トップページへのリンク MAP研究会 1月研修

MAP研究会は宮城県教育公務員弘済会の支援によって活動しています。

■ 日   程:2015年 1月24日(土)
■ 場   所:仙台市民会館
■ 内   容:リジリエンスを学ぶ
■ 講   師:仁平 義明(白鴎大学教授)
■ 報   告:みっちぃ
■ 参 加 者:20名

「リジリエンス」を学ぶ

今年度最後の定例会は,毎年恒例の事例研修会。でも今年は一味違います。

午前中は,以前,はやがfacebookで紹介してくれた論文の執筆者であり,日本のリジリエンス研究の第一人者である仁平義明教授をお招きしての研修となりました。仁平先生とのコンタクト,交渉はえんやすがすべてやってくれました。えんやす,ありがとう!

心の復興とリジリエンス

MAPはこのところ,「心の復興」が一つのキーワードになっています。正直なところ,それがMAPの生き残る道だ,みたいな雰囲気が漂っていたような気がしていたのは私だけでしょうか。でも,逆に考えれば,こういう大変な時に,MAPの力が必要とされているということは,今こそMAPが頑張らなくちゃいけないとき,という思いも沸き起こります。

さて,このリジリエンスという言葉。私が個人的に知ったのは,PAJが宮城の復興のために定期的に提供してくれているプログラム「バンブーリジリエンス」でした。竹がしなやかに元に戻ろうとする力をイメージしての造語ですが,数年前からジム・ショーエル氏が中心になって,献身的に宮城の復興のために力を貸してくれています。そしてもちろんPAJも。ありがたいことです。

我々は漠然と「リジリエンス」という言葉や意味を知ったつもりになっていましたが,改めて,この「リジリエンス」を学ぼう,というのが今回の研修会の主旨でもありました。実は,MAP研究会では,11月の研修会で仁平教授の論文を読み合い,今回の研修会で知りたいこと,聞いてみたいことをまとめていました。えんやすには事前にその情報も仁平教授に送っていただいたことで,より深まりのある研修になりました。

仁平教授は,今回お招きするにあたり「私は体験学習については,あまり分からないので,どの程度貢献できるか分からない」というお話もいただいていました。しかしそこは何でも吸収したいMAP研究会。とにかく「リジリエンス」って何だ? という純粋な疑問を解決すべく,今回の研修を企画したのであります。以下,私が仁平先生のお話を聞いて個人的に心に残ったことを中心にまとめてみます。

リジリエンスについて

様々な状況で発揮されるリジリエンス

仁平先生の語りは軽妙で,引き込まれました。リジリエンスとは,被災者の心の復興という限定的なものではなく,いじめ,虐待,病気・・・様々なストレスからの心の復興,という意味をもつということを再認識しました。

いっきゅうさんがずっと提案しているとおり,我々が目指しているのは,震災で心の傷を負った人たちの心の復興だけではないはずです。宮城県に住む我々は少なからず被災者であるはずだし,もっと言えば心の復興が必要なのは,震災の被災者だけに限られてものではないはずです。そういう意味で,このリジリエンスという考え方は,教育者である我々が,知っていなくてはならないことだと思えます。

リジリエンスとハーディネス

リジリエンスに関わる研究論文は,ここ数年で飛躍的に増えているそうです。日本ではまだそれほど多くないのですが,世界ではこの「リジリエンス」に関する調査,研究が盛んに行われているようです。日本で「リジリエンス」という考え方があまり浸透していないのは,日本は政府の方針として,「リジリエンス」を進めるよりも「ハーディネス」を重視したからだとも言われています。「ハーディネス」とは,つまり「強い心をもつ」とか「困難に負けない」とか,そういう考え方です。確かに,日本は戦後の経済成長を目指して,我慢強く,勤勉な人材を育てようとしてきた経緯があるように思います。しかし,近年の社会の様子を見ていると,日本でも「リジリエンス」という考え方をしっかり見つめなくてはいけない時代になっているように思います。

平和な日本で考えたとき,「リジリエンス」を必要とするのは,いじめや虐待を受けた子,被災者・・・というようなことで考えますが,世界で考えれば「難民」「貧困」というようなことも当てはまってきます。近年,リジリエンス研究が盛んになっている背景には,内戦や紛争,経済格差といった世界の情勢も影響しているのだと思われます。

さて,心に深い傷を負った人は,その後どうすれば立ち直れるのか,そして本当に立ち直ることができるのか・・・単純にそんなことを考えてしまいます。みなさんの学校にはいませんか? この子,環境的に恵まれていないのだけれど,本当に将来大丈夫なんだろうか,ちゃんとまともに生きていけるんだろうか・・・っていう子。そういう子の割合が何となく増えているようにも感じます。

ストレスからの回復

心の傷から回復して,普通の生活に戻れる割合は,およそ20%だそうです。何をもって「立ち直った」とか「普通の生活」と考えるかについては,基準があるようです。例えば,その後,犯罪歴がないとか,職業があるとか・・・。この立ち直ったとされる20%という数字を多いとみるか少ないとみるか,微妙なところですね。ただ,深く心に傷を負ったとしても,回復するチャンスはある,ということは確かなようです。

そこで気になるのは,その20%の人たちは,どうやって回復したのか,ということです。リジリエンス研究では,この人達の追跡調査も行っているようです。すると,ある特徴的なことが分かってきました。それは,この人たちに共通することは,周囲に信頼できる大人の存在があった,ということなのです。例えばそれは親代わりの人物だったり,指導者だったり,地域の人だったり。そういう存在があることで,立ち直ることができたということが,1つの共通点だそうです。このあたりから,我々教師の役割,MAPの役割ということと結びつけて考えることができます。我々は,児童生徒に直接関われる大人として,適切な関わりをもつ必要があります。そして,MAPの考え方は,人を信頼するとか,チャレンジするとか,前向きに生きるといった,人生を豊かにするためのヒントがたくさんつまっています。だから,我々は積極的にMAPを生かしていいのだと思います。

MAPの活動は子どもたちのリジリエンスに影響するか

私から仁平先生にストレートに質問させていただきました。「結局のところ,MAPのようなものは,リジリエンスに良い影響をもたらすと思われますか?」というような内容です。仁平先生ははっきり「効果はあると思います」とおっしゃいました。我々がやってきたこと,やろうとしたことの後押しをしていただいたようで心強かったです。

講義を聴いて興味を持ったこと

仁平先生のお話は他にもいろいろありましたが,私が興味をもったことについていくつか紹介します。

心の回復を達成できた人には,信頼できる大人の存在があった,ということを書きましたが,例えばそれが先生だった場合,学校での関わりを越えた部分でのフォローがあることも大きな要因だったそうです。つまり,下校後や休みの日,卒業してからでも,その先生が関わりをもっているということです。これって今の世の中ではなかなか難しいことですが,学校は学校,家庭は家庭と割り切ってしまうと,子供は育たないんだよなあと改めて思いました。そして「卒業したらあとは知らん・・・」っていうのも,ちょっとクール過ぎるんだろうなあと思いました。まあ,MAPに関わっている先生方は,少なからず学校外や卒業後といった場面でも,子供に積極的に働きかけているんじゃないかなあとは思いますが。

もう1つ覚えていることがあります。これはどんな流れからの話だったか忘れましたが,「褒めすぎると逆効果の場合がある」という話も興味深かったです。ピグマリオン効果の話だったかな。自尊感情の低い子供に,過剰な褒め言葉を使うと,ますます自尊感情が低くなる,というような話です。確かに,そういう子いませんか?褒めて伸ばすのがいい,というのはよく言われることですが,褒めすぎもよくないということです。何でも褒めりゃいいってものでもないのですね。ついつい,嘘くさい褒め言葉をいう人いるでしょ? そしてやっぱり,一番だめなのは「無関心」だそうです。これが一番子供の成長を阻害するそうです。思わず笑ってしまったのは,父親の無関心はあまり影響がなく,母親の無関心が強い影響を与えるというデータがあることです。やっぱり「母は強し」ですね。

さいごに

なんだかまとまりがない話になってしまいました。とにかく,今回,仁平教授のお話を伺って,「リジリエンス」という言葉,そして「リジリエンス研究」の現状を知ることができました。被災した子供たちの心のケアだけでなく,様々な心の傷をもつ児童生徒としっかり向き合うことが大切だと思いました。もちろん,MAPは治療薬ではないですから,心の傷を治すためだけに使うということではありません。MAPの考え方を生かして,豊かで楽しい人生を送るためのコツを伝えていくことも大切にしていきたいなと改めて感じた1日でした。

参考文献紹介

児童心理2014年8月号表紙

雑誌「児童心理」の2014年8月号では,「子どものレジリエンス」という特集が組まれています。今回講師として分かりやすいお話をいただいた仁平先生も執筆者として参加していますので,リジリエンスについてもっと学びたいという方は,ぜひ手にとってご覧ください。

児童心理2014年8月号(金子書房)