【この授業のアウトライン】
過去に日本で起こった8つの大地震のなかから一つの地震を選んでグループ学習を行ない,その成果をみんなの前で発表します.その後,授業者が一般的な地震災害についてまとめの講義をします.
【この授業の特徴】
この3つの特徴によって,普段の授業ではなかなか味わえない「自分で調べる楽しさ」を体験できる授業になります.
【補足】
この授業は,平成5年度の冬に一度だけ行なったものです.本当は毎年やりたかったのですが,カリキュラムの改変と自分自身の転勤のせいでできませんでした.それで,最近の地震については取り上げていません(=阪神大震災).
【役割分担について】
グループ学習にすると,さぼる生徒とその結果割を食う生徒がでるのではないかという心配があったので,各班員の役割分担を明確に決めさせ,プリントに記入して提出させることにしました(「研究発表/地震災害について」参照).仕事をどのように分担するか(役割名,各班員に配分する仕事量をどうするかなど)は班に任せ,授業者からの指示は出しませんでした.
感想にも書かれているように,最初はやる気のなかった生徒も,やり出すと「はまって」しまってけっこうアクティブに動きました.また,基本的に「学ぶ機会を提供する」というスタンスでやったので,「与えられた機会を利用しようとしない人」がいても,それはそれでよいと判断しました.生徒から「○○君が全然働かない」という苦情が来た場合は,問題の生徒の耳元で微笑みをたたえながら「平常点減らすぞ」とやいてあげました.
【発表資料の指導,発表練習について】
研究発表用に各班に作らせた資料は,
の2種類です.これらの資料については,授業時間で作成させて机間巡視をしながら指導しました.ただし,すべての班が授業時間中にはでき上がらなかったので,あとは提出の締め切りを決めて休み時間(休日も?)をつかって作らせました.生徒が提出してきたら,必ずその場で点検して,内容によってはいくつかの修正要求を出して再提出させました.
発表の練習も授業中に1時間取っていたのですが,資料作成が間に合わない班がほとんどで授業時間では終わりませんでした.しかたがないので資料が整った段階で,放課後を使って発表練習をさせました.
など,ほとんど一から教えなければ形になりません.
【要点レポートについて】
研究発表本番の授業で,各班の発表を聞いて要点をメモするというものです.ただ発表させるだけではちゃんと聞いてくれるか不安だったことと,話の内容を手早くメモする経験をさせてみたい(最近の生徒はノートを取るのが遅いと思う)ということでやらせてみました.すべての班員がいずれかの班のレポートを担当することにしています.
授業終了後に集めてみたら,事前の指示が全くなかったこともあり,「要点」を押さえていないものがほとんどでした.欄の中に,「発生年月日(時間),震源の位置,M,被害(人的,水害,…),…」などのプロンプトを入れてあげればよかったかな?と反省しました.
【評価について】
研究発表では生徒自身にも投票という形で評価に参加してもらいました(最初のオリエンテーションでアナウンスしておく).一番評価したい(ためになった,おもしろかった,感動した,…)班の名前を書いて,授業終了後に提出させます.それを集計して,人気度に応じて各班の班員の平常点に加味したのですが,友達に評価されるというもの,前向きに取り組んだひとつの要因かもしれません.
【コピー代について】
ちょっと記憶が定かでないのですが,地学科の予算の中から班ごとにコピー代を支払いました.生徒には領収書を取ってきてもらって,実費(上限あり…150円?)を返金しました.
【直下型の地震に対する認識の弱さ】
生徒達の感想を読んでいて気付く点は,下記の2点です.
2.については,もちろんその当時は阪神大震災が起こることはわからなかったわけですが,福井地震を調べた班から「直下型の恐ろしさ」についての感想がなかったのは,わたし自身の認識の甘さが原因だと反省しています.
私が担当したクラスは3クラスで,約140人分の感想が手元にあります.ほとんどはありきたりな感想ですが,その中で私の目に付いた感想を,いくつかピックアップしてみました.したがって,これらは全体を代表する感想ではなくて,いわば上澄みをすくったかんじになっているということをご了承ください.
感想の後に付いている記号(6-6B)は,(クラス−地震)です.地震の方は,昭和三陸地震津波・南海地震・福井地震・十勝沖地震・新潟地震・チリ地震・宮城県沖地震・日本海中部地震の順に,1〜8の番号をふっています.A,Bは同じクラスで同じ地震を取り上げる班が複数になったときにつけたものです.
■今まで地震といっても,あまり関心をよせることはなかったが,今回は自分で研究を進め,苦心してまとめあげたものだったので,心に残った.津波による被害の大きさを知って,改めて津波の恐ろしさを認識した.波に家や家族をうばわれ,地獄のような毎日を送っていた人々のことを思うと,やりきれない気持ちだった.(5-1B)
■発光と大砲のような音について,くわしく調べられなかったことだけが残念だった.(5-1B;抜粋)
■今まで学校などで地震が起こると怖がるどころか,かえって喜んでいた.でも,この実習の発表を聞いていくうちに天災の本当の恐ろしさがわかってきた.(6-3)
■同じくらいの規模の地震でも,死者や全半壊家屋の数が場所(それぞれの地震? Sphinx 注)によってまるで違うことに驚きました.また,昔よりも近年の地震の方が,対処のしかたがよくなったためか被害が小さくなってきているので,このままの調子でいけばいいなと思いました.(6-4A)
■地震そのものよりも,その後に来る津波や火災などの方が,たくさんの人々に影響を与えるのだということがわかった.(1-6A;抜粋)
■私は,震度I,IIぐらいの小さい地震しか経験していないため,地震が恐ろしいとか怖いとか感じたことがなかった.しかし,このレポートを通して,地震がいかに怖いものかを知った.だから,防災訓練などをしっかりしようと思った.はじめ,これをすると聞いたとき,私は何もしないだろうなと思った.だが,結局はまってしまい,一生懸命調べたり,疑問を抱いたりできた.私にとって,とてもよい経験だった.だから,またやりたい.(6-6B)
■班によって(特に同じ地震を取り上げた班同士)こんなにまとめ方に違いがあったのには驚きました.(6-6B;抜粋)
■地震について調べることに,こんなにも夢中になるとは思わなかった.地震については興味があったので,自分ではけっこう知っているつもりでいた.けれど,今回は奥の方までじっくり調べてみて,たくさんの収穫があったと思う.うちの班は他の班と調べる観点が違って,またそれがよかった.苦労したかいがあった.みんなも述べてきたように,地震については防ぎようがないけれど,津波や火災などの被害は防げるようにしたいものだ.それにはチリ地震のときのように地震のレベルを軽く見て,避難勧告を遅らせるようなことは二度とないようにしなければならない.災害は忘れた頃にやってくるのだ.普段から災害について,もう少し考えておくべきだと思った.(6-6B)
■例えばニュースで「地震の死者は5名」と聞いたら少ないと思ってしまうけれども,その5名には両親がいて,兄弟がいて,親戚がいて,友達がいて…そう考えるとチリ地震は死者だけで107名もいたのだから,外に見える被害もすごかったが,心の中の被害も大きいものだったと思う.(1-6B)
■私はそれほど大きい地震を経験した記憶がないので,発表を聞いてもニュースを聞いているような感じで,あまりピンときませんでした.(6-7)
■発表係ということで,かなり楽な仕事だった.ただ,リハーサルで真面目にしゃべりすぎて,本番ではどうかなあと思ったが,まあよかった.班を結成したときは,みんなやる気に欠けていたが,最後になってチームワークができた.(6-8)
【写真】QV-10で撮ったものなので,あまりはっきりとは写っていませんが,参考までに.
「地震列島」という言葉をよく耳にする.日本列島は,4枚のプレート(岩盤)がぶつかり合っているところにあり,世界でも他に例を見ないほどの地震の巣になっている.日本に住んでいるかぎり,我々は,地震の被害から逃れることはできない.日本人は,太古の昔からこの地震に苦しめられてきた.最近では,北海道南西沖地震の津波と火災が記憶に新しい.仙台市民に死者を出した宮城県沖地震は今から15年前…ちょうど君たちがこの世に命を授かったころの出来事だ.
宮城県ではこの宮城県沖地震が起こった6月12日を防災の日と定めていて,避難訓練などを行なっていることは知っていよう.国では大正12年(1923)の関東大震災が起こった日(9月1日)をもって,防災の日としている.防災の日を定めて,地震観測を行なって,建築物を耐震構造にして…地震に対する備えは日夜行なわれているのに,いざ地震が来ると,やっぱり被害がでてしまう.全然進歩していないように思えるが,実は被害の中身はここ数十年でかなり変わってきているらしい.昭和に起こったいくつかの大地震による災害を調べて,
について考えてみよう.
今回取り上げるのは,昭和三陸地震津波,南海地震,福井地震,十勝沖地震,新潟地震,チリ地震,日本海中部地震の8つである.このなかから1つ,自分が調べてみたい地震を選び,同じ地震を選んだ人同士でグループを編成して研究をしていこう.
1時間目 | ビデオを見る,調べてみたい地震を決める→アンケート回収(T) |
2時間目 | グループ編成を発表(T),グループ内の役割分担を決める 資料「日本の大地震」を提示(T),研究発表までの計画立案 |
冬休み | 図書館に行って資料を集める |
3時間目 | 発表の準備 (資料の読み合わせ,原稿を書く,OHP,プリントの準備など) |
4時間目 | 発表の準備,発表の練習 |
5時間目 | 研究発表,レポートの作成・提出,地震災害についての講義(T) |
1)発表内容について
これらの内容が聞いている人によく伝わるように工夫して(=興味を引くように)発表すること.
2)発表方法について
1)どんな資料を用いればよいか
2)昔の新聞を手に入れる方法
________ 組 ________ 班
研究する地震
________________________________________
班員:氏名(役割分担)
( )組( )班
(レポート記入上の注意)
班 |
地震名 |
担当者 |
|||
(この表を適宜ふやして使用する) |
今回の「地震災害スペシャル」を終えての感想を書け(名前も).ただ「おもしろかった(つまらなかった)」とか「ためになった(ならなかった)」という気持ちの表現ではなく,この実習を通して自分が強く感じたこと,自分の心の中や行動で変化したことなどを分かりやすく書いてほしい.
地学は,私たちの生活の場である地球を知る学問である.1年生はこの科目が必修であるが,ほとんどの生徒は選択地学を履修しないため,地学の学習は1年時の2単位で終わってしまう.したがって,1年時には,内容を気象・火山・地震の3つに絞って,これからの生活で活用できる知識を与えることを目的に授業を行なっている.
この単元では,過去の有名な大地震をいくつか取り上げて,どんな被害がでたのか,被災者はどんな行動をとったのかなどを調べ,自分が地震にあったらどうなるのかということを考えさせる.班ごとにひとつの地震を担当し,地震直後の新聞記事を集めて調べ,発表するという形態をとる.
地震に対する最も有効な教科書は,自分自身の被災体験である.奥尻島の人が地震後3分でやってきた津波から逃げられたのは,10年前の日本海中部地震の被災体験があったからだ.仙台市民に死者を出した,あの宮城県沖地震から15年がたった.今年の高校1年生はその時0歳か1歳で,あの地震のことを憶えているものはいない.以前,生徒に津波のビデオを見せたあと,津波に飲み込まれた人はどう行動すれば助かった可能性があるか,と聞いたことがある.「地震が起こったらあきらめるしかない」という答えが以外に多かった.生徒は,人が死ぬような大地震は(少なくとも自分の住むところでは)滅多に起こらないものだと思っているようである.
自分自身の被災体験がないので,新聞記事やニュースの映像では,地震の被害や対応を自分の問題として捉えることは難しい.しかし,同じ新聞を,発表するつもりで読めば,ただ読むときとは違った共感的な読み方ができるはずだ.新聞にでてくる被災者の行動や話のなかに,自分の姿を投影して,過去の大地震を疑似体験してもらいたい.
省略.
省略.「研究発表/地震災害について」の【授業の展開計画】を参照.
省略.
省略.
('94/2)