MAP研究会は,宮城県教育公務員弘済会の支援によって活動しています。
■ 日 時: | 2011年 1月22日(土)10時〜15時 |
■ 場 所: | 東京エレクトロンホール宮城 401中会議室 |
■ 内 容: | 今年度の学びを共有しよう |
■ 担 当: | 研究委員 |
■ 報 告: | みっちぃ,いのき,Sphinx |
■ 参 加 者: | 15名 |
このまとめは,東北地方太平洋沖地震の直後に書いたものです。記録担当者の資料が散逸するなどして,不完全な報告になっていることをお詫びします。また,この原稿は現在作成中のものです。まだ整理されていない部分があります。 |
今回は,MAP研究会の会員が今年行った実践の中から,共有したいものを持ち寄って研修を行いました。それぞれの発表内容は体験的な活動を含んでいましたが,クラスや授業の中に自然に溶け込んだものになっていて,「これぞPA」というようなアクティビティの研修とは趣の違う研修会となりました。
また,休日の研修にもかかわらず,MAP研究会の高橋仁会長がお見えになり,私たちにはげましの言葉をかけてくださいました。
今回の発表は下の表のとおりです。
発表者 | 発表内容 |
---|---|
Sphinx | 高校のクラスで「ペア・コミュニケーション」をしたら… |
ドラゴン | 体験あって学びなしにならないための授業づくり 〜模擬授業を通して考える〜 |
kenya | ブッククラブと言語力向上の教室環境づくり (「実践国語研究 2・3月号」の記事と連動) |
まんちゃん | 学級づくりと授業づくりの一体化を図るMAP 〜グループワークからクラスワークへ(理論と演習)〜 |
あべPAPA | 持続可能な社会をつくる教育の授業実践(2010) 〜協同の学びを通して〜 |
イマ | Q-Uの回答における社会的望ましさバイアスに関する一考察(調査研究) |
今年度,蔵王高校のあるクラスで,クラスの一体感を高めることをねらいとして,1時間半の活動を2回行いました。その中で行った「ペア・コミュニケーション」というアクティビティが面白かったので紹介します。
「ペア・コミュニケーション」は,ちょんせいこさんの著書に詳しく紹介されています。例えばこちらの書籍を参考にしてください(→[Amazon]学校が元気になるファシリテーター入門講座)。簡単に書くと,参加者が横並びに対面して,正面の人といくつかの話題で1〜3分の間,互いに話をするという活動です。
今日のお題は4つ。
お題が与えられたら,握手をして簡単に自己紹介をした後,対話を始めます。ひとつの話が終わったら,片方の列の人は席をひとつずれて,違うペアを作ります。皆さん,話が弾んで楽しそうでした。
蔵王高校で6月と11月の2回実施したうち,1回目の6月には次の4つのお題で行いました。初めて実施するに当たっては,私もクラス担任も,生徒たちが乗ってきてくれるか不安でしたが,やってみればそれは杞憂に終わりました。若干,恥ずかしがったり話がすぐに終わってしまうペアもありましたが,多くのペアは楽しそうに話をしていました。
実施してみて印象に残ったエピソードを3つ紹介します。
ある女子生徒とある男子生徒は,この活動で初めて言葉を交わしたそうです。つまり6月まで互いに話したことはなかったわけですが,この日以来,互いによく話をする間柄になったそうです。
2つめのお題「中学校の思い出」は,出てくる話が悪い思い出ばかり。でも,そうやってあまり楽しくない思い出を互いに共有するのも,意味のあることだと思いました。
「このクラスは何色?」というお題ではいろんな色が出ました。「灰色」と話した生徒にその理由を聞いてみたら,「いろんな色の人がまじっているので灰色かな」という答え。なるほど。
一番多かったのは「黄色」という意見でした。そのことを生徒たちはしっかり覚えていて,後日,球技大会のクラスTシャツの色を決めるときに,「この前の活動で黄色という意見が多かったよね」という話になったのだそうです。それで黄色のTシャツを作ることになったと,クラス担任が教えてくれました。
高校のクラスで「ペア・コミュニケーション」をやってみて感じたのは,この活動がとても手軽なのに,生徒たちに大きなインパクトがあるということです。今のクラスは生徒たちにとって「仲間と過ごす場」になっていないようです。交差点を渡るときのように,互いに相手のことに興味を持たず,ただそれぞれの都合でたまたまそこにいるだけ。そして,知らない人からいきなり傷つけられないように,自分の言動に常に注意する。
でも,ちゃんと話す場,そして出会う機会をつくることで,生徒たちはちゃんと互いに出会いなおすことができるんですね。ペア・コミュニケーションは,その入口のツールとしてとても有効だと思いました。
(報告:Sphinx)
久々登場のドラゴン。登場するなりクーラーボックスを開けてオレンジジュースを取り出して,みんなに振る舞っています。むむ〜? 何かある? …というみんなの予感が的中。実はこのジュースは,添加物を組み合わせてつくった無果汁飲料でした。
さっそくみんなで実験開始。ペットボトルにの1リットルの水に,クエン酸,リン酸塩,砂糖,着色料(黄色5号),香料(オレンジエッセンス)を入れてかき混ぜます。そうするとあら不思議。さっき飲んだオレンジジュースができあがります。オレンジ果汁は一滴も使っていません。着色料を入れて振るとオレンジジュースの色になるのもビックリ,砂糖の量にもビックリ。
この教材は,みやぎ生協生活文化部が1セット200円で販売しているものです。
みんなでジュースを作った後で,演習がありました。お題は「もしみなさんがこのことを授業するとしたら,どの教科でどんなねらいでやりますか」というもの。それぞれ指導略案をワークシートに書いた後,みんなで共有しました。こんなアイディアが出ましたよ。
科目 | ねらい |
---|---|
○保険 | 歯を磨くことの大切さ 食べ過ぎ飲み過ぎに注意 |
○家庭科 | 成分表示の見方を学ぶ 量を実感する 添加物は何から作られているか |
○総合 | 探求活動の導入(原料に注目 例えばチョコレートの原料のカオは子供たちの労働によって支えられていることなど) 環境を壊しているものへの気づき〜地域の中の自然のものを生かすという流れ |
○学級活動 | おやつのトびら(テレビ番組をもじって;冷えている冷えていないという違いからのアプローチ) 食育の観点から 夏休み前の指導に |
○国語 | ラベルの比較検討 ディベート 意見文 説明文作り |
○算数 | 割合の学習 |
○社会科? | 工業製品の生産過程に気付かせる 材料・原料・加工 物作りの完成形からプロセスを学ぶ |
大事なことは教材・素材を,何のためにどうつかうのかということです。PAは素材ではあってもねらいではない。それをどうMAP風にアレンジしていくのか,そこをしっかり考えないと「体験あって学びなし」になってしまいます。
最後に,ドラゴンからの補足があります。
「添加物ジュースはPA,その体験をもとに指導案を考えたことがMAP」だと自分は考えてあのプログラムを組みました。「体験あって学びなし」のねらいの部分です。MAP講習会等で,インパクトのある体験,グループワークなどPAでは様々なことを感じてきました。それも大切ですが,私たち教師は,子どもにどのように与えていくかねらいを持ち,実態をふまえ,形を変えて使っていくことで初めてMAPとしての意味を持つと思っています。あの時も言いましたが「こどもたちに返ってMAP」。私にとってのMAPはミッション,アクション,パッションです。
(報告:みっちぃ)
例えば「Care for self and others」「challenge」「let go and move on」そして「be here」「play hard」等々のMAPで使う言葉を英語で掲示するということから始めていくなど,教室の環境を英語とMAPにしていくということもいいのではないか,という話から始まりました。
その後「My name 一族」というアクティビティをみんなでやりました。これはまず最初に,何かテーマを決めて参加者をいくつかのグループに分けます。今回は果物をテーマにして,「apple」「banana」「pineapple」「strawberry」の4グループに分けました。それからペアを作って,あいさつ(Hi!)→自己紹介(例えば My name is apple.)→じゃんけん→勝った方の果物になってしまう,というやり方で繰り返していきます。回数を決めて行います。
頭星人,おなか星人,お尻星人の鬼ごっこじゃないような感じですかね。ちなみにペアを作ったとき,同じ一族だったらハイタッチです。
このアクティビティはいろいろ応用できるし,英語活動の導入にはとてもいいという話でした。
こちらも掲示物の話をしてくれました。子供が書いた物を貼る,という壁面の使い方がとても効果がある,という話でした。先生に読んでもらうのではなく壁面に貼って友達に読んでもらう,という形にするのだそうです。そうすることによって,貼る前に子供自身が点検するようになるということでした。
ブッククラブというのは,仲間で同じ本を読んで本について語り合う読書サークルです。週に1時間定期的にブッククラブの時間があり,その日までに同じ本の同じ部分までみんな(グループ)で読んできて,ブッククラブの時間に話し合います。
ブッククラブをやるときも「自他を大切に」ということを意識させて進めています。また教室環境を整えることが重要で,例えば「四字熟語」「ことわざ」「比喩の表現」などを本から抜いてストックし,掲示するということもやっています。
話し合いは,はじめのうちはテーマを与えて行いました。例えば「その本が好きか嫌いか」そして「その理由は?」というようにです。そのうち慣れてくると,だんだん自分の意見を言えるようになっていきます。子供たちは,人の意見にはなかなか意見を言えなくても,本になら言いやすいという面もあるようです。
この活動は,ライティングワークショップ(作家の時間)と連動させることで,さらに力を付けていくことができると思います。
ちなみに本の種類ですが,同じ本を6冊ずつ15種類ほど所有しています。これはこまめにブックオフに通って集めています。どんな本を選ぶかというのも大切ですが,やはり「外れのない本」(定番)というのがあるようです。このあたりは詳しく聞けませんでしたので,kenyaに相談するのがいいのかもしれません。
(報告:みっちぃ)
人間関係プログラムには,プロジェクト・アドベンチャーや構成的グループエンカウンター,その他いろいろありますが,どれも問題意識は同じところにあります。その中で,PA(冒険教育)はアドベンチャーとかチャレンジが特徴で,野外教育から始まったところが,研究室や実験室から生まれた他のものと違うところです。
大切なことは, こういう機会が日常的にあるかどうかです。普段しないでいて, 1学期に1回あるかないかのお楽しみ会のようなゲームをする…と, しらけてしまったりルール破りをしたりする子供が出てきて雰囲気が悪くなります。 そうすると,「もうこういうことはやめておこうか」と教師も子供も思うので, ますますふれあいの時間が少なくなくなってしまいます。日常的にちょっとした時間に実施して, ふれあいを喜ぶ「ふれあい体質」の集団にしていくことが大切です。
そのためには,学力を伸ばす指導と人間関係を高める指導を統合して,同時に展開していくことが必要です。学習内容やねらいに応じながら,4月〜5月は一斉学習,5・6月はペアワーク,ペア学習,6・7月はグループ学習と,生徒たちを段階的に「学びの共同体」へといざないます。
また,グループ学習もねらいによって人数をコントロールします。私は,思考を深めるときは4人グループ,思考を広げるときは5・6人グループというふうに使い分けています。
2人でペアになり,それぞれ1と2を担当して同時に音読します。最後にぴたっと合ったらハイタッチ! 役割交替もします。これは,ちょっとしたチーム体験です。一体感を感じると,「このクラスっていいな」「みんなで一緒に勉強するって楽しいな」と子供は思う。その感じを味わわせることが「また,みんなで勉強したい」という気持ちにつながり,行動の再現性や,やる気をを高めます。ここから,さらにグループ音読,ランダムトークへと発展させます。
ランダムトークとは,ある課題が与えられたら,グループの枠を越えて情報を共有しあい,全員が正解するという活動です。
振り返りでは「誰のどんな発言や行動が素晴らしいと思いましたか」「課題解決のためによかったことはなんですか」という視点で行います。人間関係が悪かったり分断しているクラスでは全員正解までの時間が遅くなります。情報伝達が「鵜飼い型」だと共有に時間がかかります。また,先生としかつながっていないクラスはやたらと時間がかかります。ローカル・トークがあちこちで,ひそひそあるけれども,なかなか全体で共有されません。
逆に,情報の流通量が多いクラスほど速く共有されます。コミュニケーションの活発なクラスほど速いです。ネット型コミュニケーション。大きい声が出せる,みんなに言えるのは,その子の周りがいいからです。
振り返りの終盤に「タイムをもっと短くするためにはどうしたらいい?」と投げかけ,「じゃあ次は,そこを改善できるように頑張ってみよう」と,次への目標設定をします。こうやってチーム力を高める問いかけをし,作戦タイムを設定して取り組みます。学級改善,授業改善は,先生だけが頑張っている現実がありますが,そうでなく子供と一緒に改善していくのです。
「受容感」「効力感」「向社会性」「対人積極性」などの望ましい心理特性は,「何でも話せる友達が6人以上いる」と答えた児童生徒とそれ以下の児童生徒とのデータを比較した場合,顕著な差があることが分かっています。多くの友達との関わりをもつことが,個人の成長を促す意味でも,学級集団を育てる意味でも重要です。(河村茂雄2007)
子どもの話合いを見ていると,力のある子の周りに何人か集まって,あとは周囲にいて話合いに参加していない様子をよく見かけます。・・・それでもなにがしかの結論が出ることもあって,一見,問題がないように見えますが,意思決定にまったく参加していない子もいます。彼らはそのたびに,自分が参加しなくても物事は進んでいくということを学んでいるのではないでしょうか。 輪になってお互いの顔が見える状態になるとそういう状況は減っていきます。だから,話合いをするときは「輪になること」を教えるのです。
輪になるとみんなの顔が見えます。輪の中心からみんなが同じ距離にいます。それは,みんなの意見が同じくらい大事なんだということを示す,話合いの形です。
続いて,宮城県教育委員会で推し進めている「志教育」のミニ模擬授業を行いました。
「好きな仕事ができるようになったのは誰のおかげでしょう」
多少の考える時間と数人の指名のあと,書家の紫舟さんのことばが紹介されました。「幕末には身分制度があり,坂本龍馬さんらが創ってくれたのが現代」…好きな職業につく,志に生きる,夢に向かう……すべては自分の手にあります!
この教材は,汎用的なものにしてありますが,実際の授業で行うためには,どんな時にどんな目標で行うか等の「仕立て直し」が必要とのことでした。
(報告:いのき,Sphinx)
南三陸町立伊里前(いさとまえ)小学校で取り組んだ,持続発展教育(ESD:Education for Sustainable Development)について紹介します。持続発展教育については,例えば下記のサイトを参照してください。
伊里前小では4年生が総合的な学習の時間「南三陸のワカメを自慢しよう」でワカメの養殖を行っています。これは,本校が海にたいへん近いという地域性を生かした活動です。
この研修会の約1ヶ月後の2月28日に,4年生が育てたワカメが宮城県庁18階の「レストランぴぁ」でお客さんに出されました。ワカメはアサツキと笹かまぼこの酢みそあえの小鉢に仕立てられ,ランチと弁当約200食分に提供されたとのこと。こどもたちはこの日,社会見学でレストラン「ぴぁ」を訪問し,自分たちも食べた後,周囲のお客さんにパンフレットを渡してワカメのことを説明しました。
(報告:みっちぃ,Sphinx)
Q-U(楽しい学校生活を送るためのアンケート)を実施すると,小学校の普通の荒れていないクラスなら,おおよそ60%が「学級生活満足群」に属します。この半数以上の生徒が満足という結果に,担任の先生は満足していいのかどうか。また,そのようなクラスでも,グループワークの失敗などがあると,失敗体験からある程度期間をおいてもその後のQ-Uの結果が大きく変動してしまうことが少なくないのです。
そのような点から考えて,「学級満足群」の中には,「学級に満足しているつもり群」や「今現在は取り立てて不満がない群」が含まれているのではないかと考え,Q-Uと同時に「親和動機尺度」「孤独感尺度」と「友人関係場面における児童用社会的スキル尺度」の調査を実施し,「学級生活満足群」の児童が本当に満たされていると言えるかどうか,明らかにしようと試みました。
現段階の結論としては,サンプル数の少なさもあり,残念ながら有意差を見いだすことができない状況です。今後も継続して取り組んで生きたいと考えています。
(報告:みっちぃ)