MAP研究会は,宮城県教育公務員弘済会の支援によって活動しています。
■ 日 時: | 2014年 1月25日(土) 10:00〜15:00 |
■ 場 所: | 仙台市戦災復興記念館4階第3会議室 |
■ 内 容: | 実践発表:改めて見直そう!MAPの力 ~実践発表と振り返りで学びを共有する~ |
■ 担 当: | 研究委員 |
■ 報 告: | みっちぃ |
■ 参 加 者: | 20名(?) |
今年度の最後の定例会は,この1年間のMAPを生かした実践の発表会でした。校種,内容,バラエティに富んだ発表になりました。また,スーパーバイザーとしてPAJのテツにも参加してもらいました。
トップバッターはいっきゅうさん。急な要請にもかかわらず,さすがの安定感。
いっきゅうさんからは,MAPの考え方を校内研究に生かそうというもの。校内研究で体験学習サイクルを意図した仕掛けをしたという実践報告です。
従来型の憂鬱な校内研究の進め方と対比する形で,MAPの考え方を生かした進め方を紹介してくれました。キーワードは「話合いを活発にする」「授業を提供して良かったと思えるフィードバック」「次につながる体験学習サイクル」です。
事後検討会を「ジゴケントウカイ」,授業参観を「サンカン」というように,アクティビティのように扱うセンスがいっきゅうさんらしいです。校内研究が憂鬱な物ではなく「ワクワクするものにすること」,これが大切なのではないか,という主張でした。
2人目はPingpong。事例発表会初登場です。昨年度の10年研での発表会資料を基に実践を紹介してくれました。このところ脂が乗ってます。タイトルは『小学校社会科におけるMAPの手法を活用した実践事例』です。
5年生の社会科の単元「情報化した社会とわたしたちの生活」の中の,小単元「2 社会 を変える情報」「3 情報を生かすわたしたち」を,学区内にある石巻赤十字病院を事例に挙げて指導した様子の報告でした。
Pingpongの実践のキーワードは (1)体験学習サイクル,(2)地域素材の活用,(3)宿題の活用,(4)普段の学級作りの4点です。それぞれの成果として,
ということを挙げていました。
Pingpong自身からは,この実践が本当に体験学習サイクルを回しているということになっているのか,ちょっと自信がない,というような正直な思いも出してくれました。それに対して参加者からは,「例え間接的な体験でも体験学習サイクルになり得る」「体験学習を教師が意識しているかどうかということは大きな違い。意識すれば工夫のしようがある」などというような励ましのフィードバックがありました。
Pingpongには,これからもこういったMAPの考え方を教科で具体的に生かす,という実践をどんどん発信してほしいですね。
ここで突然テツに無茶振り。せっかくの機会で初めて顔を合わせる方もいるので,アイスブレイクが必要かな,と思ってのこと。これまで2コマは完全な後頭部凝視型でしたので。テツが提供してくれたのは以下の2つ。やっぱりシャベリカって使えますね。
シャベリカを1人1枚引いて,ペアになります。互いに名前を紹介した後,シャベリカの話題を相手に振り,互いに話します。シャベリカを交換して次の相手を探します。
「あんたがたどこさ」を歌いながらの手遊び。最初は1人で,次は二人で肩を組んでペアで。こんがらかるところが面白いアクティビティです。
まっつからは,特別支援学校における実践を発表してもらいました。
まっつは福岡県生まれの北海道育ち。そして現在は宮城県の教員。震災時は気仙沼の小学校に勤務していたそうです。現在は気仙沼支援学校でご勤務です。
まっつは,ご自分の学校ではもちろん,地域にもMAPを生かした活動を行っているそうです。地域にある,小中高,敬老会との交流会の実践,青年学級(卒業後の生徒の集い)などでも積極的にMAPの実践を取り入れています。支援学校の児童生徒さん達は,認知面だけではなく,コミュニケーションにおいても課題があるということでした。だから,あいさつや小グループでの自己紹介,大根抜き,集合ゲームなどの,ふれ合いとか目を合わせる必要があるアクティビティを意識して取り入れているそうです。
その他にも,近隣学校でのMAP体験講師,そして「手をつなぐ育成会」主催の行事にも講師依頼が来ているそうです。気仙沼地区でのホープです。
今後,インクルーシブ教育の観点から「合理的配慮の提供」ということが条例にも示されているということでした。教室内,学習時におけるFVCの確立(アクティビティをしなくても意識することが大切),授業のユニバーサル化(分かりやすい授業は,特別支援の必要な子以外にとっても同じ),教師間の結びつき(これが一番大切),こういう視点で取り組んでいくことが必要ではないか,という提案をしていただきました。
午後のスタートは,あややからです。あややは高校の家庭科教員。震災時は,松島自然の家にいらしたこともあって,その体験談から話してくれました。
実際に高校の授業にMAPを取り入れるた事例として,調理実習でパスタを作ったときのことを紹介してくれました。トライ&エラーから学ばせることの大切さについて考えさせられました。私見ではありますが,体験学習サイクルを考えた時,学校はあまりにもお膳立てしすぎていないかな,と感じることがあります。誰かの話でこんな言葉を聞いたことを思い出しました。「今の子どもたちに必要なことは『さんざん努力した後の失敗体験』である」という言葉です。この言葉って,今の教育の逆だよなあと思うことがあります。今の学校って「あまり努力しなくても味わえる成功体験」が横行しているような気がするのです。余談でした。
あややは,今の学校の子どもたちの特徴として,自尊感情の低さを挙げていました。これからの学校で心掛けたいこととして,ミニティーチャーなどを使っての学び合い,意志決定をさせる場面,考えようとする場面を意図的に作ること,などを挙げていました。そして,自分自身の指導者としての指導観をもつこと,価値観・向上心・創造性を高めること,そして自己研鑽を続けることをこれからもやっていきたい,と結びました。我々自身が成長することも大切ですね。
続いての発表はえんやすです。特活のスペシャリストでもあるえんやすは,今年度行われた県の特活研究大会で発表した内容をベースに話してくれました。
えんやすの1年間を見通した学級経営は,MAPの考え方を存分に生かしている,いわばモデル的な実践だと思います。年間を通して「安心できる環境」を作ることに全力を注ぎ,楽しむこと,本気でやることの大切さを体験の中で学ばせていきます。そして,具体的な活動として,例えば運動会での全員リレー,30人31脚,学芸会,卒業式などの機会を生かして意図的,計画的に活動を組み込んでいく,というスタイルは示唆に富んだものでした。
この年間の見通し,そして年間を通して貫く姿勢と覚悟,これがまず担任の中にベースとしてなければ,いくらアクティビティをやったところで効果は上がりません。えんやすの発表は,継続的,かつ計画的な取組の大切さを物語っています。ちょんせいこさんや岩瀬直樹さんが言ってました。継続的に,愚直に,あきらめないでこつこつ積み上げて,ようやく成果が見え始めたなあと思えるのは,10月,11月くらいじゃないか,とです。えんやすの発表も,子ども達が変わることを信じてあきらめずに続ける,っていうことの大切さを教えてくれます。
MAPは,そのアクティビティが取り上げられて,即効性のあるものだとか,劇的な変化を起こすものだ,と勘違いされることが相変わらずあるようです。年間を通した取組の大切さ,ということをもっとアピールしていく必要があるのかもしれません。
とりを飾るのはスフィンクスです。スフィンクスは,学校の防災主任です。しかし最近は外部での活動も忙しいようです。あちこちから引っ張りだこです。
発表の初めに「今,地震が起きたらどうします?防災グッズもってます?」という投げ掛けにドキッとしました。震災で経験したことが,いつの間にか「のど元過ぎれば・・・」みたいなことになっている自分自身に反省させられました。
発表を聞いていると,スフィンクスの中では,MAP=防災教育,というのがかなり意識されていることが伝わってきます。MAPをやってきて,そして震災が起こって,改めてMAPの仲間が自分にとって大切か,ということを認識した,と言います。そして,いかに「生きる力」が大切か,ということを考えたとも言います。「生きる力」の3つの要素…確かな学力,豊かな人間性,健康と体力,これらのいずれも,MAPと深く関連しますね。
防災教育とMAPの関わりとして,例えば全職員が参加する防災マニュアル作りの必要性についても提案しました。そこには体験学習サイクルの要素と,集団の力を引き出すというMAPの要素があります。また,防災教育のコンテンツを生かしながら,MAP指導者としてのファシリテーションスキルを使って指導に当たっていくことも我々の大切な仕事ではないかということを考えさせられました。ちなみに,昨年度あべpapaたちが研修センターで作った「防災教育スタートパック」,そして今年度,その研究を引き継いだ形で作った「防災教育トレーニングパック」もぜひぜひご活用ください。
スフィンクスは,資料として「第2次教育振興基本計画(→PDF)」を準備していました。教育行政の基本的方向性の中に書かれている内容のほとんどが,MAPで大切にしている考え方とリンクしていることに驚きました。MAPでやっていることは,間違いなく大切で必要なことなのです。MAPって必要なの?と言われたら,だって教育振興基本計画にもろに書いてあるじゃないですか!って言えますね。
スフィンクスがPreziでプレゼンした中の図が,個人的にストンと落ちました。学校教育の基本コンセプトである「生きる力(確かな学力・豊かな人間性・健康と体力)」,志教育で示されている「地域参加・社会貢献・役割意識」,復興教育の視点である「リジリエンス(感情の認知と制御,コミュニティの力)」,こういう力を「フルバリュー」の考え方を指針として育てていけば,肯定的な人生観に結びついていくだろう,っていう図です。単純に考えると,MAPで大切にしている考え方は,今教育の中で大切にしなくてはいけないことがすべて網羅されていますよ,この考え方を我々が伝えていくことで,よりよい人生観をもつ子どもが育ちますよ,それは間違いのないことです!っていうことだと思います。ちょっと短絡的過ぎたか・・・
でも,スフィンクスはこれについて問題提起をしてくれました。この「すべてにおいてMAPの考え方は大切だ」という間口の広さが,MAPが思うように広がっていかない要因にもなっているのではないか,ということです。アクティビティの種類の多さ,意味付けによって変わる活用の仕方,振り返りの多様性(難しさ),すべての学習場面で使えますよ,っていうコマーシャル・・・この選択肢の多さがMAPを難しくしているのではないか,ということです。まさに「選択肢が多すぎると選べない」という状態です。
そこでスフィンクスは,MAPの焦点化を提案しています。その具体策として,MAPを焦点化する表を示しました。どの授業(教科,行事)で?部活動で?生活指導で?特別指導で?・・・それぞれ場面を限定し具体化して,その時にMAPのどんな要素を取り入れて実践につなげるのか,ということを自分で書き出して焦点化することで,よりMAPの具体的な提案ができるのではないか,ということでした。なるほどなるほど。我々がそれぞれの校種,立場でできることは限られています。何となく,とか感覚的なものって大切ではあるのだけれど,MAP指導者の責任として,どうすればもっとMAPが受け入れられるか,ということをもっと考えることが必要だな,と私自身も考えさせられました。
■発表スライド(Prezi)はこちらです(ブラウザで閲覧できます)。
http://prezi.com/yz7rsa5hq2t9/map01/
【参考】TED:シーナ・アイエンガー:選択をしやすくするには(日本語字幕)
http://tr.loopshoot.com/id/1330
今回は,全部で6本の実践が集まりました。最後のスフィンクスの提案のように,今後もこういう具体的な多くの実践を持ち寄ることができればいいな,と思いました。
今回は,会議室がめいっぱいでしたね。それはそれで熱気むんむんだったしよかったのですが,今後は,発表内容をあらかじめみんなで考えて,もっと外部(MAP研究会会員以外の人)達にも広く発信する機会もあっていいのではないかと思いました。まだまだニーズはあるな,やっぱりMAPはいいな,と再認識できた研修会でした。
来年度もがんばりましょう!
(報告:みっちぃ)