学年を6年生で担当することになりました。いったい何をしようかと途方に暮れたときに,本屋で1冊の本に出会いました。それが高久啓吾さんの書かれた「楽しみながら信頼関係を築くゲーム集」です。
それを買って帰って,一番最初に保護者で実験をしました。1日かけて本にあるアクティビティを全部やったら,保護者が変わったんですね〜。これは使えると感じて,1年間,こどもたちとアクティビティをやり続けました。こどもたちは勝手に内省するものですから,振り返りもビーイングもなくやったのですが,それなりに立派に卒業していきました。
その後,AP講習に参加して,ホンモノのPAに出会いました。この5日間の体験は強烈で,教育観,価値観がひっくりがえる大きな体験でした。さらに,FT(ファシリテータートレーニング;1と2に分かれる前)との出会いも強烈でした。
それからしばらくして,西多摩PACE(ペース)という学び合いの場を自分でつくりました。その中で全国の仲間とのネットワークができ,岩瀬直樹さんと出会い,ここでまた私の人生が大きく変わりました。さらに,吉田新一郎さんと出会ってまた大きく変わっています。今は,ワークショップを学校教育の中に入れようと,こどもたちと一緒にチャレンジしているところです。
(ここでクラスの児童がアクティビティやビーイングに取り組む様子の写真を見せていただきました)私がPAを何のために使っているかというと,学び合いの環境づくり,学ぶための環境づくりのためです。信頼関係をつくるのが目的ではなくて,それは途中過程。最終的な目的は「学び合いを子どもたちの中に起こすこと」です。学び合いを起こすためには,安心できる人間関係が必要だと思うので,そのためにPAを活用しています。
これはみなさんご存じのAITCモデルです。私が目指しているのはこれ…まさにこれです!
その学びの形の一つが「作家の時間」です。ワークショップ型の学習をいろいろやっていますが,今一番がんばっているのがこれです。「作家の時間」はライティング(書く方)ですが,もう一つ,リーディングのワークショップ(読書家の時間)も行っています。読む,書く,これを車の両輪にしてやっています。
作文の授業,皆さんどうやってます?
作文の授業をするのが好きな人? (しーん)
こどものときに作文の授業が待ち遠しかった人は?
こどもも先生もやりたくないのに,やらなくてはいけない…。でも,この作家の時間をやると,早くやりたい,もっと書いていい?,休み時間に書いていい? となる。何がそんなに違うのか。PA的な考え方が相当この作家の時間には入っているからでしょう。
ここでKAIさんは,1冊の本を取り出して読み始めました。「てん」という絵本です。
てん(the dot)
ピーター・レイノルズ(著)・谷川俊太郎(訳)
あすなろ書房
読み終えて,こんな問いかけをしました。
皆さんにちょっと考えてほしい。ワシテが描けるようになったのはどうしてでしょう。ワシテが描けるようになった要素をいくつかあげてください。
グループに紙が1枚与えられ,その紙に出てきたアイディアをまとめました。さらに,他のグループではどんな要素が上がったか,歩いて見て回りました(アラウンド・ザ・テーブル)。
そこに書かれていること,自分のクラスでは起こっていますか? 作家の時間では,実際にワシテが経験したようなことが起こっているんです。実践してみてワシテのような(作文を書けない)こどもにいっぱい出会いました。「てん」に出てくる先生と同じはたらきかけを,自分もクラスでしていると感じることもあります。また,最後に出てくる男の子。ワシテと男の子の関係に似ているものが,作家の時間の中で実際にクラスの中で見えるのです。
作家の時間の目的は,今までの作文教育と違います。
ひとつは「よりよい書き手を育てる」こと。今までは「よりよい作品をつくる」ためにやっていたと思います。しかし,それでは書き手は育たなかった。作文の学習が終わったときに「先生,もっと書きたい」という子はいませんでした。逆に作文嫌いをいっぱいつくっていたと思います。作家の時間で,よい書き手が増やせれば,必然的によい作品が生まれてきます。
もう一つは「書くことを好きになるため」です。私たちは一生書くことを続けていくわけですから,これをキライにさせないために,作家の時間があります。
①こどもたちがやりたいように,書きたいことを書きたいように書くということです。先生はどうしても「生活文」にこだわっちゃう。でもそんなに日常に題材はないのです。書きたいことを書きたいように書かせると,どんどん書き始めます。学習指導要領を見ても,生活文である必要はどこにもないんですね。
②「あなたたちは書き手のプロである」と,常に認めてあげる。題材集めから下書きから,修正,清書,校正,出版まで,全部追体験させます。
③作家の時間は常にしゃべっています。今までなら「静に!」と怒られるところですが,彼らはそこで実に有効な話し合いをしています。友だち同士で話しながら,作品を高めあっているのです。友だちから読んでもらうのも大好きになります。
④今までは読者は「先生」だけ。そしてその先生は何をしてくれるか…赤ペンを入れて「はい書き直し!」。作文の時間の読者は,クラスメイト,先生,保護者,異学年の児童,隣のクラスの児童,コンクール…。こどもたちは読者を意識して書くようになります。今までは先生を意識して書いていたけど,今はいろんな読者がいる。「あの人に読んでもらいたい」と自分たちで技を高めていきます。
⑤今までの教師は「アラ」を探す人。作家の時間では,先生も一緒になって書いていることが多いです。あと,作品を見せ合って,アドバイスをしたり,すごいね!と称賛したり。
授業の最初に5分ぐらい,教えるための時間があります(ミニレッスン)。だけど,それをやらせることはしない。こういう方法がありますよと提案はするけれども,強制はしません。強制しなくても,できるようになるんです。それは周りがいるから。出版された友だちの作品を見て,自分もできるようになりたいと思う。「どうしたらいい」「なおして!」と学び合いが起こるのです。出版すると読まれていることを意識するので,いいものを書きたくなるんですね。先生だけが読んでいると絶対にそうはならない。
作家の技を教えたり,書き方・教え方・話し合い方などを教える時間。伝えるのは1つか2つ。時間にして5分ぐらい。
ここはひたすら書く時間。カンファランスは先生がやります。作文を見てアドバイスをしたり称賛したりする時間です。
みんなで作品を味わう時間。
この3つで,指導要領に載っていることはすべてカバーしています。
では,さっそく作家の仕事をやってみましょう。題材集めは,作家の仕事でここが一番大事な仕事です。実際の作家に聞いてみるとここでほぼ決まるといいます。書けない子の一番のつっかかりはここ。「何を書いていいか分からない」と言います。書けるようになるためには,ここが一番時間がかかるようです。
いろんな方法があります。作家のノート,イメージマップ,タイムライン,本…中でも一番有効なのは「友だちとのおしゃべり」です。これに勝るものはない。でも,これは私たちが一番やってはいけないといっていたことですね。友だちというのは読者です。読者と話すことで,読者の知りたいことに気づくことができます。
では,さっそく書いてみましょう。今日は時間がないのでテーマを限定します。「今日朝起きてからここに来るまでの間のこと」にしてください。
ノートの左側に,自分が印象に残ったこと,見たこと,聞いたこと,感じたことなど何でもいいです。ブレインストーミングのようにダーッと書いてみましょう。イメージマップやタイムラインで書いてもかまいません。そのネタがものになるかどうかは考えなくていいです。
(…4分経過…)
では,荒く集めた題材を隣の人と共有してみましょう。隣の人は気になることがあれば「これなに?」と聞いてみてください。
(…ザワザワザワ…)
はい,話ははずみますよね〜。こどもたちもこうやって話し合う中で構想がまとまってきます。自分は面白いと思っても,友だちに話しても反応がないとか,逆に自分が面白いと思っていなくても,友だちが興味を持ったりとか。そこで読者を意識することができます。これを悶々と一人で考えていても進まないし,分からない。読者がいるんだから,書いているときに,あるいは書く前に読者に見せてみる。しゃべってみる。それによってアイディアが広がるし,低学年なら絵を描たりとか,本を読んでいるうちにひらめくとか,いろんなところにヒントがあります。ただ机に座らせて「思い出せ!」ではだめなのです。
では,この中から書けそうだな〜と思うことを1つ2つ選んでください。ここでも友だちの力を借りていい。
次は下書きをします。書きたいことを書きたいように書きます。「書きたいように」というのはジャンルのことです。作家の時間ではどんなジャンルで書いてもかまいません。ここまでの道のりを紀行文にするでもいいし,絵本にしてもいいということです。
読書感想文/エッセー/日記/推理小説/報告文/物語文/手紙/論文/鑑賞文/紀行文(ルポ)/
詩/評論/説明文/伝記/絵本/俳句/新聞…他
ノートの左側に下書きをどんどん書いてください。あと,自分への期待を下げて書いてくださいね(自分にあまり期待しないこと)。あくまでも下書きなので自由に書いて,細かいところはあとで修正しましょう。「始め」「中」「終わり」などと考えて書かせるとすごくつまらない作文になります。
書いている途中に「これってどう?」とか「見せて!」と,おしゃべりしてもかまいません。席を離れてもいいです。どこで書いてもいいので,一番書ける場所と思うところで書いてください。
(…カリカリカリ…)次のステップに入りましょう。実際は,全員で一斉に書いていくのではなく,こどもたちは自分のペースでバラバラに取り組んでいます。題材集めをしている児童もいれば,清書をしている児童もいるといった状況です。
修正作業では,文章構成の大まかな手直しをします。今まではもしかしたら先生の仕事だったかもしれません。でも,作家の時間では,ここも子ども「たち」が行います。
その手法として「大切な友人」という手法を用いています(スライド参照)。まずは分からないところを質問します。そして,作文のよい点をほめます。次に,おかしいところがあったら「ここはおかしい」ではなく,質問の形で改善点を伝えます。主体的な判断を書き手に促すということです。大人でも難しいですが,慣れるとだんだんできるようになってくるものです。最後に付箋紙で,メッセージを送ります。付箋はたくさん用意して置いてあります。このような効果的なフィードバックのしかたというのは,あらかじめレクチャーしてあります。
修正をするポイントや友だちからのアドバイスは,作家ノートの右側に書き込んでいきます。友だちからもらったラブレター(付箋紙)も右側に貼ります。
(…話し合いとラブレターの交換…)
(雑談の中から…)
今までは先生の仕事。これもこどもたちがします。間違いを見つけることをこどもがしなければ,いつまでも自分で校正作業ができるようにはなりません。
作品にあった原稿用紙を選択して清書します。うちのクラスには原稿用紙が30種類ぐらいあります。自分の書きたい内容によって適切な原稿用紙を選んで書きます。
清書して完成したかどうかはこどもの判断で行います。完成原稿提出箱に入れたらおしまい。最後に先生のチェックを受けるということはしません。
文集も一つの方法。それだけではありません。多様な出版形態があります。文集,みんなの前で読む,グループの中で読みあう,ウェブに流す,なんでもOK。完成したものを他人に見せることをすべて出版ととらえています。
最後に,読者からのファンレターをもらいます。これがこどもたちはとてもうれしい。クラスメート,保護者,下の学年,他の組の生徒から,たくさんファンレターが来ます(お願いをして書いてもらう)。「続きが読みたい」「上手だね」など。それが次の作品をつくる意欲になります。
題材集めから出版まで…これが,ひとつのサイクルになります。今は1月ですね。そうすると多い子は200ページぐらい書いている子もいますし,10ページぐらいの子もいます。でもそれを全体であわせることはない。その子のペースで進めます。
では,これから「出版」を行います。出版でよく使う手が「作家の椅子」というやつです。「作家の椅子」という特別な椅子を用意して(中古家具屋から)それに座ってみんなの前で読むのです。作家の時間の最後の共有の時間をこれに当てます。
あだっちゃんが,作家の椅子に座り,自分の作品を朗読しました。とても面白くて,みんな大爆笑。終わってから,それぞれラブレターを書いて,あだっちゃんのノートに貼っていきました。
当日参加した人でないとおもしろさが十分に伝わらないのですが,あだっちゃんの原稿を_こちら_に貼り付けておきます。どうぞお読みください。
一通り作家の仕事のサイクルを体験していただきました。これを週2時間,必ず取って行っています。高学年の国語の書くことの領域は週あたり1.6時間なので,0.4は余剰時間から捻出しています。低学年〜中学年では時間的には問題ありません。
教科書は使っていません。教科書の中に書くことの単元はあるけど,それは使っていないのです。単元的な扱いではなく,通年で行っているわけです。教科書に載っている作文は,日本のどこかの小学生の作文を使っているんですよ。だったら身近にもっといいものがあるじゃない。隣の子がつくっている作文を使った方が学びは大きい。分からなければその子に聞けばいいわけですから。
作文は単元でやっても書けるようにはならないと思います。泳げるようになるには泳ぐしかないのと同様に,書けるようになるには書くしかない。書くことを続けていくことが大切です。
「作家の時間」の本の「クラスづくりと作家の時間」(p99-100)というところに書いたことですが,作家の時間でこどもたちが活動しているいい姿は,作家の時間をやったから作れたのではないということです。むしろ,PAを使って学級の人間関係づくりをしているので,作家の時間がうまくいくのだと思います。もちろん,作家の時間だけでもこどもたちは大歓迎だと思います。それに上乗せして,PAなどで人間関係の土台作りをしていくというのが大事だという気がしています。
出版として印刷するものは,文集みたいにまとまっているのか? | |
KAI: | 一人一人で1冊にする先生もいる。私は文集にしている。締切はあるが全員提出ではない。今まで8冊出していて締切も8回あったが,その度に全員出すのではない。「おれ,今度の締切間に合わないや」とか言っている。文集の形にするのは,ファンレターを書くのを一斉にできるから。 |
それぞれの目標のたて方と教員の評価は? | |
KAI: | 「作家の時間」の本に評価基準がある。学習指導要領との関連が一覧になっている。この評価表は必ず渡しているので,こどもたちはこの評価基準をよく知っている。どこまでできればOKなのかこどもたちが理解しているというのはとっても大事。それが次の目標になる。自己評価でぜんぜんできていないのに○をつけていたら,カンファランスをする。 |
どんな題材を与える? | |
KAI: | 題材は自由です。学年でこのジャンルを書かなければいけないという制約がある(例えば報告文)ので,1年の流れのどこかで今回は報告文で書きましょうというように持っていくことはある。そういうときはジャンルが固定されているが,題材は自由。 |
知的障害のある生徒へのアプローチは? | |
KAI: | 自分にはまだ経験がないが,そういう話にはなる。最初は先生と一緒に歩かせる。カンファランスに同席させる。先生が他の子にしているアドバイスをずっと聞かせる。そうすると聞いて学べるし,常に先生にくっついていることになる。また,低学年だと絵などでやっていいので,そういうものを取り入れることもできる。作文を写させたり。その子が書くことが好きになるように工夫する。 |
よき読み手を育てるのが読書家の時間です。書くことと読むことは車の両輪。作家の時間と読書家の時間で,書く・読む・話す聞くの国語の3領域を統括的にカバーしています。
教室のうしろに読書家の部屋をつくっています。私のクラスには800冊,岩瀬先生の部屋には1200冊ぐらい本を置いています。全部ブックオフで買った100円の本です。ひょいと手を伸ばすところに本がないと,こどもたちは本を読まないんです。うちのクラスの向かいには図書館があるのに,誰も行かなかったんです。クラスルームの中に本があるということが大事です。
社会科のワークショップ授業では,最初に学習のめあてと学習の進め方だけを提示してしまいます。基本的なことはレクチャーをしますが,そのあとで自分たちがもっと調べたいところや,もっと詳しくやりたいことなど,課題を決めたら,あとは自由です。自分たちで調べる方法を考え,自分たちで計画を立て,最終的にみんなで発表・共有し,振り返る。フレームだけを与えて,中身の方法はこどもたちにまかせるようなやり方でやっているのが社会科です。
評価基準をこどもたちに作らせるということもやってます。例えば,「庄内平野の米作りの様子を理解する」というが最終的なねらいだとしたら,それをABCの段階にするとどうなるか,こどもたちに考えさせます。
(ここで,こどもたちがつくった「庄内平野の米作り」評価基準表を見せてもらいました。評価項目が8項目あり,それぞれがABCの3段階になっています(ルーブリック)。こういう評価基準をこどもたちが知ってるということも大事ですが,こどもたち自身がつくるというのはすごいですね〜!)
「日本の工業」も,教科書に載っている自動車工業ではやらずに,自分たちが調べたい工業を調べました。評価も面白かったんですが,一人ずつ口頭試問をしました。1人ずつ呼んで「日本の工業の努力や工夫を説明しなさい」と。
体験学習サイクルはこどもたちに説明してやっています。PAのアクティビティやグループワークトレーニング,テストなどの取り組みをやったあとには,個人のジャーナルに必ず振り返りをさせています。すべての活動を,体験学習サイクルから絶対に外れないように進めていきます。漢字テストも,夏休みの宿題も…自分で今の自分の状態にあった課題を見つけて,宿題をやってくる。家庭学習も自分で課題をつくって行っています(みそ学)。
体験学習法では,コンテントだけでなくプロセスも重視されます。例えば,漢字テストの場合,私はコンテンよりプロセスを重視しています。5年生の漢字はやがてできるようになる。でも1週間でこれを覚えるためにどういう学習をすればいいだろうと試行錯誤する中で,自分の学びのスタイルを知る…それが本当の目的。学び方を学ぶ学習。
私は「支援者」でいたいなあと思っています。学びの主体はこどもです。一番いいのは温かく「見守る」だけで学んでいくクラス。これは私の理想です。だけどなかなかそうはいかない。次の段階は,質問する(どうしたい? どうすればいい? 判断はまかせる)。それでもダメなら提案する(こんな方法があるよ)。それでもダメなら,選択させる(どっちか選んで)。さらにダメなら,うながす(これちょっとやってごらん。)それでもダメなら…命令する(やれ!)。私自身は右側にいたいな〜と思います。あなたはどの辺にいますか?
私の言葉ではないが,すごく共感できる言葉を最後に紹介します。教師というのは「やり方3割,ありかた7割」。私もすべてうまくいっているわけではありません。でも,あきらめない限り失敗はない。宮城でもMAPをはじめて10年ぐらいになりますね。最初の苦しみは私も一緒に見てました。これからも,同じ歩みをみなさんと一緒にやってきけたらいいなと思います。互いに学び合っていきましょう!
(拍手!!)