直径1cmにもなるような大きな高温型石英をめあてに,仙台市郷六で日曜地学の会が行われました。このページでは,その時の様子と会で使用したパンフレットを紹介します。また,当日の様子は,友人の萩谷宏さんのホームページでも詳しく紹介されています。そちらも合わせてご覧ください。
【地形図】1:50,000「仙台」,1:25,000「仙台西北部」
郷六周辺の地質について
高温型石英を含む地層の位置づけについては,まだよく分かっていないようで,「竜の口層」であるとする説ともっと古いはずだという説があります。 Sphinx は,萩谷さんのアドバイスを受けながら,それらの説について考えてみました。
9月28日(日)に,仙台市郷六で日曜地学の会を行いました。2週間ほど雨がちの天気でしたが,当日はなんとか青空も見えるいい天気。そのおかげか,比較的交通の便の悪い分かりにくい集合地点だったにもかかわらず,55名の参加者が集まりました。
34枚回収された参加者カードによれば,約2/3の方が初参加で,そのほとんどが「学校の先生から」紹介されて知った小・中・高校生でした。仙台在住で初参加の児童生徒が多かったのは,今回の開催地が仙台市内で参加しやすかったためでしょう。一方,10回以上参加の方が4名で,中には30回以上の参加という方もいらっしゃって驚きました。
【滝のそばで高温型石英の採集】
集合地点で郷六付近の地質や採集する鉱物・化石について簡単に説明した後,さっそく高温型石英の採集地点に移動し,採集をはじめました。高温型石英がたくさん含まれる地層は侵食されやすい凝灰岩のため,その上のれき岩がオーバーハングしていて落石の危険があります。それで,参加者の皆さんには,はじめに沢底の砂の中に隠れている石英をフルイで探してもらい,その間に案内者が凝灰岩のブロックを切り出して参加者の皆さんに配りました。沢底の砂を引き続き一生懸命さがす人,腰を落ち着けて凝灰岩のブロックを丹念に崩しながら探しだす人,やり方は様々でしたが,皆さん満足のいく収穫があったようでした。
途中15分ぐらいの時間を使って,東京の高校で地学の先生をしている萩谷宏さんから高温型石英の観察のポイントを説明してもらったり,案内者からこの付近の地層に関する未解決の問題について説明したりしました。短い時間のレクチャーでしたが,参加者の皆さんには好評だったようです。参加者の感想にもあるように,地層の説明をするときにレーザーポインタがほしいと思いました。
また,採集場所に行くときに沢を横切ったり,凝灰岩の露頭で足を滑らせたりして,参加者の中には靴を汚してしまう方もいました。感想の中にもありますが,チラシの中に「長靴の用意」と書いたほうが,特に初心者の方にはよかったでしょう。
(左図:仙台一高地学部の皆さん)
【竜の口層の貝化石の採集の様子】
昼食後は場所を移動して竜の口層の貝化石を採集しました。比較的硬い貝化石層でしたが,タツノクチサルボウ・マガキ・サギガイ・センダイヌノメハマグリなどが採れていたようです。硬い岩盤を一生懸命崩す人の下で,侵食によって崩れ落ちた部分から化石を探して拾い集める人もいて,ここでも各人各様。二枚貝は拾ったほうがきれいな化石が採れているようでした。時間がやや長かったので,小さい子どもはちょっと飽きてしまっていました。また,貝化石を早めに切り上げて高温型石英の採集に戻った方も少なくなく,感想にあるように化石の時間を半分にして,後半を化石班と石英班を分けたほうがよかったと思いました。
【参加者カードより(34枚回収)】
■参加回数
1回目 |
2回目 |
3回目 |
4回目 |
5〜9回目 |
10回以上 |
不明 |
19名 |
1名 |
2名 |
1名 |
6名 |
4名 |
1名 |
■年齢構成
小学生 |
中学生 |
高校生 |
大学生 |
一般(うち教員) |
不明 | |
9名 |
4名 |
5名 |
0名 |
15名 |
6名 |
1名 |
■住所
仙台市内 |
河南町 |
古川市 |
柴田町 |
東京都 |
24名 |
5名 |
2名 |
2名 |
1名 |
■感想
日曜地学の会 97.9.28(日) |
本日は,日曜地学の会『仙台市青葉区郷六の高温型石英と貝化石』に,ようこそお出でくださいました.
ここ仙台市郷六周辺には,貝化石をたくさん含む「竜の口層」や大きな斜長石の結晶を含む「三滝玄武岩」などが分布しています.それに加えて,直径が1cmにもなるような大きな高温型石英の結晶が採れることでも知られていて,全国的にも有名な鉱物・化石の産地となっています.今回の日曜地学の会では,それらのうち,貝化石と高温型石英を採集します.
仙台周辺で見られる地層は,約2千万年前から数千年前までにできた地層です.その間,仙台付近は,海になったり陸になったりしながら,砂岩・シルト岩・凝灰岩などの地層が厚く堆積していきました.その中で,ここ郷六周辺の地層は,約800万年前から500万年前までの間に,仙台付近が陸(三滝層)から海(竜の口層)に変わっていく過程で堆積した地層です.
私たちのハンマーによって,数百万年の眠りから目を覚ます鉱物や化石たち.さあ,彼らに大昔の仙台の様子を語ってもらうことにしましょう.
高温型石英(左:完全な形,右:凝灰岩や砂岩中に見られる形)
【どこを探すか】
【どうやって見つけるか】
【見つけたら…】
★一番大きな結晶を見つけるのは誰かな?
★大きくて透明な結晶は,誰が見つける?
コラム<大きい結晶はなぜ曇っている?>
ここで採れる高温型石英は,竜の口峡谷で採れるものよりずいぶん大きいですね(せんだい地学ハイキングp10参照).でも,竜の口峡谷で見られるような透明なものはほとんどなくて,たいてい灰色っぽく曇っています.このように曇ってしまう原因は,なんでしょう?
ところで,このパンフレットでは今まで何の説明もなく「高温型」という語句を使っていましたが,高温型石英というからには低温型石英もありそうだと思いませんでしたか?実は,あるんです.低温型石英というと馴染みがない方が多いでしょうが,実は水晶のことです.両者の形を比べてください(下図).見慣れた水晶の柱の部分を取り去って,頭同士を貼り付けたら高温型の結晶形に似た形になりますね(もっと詳しく見ると違いはあります).それで,高温型石英のことを両錐石英と呼んだりもします.
高温型石英も低温型石英(水晶)も,同じ成分(SiO2)でできていますが,生成したときの温度と結晶内での原子の結びつき方が異なります.地表付近では,573℃を境にして,それより高温で結晶化したら高温型,低温で結晶化したら低温型になります.竜の口峡谷や郷六で見られる石英は,マグマの中から高温の状態で結晶化したものです.それで高温型になったんですね.でも,今の地層の温度はたかだか20数℃,573℃よりずっと低い温度になっています.ということは,外形は高温型でも中身の原子の結びつき方は低温型に変わってしまっているはずです.
姿形は高温型なのに中身は低温型…これが高温型石英の正体です.外形と内部の原子の結びつき方が合っていないために,結晶内にはひずみがたまります.小さな結晶ではそのひずみをどうにかごまかすことができますが,大きな結晶ではひずみも大きくなり,結晶内にたくさん割れ目ができてしまうんです.そのために,大きな高温型石英の結晶は,灰色っぽく曇ってしまうというわけです.
高温型石英(左)と低温型石英〔=水晶〕(右)
【どんな種類の貝が採れるか】
【どこを探すか】
【掘り出し方】
コラム:化石採集のテクニック
(せんだい地学ハイキングp13より)
略
コラム<現地性と異地性>
地層から化石が出てきたときに,その化石の種類によっては,その地層ができたときの環境を私たちに教えてくれます.例えば,サンゴ礁をつくるサンゴは,水温が18℃以上の浅い海(それも湾ではなくて大きな海に面したところ)にしか存在しないことが分かっています.それで,地層の中からサンゴが出てくると,その地層ができたときのその地域は暖かくて浅い海だったことが分かるのです.
そのような推定をするときに注意しなければいけないことは「その化石が本当にその場所で生きていたのかな」ということです.別な場所で死んだものが何らかの原因で(川や海の流れ,あるいは海底の土砂くずれ(乱泥流),はたまたプレートの移動など)生きていた場所から別な場所に運ばれてしまって堆積した場合,移動したことに気づかずに化石のみを見て昔の環境を推定すると,間違った結論に達してしまうことがあります.したがって,化石が出てきたときに,その化石が生活していたところで化石になったのか,どこかからか運ばれて化石になったのかをしっかり判定する必要があります.前者の場合を「現地性の化石」,後者の場合を「異地性の化石」といいます.
竜の口層には,いくつかの貝化石層がありますが,現地性のものと異地性のものの両方が観察できます(図は省略).竜の口峡谷で見られる第1化石層は,2枚の貝殻が閉じた状態で,しかも地層の面に対して立った状態(地面に突き刺さった状態)で発見されます.このような状態は,この化石が生活していたままで埋もれて化石になったと考えられます.つまり,現地性です.一方,その化石層のすぐしたにある第2化石層は,貝殻がバラバラになっていて,両方そろっていなかったり壊れたりしているものが多く見られます.このような状態は,死んだ貝殻が海の水のはたらきによって,運ばれて集まって堆積したもの,つまり異地性の化石だと考えられます.
さて,ここ郷六の貝化石層はどちらでしょう?現地性ですか,異地性ですか?
高温型石英が採れる地層の上には,黒くて大きな石が積み重なったような地層があります.また,沢の中や両岸にもそれと同じ石がごろごろ転がっています.ひとつハンマーでたたいてみましょう….
どうでしたか?キーンという音がして,跳ね返されませんか?今度はもう少し力を込めて,割れるまで何度もたたいてみましょう.割れた面を見ると,黒または灰色の緻密な部分の中にピカピカ光る(白い)結晶が散らばっている様子が観察できます.こういう組織を,斑状組織といいます.マグマが地表付近で急激に冷やされて固まると,このような組織になります.つまり火山岩なんですね.
この岩石は,三滝玄武岩と呼ばれています.郷六の西にある蕃山や北西にある権現森は,この三滝玄武岩でできています.三滝玄武岩が活動した時代は,竜の口層が堆積した時代よりも一昔前で,仙台市が竜の口の海の底になっていたときには,蕃山と権現森は島または半島として海の上に顔を出していたことが分かっています.
三滝玄武岩の特徴は,大きな斜長石の結晶を含むことなんです(図は省略).キャラメル1個〜2個分ぐらいの大きさのものがあるということなんですが,見つけることができるでしょうか?
図:斜長石の写真と結晶の形(仙台の地学p72より;略)
※「せんだい地学ハイキング」p96-p100(図は省略)
仙台周辺で見られる地層は,約2600万年前から数千年前までにできた地層です.その間,仙台付近は,海になったり陸になったりしながら,砂岩・シルト岩・凝灰岩などの地層が厚く堆積していきました.その中で,ここ郷六周辺の地層は,約800万年前から500万年前までの間に,仙台付近が陸(三滝層)から海(竜の口層)に変わっていく過程で堆積した地層です.
| | | |---|~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~| 海 | | 大年寺層 /|ちょっとした海(シルト岩,砂岩) ---|鮮 |-------------------|| 陸 | | 向山層 /||平野〜低湿地 | | |||(凝灰岩,砂岩,亜炭,シルト岩) ---|新 |~~~~~~~~~~~~~~~~~/||| 海 | | 竜の口層 ||||竜の口の海 | | ||||(シルト岩,軽石質凝灰岩,砂岩) ---|統 |----------------/|||| | | 亀岡層 /|||||海岸に近い低湿地(砂岩,凝灰岩,亜炭) |---|~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~| 陸 |中 | 白沢層 / |白:湖と酸性火山活動(シルト岩,軽石質凝灰岩) | | / 三滝層 |三:塩基性火山活動(安山岩・玄武岩溶岩, |新 |--------------------| 集塊岩,火山レキ凝灰岩) | | 湯 元 層 |陸上での激しい酸性火山活動 |統 | |(軽石質凝灰岩,軽石質角れき凝灰岩) | |~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~| | | |
【活発な陸上での火山活動とカルデラ湖の時代】…三滝層・白沢層
約800万年前から550万年前までのこの時代,仙台付近では陸上での激しい火山活動によって大量の火山灰が降り積もりました.また,その火山活動によってできたカルデラ湖には,火山灰とともに土砂が流れ込み,その中には当時の木の葉や種子が化石として保存されました(白沢層).同時にその周辺では,玄武岩の火山活動が起こり,三滝玄武岩が厚く地表を覆いました.
【川が流れる平野と低湿地の時代】…亀岡層
550万年前から仙台付近は沈降を始め,海岸線がにわかに近づいてきました.仙台市桜ヶ丘から八木山に至る一帯は平野や低湿地となり,川が運んできた土砂によって砂が堆積したり,湿地帯では亜炭が生成したりしました(亀岡層).しかし,郷六付近では,この亀岡層は堆積しなかったと考えられています.
【海の底の時代】…竜の口層
仙台付近はさらに沈降が続き,とうとう海の底になってしまいました.この時代の海の底に堆積した地層を竜の口層と呼ぶので,この海も「竜の口の海」と名付けられました.この海は,仙台付近から岩手県の花巻に至る細長い海で(図は省略),クジラやイルカ,サメ,エイなどが泳ぎまわっていたはずです.
郷六付近は,ちょうどこの海の海岸線だったところで,浅瀬にすむ貝類がたくさん生息していました.また,三滝玄武岩でできている蕃山や権現森は,海岸沿いの岩山や岩礁となっていました.これらの岩礁海岸では,一部にカキ礁が形成されました(図は省略).
図:竜の口の海の時代の仙台(せんだい地学ハイキングp111,112;省略)
コラム<高温型石英が採集できる地層は何層か?>
高温型石英が採集できる地層が,ここにあげた地層のうちのどれに属するのかは,まだよく分かっていません.なぜそのようなことになるのかというと,この郷六周辺の地層が他の地域とちょっと異なっているのです.
高温型石英の採れる滝の周辺の露頭では,下位から
1)高温型石英を含む灰白色の凝灰岩
2)黒くて大きな石が積み重なったようなれき岩
3)貝化石を含むシルト岩の3つの地層が観察できます(図p19).この中で,一番上の貝化石を含むシルト岩は,竜の口層で間違いないと考えられています.問題は,その下の地層です.この地層の中に含まれる丸みを帯びた岩石は,ほとんど三滝玄武岩のようです.
実はこの黒いれき岩がくせ者なのです.この地層は,ここ郷六周辺でしか観察できず,他の地層との上下関係(覆ったり,覆われたりする関係)が分からないのです.それで,黒い地層の位置関係は,現時点ではこの付近の地質の状況から推定するしかありません.いろんな人がいろんな観察をして,それぞれ違った結論に達しているようですが,それらを大きく二つに分けると,れき岩が「三滝層そのもの」とする立場と,「竜の口層が堆積していた時代に,風化してできた三滝層の岩石が海中に土石流として流れ込んで再堆積したもの」とする立場に分けられるようです.いずれの立場をとるかで,このれき岩やその下の高温型石英を含む地層の時代が数百万年も違ってしまいます.
この問題に決着をつけるには,どうしたらよいでしょう?岩相を見てその上下関係で位置を決めていくオーソドックスな方法では,なかなか結論が出ないようです.凝灰岩の微量元素の成分を分析することによって,見た目が似ている凝灰岩を区別するという研究方法があるそうです.もしかしたら,そのような手法によって高温型石英の凝灰岩の対比ができるかもしれませんね.誰か,この問題に挑戦しませんか?
せんだい地学ハイキング−気分は宝探し!−
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本日の日曜地学の会は,いかがでしたでしょうか.興味を持った方や分からないことがあった方は,図書館で調べたり,学校の先生に質問したりしてみてください.下記の責任者まで問い合わせていただいても結構です.できる限りお答えしたいと思います.
本日は,日曜地学の会へのご参加,まことにありがとうございました.またの参加を,心よりお待ちしております.
山口 裕之
E-Mail) gbf03333@cyborg.ne.jp
E-Mail) GBF03333@niftyserve.or.jp
【参考文献】
「新編 仙台の地学」,地学団体研究会仙台支部編,きた出版,1980.
「せんだい地学ハイキング−気分は宝探し−」,地学団体研究会仙台支部編,宝文堂,1993.
「仙台地域の地質」,北村信・石井武政・寒川旭・中川久夫,地質調査所,1986.