トップページへのリンク 2006年 第9回研修会活動報告(2月)

MAP研究会は,宮城県教育公務員弘済会の支援によって活動しています。

■ 日   時: 2006年 2月24日(土)10:00〜15:00
■ 場   所: 富谷町立富ヶ丘小学校
■ 内   容: 事例研究会
■ 担   当: 研究委員
■ 報   告: Sphinx
■ 参 加 者: 8名

事例発表の様子

まんちゃんの事例発表

Q-Uアンケートの結果を考察する

今なぜQ-Uが必要なのか。

最初に,まんちゃんのファシリテートで二つの問題に取り組みました。

Q1:どんな形が見えますか?

Q1の図形

答えの例:四角,四角と丸。クラスにたとえると,四角は集団,●は個人。集団を見るときと個人を見るとき。

Q2:形で気づいたことは。

Q2の図形

●が多い。★と○が一つ。クラスに当てはめたときの比喩として,例えば,集団の中にリーダーが一人と軽度発達障害の子が一人とか。

他に何か気づきますか?●が多いけど,よく見ると●も少しずつ形が違うのが分かりますか?「普通」と括られる中にも,しっかり違いがあるという比喩に使えます。

Q1やQ2でたとえられること,こういうことがQ-Uを使うことによって見えてきます。

次に,小学生用のQ-U「いごこちのよいクラスにするためのアンケート」を,クラスを職員室に置き換えてやってみました。ページの左側の得点を足し合わせたものが「承認得点」,右側の得点を足し合わせたものが「被侵害得点」になります。承認得点は自分の存在や行動が級友や教師から承認されていると感じているかどうか,「被侵害得点」は不適応感を持っていたり,いじめ・冷やかしなどを受けていると感じているかどうかを示します。

それぞれの得点を縦軸,横軸の中にプロットすると,4つの群に分けられます。今日の参加者の分布は,次のようになりました。

このQ−Uアンケート,以前は「いじめ被害・学級不適応児童発見尺度」という名前でした。生徒一人一人のクラス内での立場(置かれている状況)が分かり,教師がチームとして生徒に関わるときの共通の座標軸,視点として使うことができます。

このQ-Uが注目される背景には,こどもの対人関係能力が低くなり,集団生活や人間関係のマナーが身についていないといったこどもの変化や,アセスメントによる科学的実証性が教育にも求められるようになっているという世の中の流れがあります。

Q-Uで何が分かるか

承認得点と被侵害得点という二つの軸でつくられる空間に,一人一人がプロットされます。その位置から,クラス内での一人一人の生徒の立ち位置が分かり,個別支援の視点が得られます。また,4つの群に各生徒がどのように分布するかということから,学級経営の方針が導かれます。

アンケートの結果を見て,右上の「学級生活満足群」に属する生徒が増えるように,大きく二つの観点で検証していきます。承認得点の軸では,一人一人が学級に居場所をつくっているかどうかという視点で検証します。てこ入れをする必要があれば,クラスの生徒同士のリレーションが確立するような働きかけが必要だということになります。また,被侵害得点の軸では,安心して生活ができているかという視点で検証します。ここに問題があれば,クラスのルールやマナーを確立するための働きかけが必要だということになります。

クラスによって,どちらか片方の取り組みが必要なクラスもあれば,両方の取り組みを同時にしていかなければいけないクラスもあるでしょう。

今年度の取り組みの成果

今年度,全校的に5月にQ-Uアンケートを実施。その結果を受けて,個別支援や学級経営の方針を立て,生徒への支援を行いました。そして12月に2回目のQ-Uアンケートを実施して,支援の効果を検証しました。まんちゃんの所属した1年次では,学級生活満足群の割合が上がり,非承認群,侵害行為認知群の割合が下がりました。また,1年次の不登校生徒がゼロでした。

二つのエピソード

承認群の生徒に活躍の機会を与えた

非承認群の複数生徒に対して,地域の先生による民謡の学習で活躍の場を設定しました。生徒たちは地域の先生や家族,生徒たちにほめられ,自信を深めました。その結果,承認得点が向上し,学級生活満足群に上がっていきました。

班日記の取り組み

班日誌というものを毎日書かせています。班の生活の自己評価欄では,「係の仕事」「予鈴着席」「授業への取り組み・発言」などを自己評価します。これは,班内でのルールの確立(被侵害得点を低くする)を意識したものです。また,今日の感想・クラスのみんなへのひと言という自由記述欄では,リレーションの確立(承認得点を高くする)を意識しています。

質疑の中から

かずさん

河村教授が言っていたのは,すべての児童生徒を学級生活満足群にするのが第一の目的ではなくて,これをとおして児童生徒が自己認識を深めたり,教師の学級経営を改善に役立てるのが目的で,学級生活満足群が増えるというのはその結果としてそうなったということ。2回目のアンケートの前にお楽しみ会をやって雰囲気を盛り上げるなど,小手先の取り組みで結果のみを追求することがないように,気をつけなければいけない。

まんちゃんからのお薦め書籍

データが語る①
 学校の問題---学力向上学級の荒れいじめを徹底検証
 河村茂雄著(図書文化)

えんやすの事例発表

アドベンチャーグループカウンセリング

 今年度4年生を担任し,MAPにおけるアドベンチャーグループカウンセリングの手法を取り入れることで,対人関係の力や自己肯定感を育てたいと考えて実践を行いました。その効果測定はQ-Uを用いました(春と11月の2回実施)。

 今,振り返って考えると,先ほどのまんちゃんの話で出た「ルールの確立」という部分は,ビーイングや動きのあるアクティビティから,ルールの大切さや意味を体験的に伝えてきたと思います「リレーションの確立」という部分は,こども同士のつながりを,アクティビティを活用してつくっていった面と,直接面接をして話したり,励ましたりして伝えた面があると思います。

実践内容

MAPを活用した取り組みは,学級活動をとおして意図的・計画的に行った部分と,学校生活のいろいろな場面で機会を捉えて実施していった部分があります。

<学級活動(年4回)>
時期 題材名 内容
 5月 グループの仲間で大切にしていきたいこと 班ごとのビーイング
 9月 学級の旗をつくろう 学級全体のビーイング
12月 フィーリングリレー 感情カードに書かれた内容を表現して競争(相手の感情の理解)
 2月 自画 自分について書いた内容を伝え合う(自分を表現する,仲間の多様性を受け入れる)

エピソード(機会をとらえて実施した部分)

体育でハンドベースボールのルールが分からずに,ボールを投げずにプレーを止めてしまった子がいて,そのことを周りから責められて泣いてしまいました。振り返りでそのことを取り上げました。「泣いてしまった○子の気持ちを考えてみて。感じたこと,考えたことは?」

話し合いを経て共有できた学びは「できない人,分からない人の気持ちを考える」。その言葉をビーイングに付け足しました。

児童の変容

12月の2回目のアンケートで,1回目との変容を見ました。その結果,次のようになっていました。

残念ながら承認得点が下がった2名については,個別にアンテナを高めて接しています。また,学級生活意欲調査の結果では,「学級の雰囲気」と「友達関係」が向上しました。「学習意欲」は変化なしでした。

まとめ

 Q-Uアンケートからクラスの変容がよく見え,自分がクラスの児童とやってきたことが,実際に効果を上げていることが確認できました。アドベンチャーグループカウンセリングからのアプローチが効果的であると感じています。

質疑より

かずさん

クラスの雰囲気は道徳の授業に良く出る。これだけ変容が見られると,道徳の授業もいい感じになっているのではないか?

えんやす

毎日書かせてる日記から,自己肯定感の向上が見える。日常生活の中でも,児童の成長(対人関係)が見える場面がある。道徳の授業の中では特に意識したことはないが,それぞれが自分の考えを持てるようになってきているとは思う。

いまの事例発表

グループワークのシェアリングの方法に関する一考察

事例発表の様子

シェアリング(振り返り)は,通常,ファシリテーターがあまり介入せずに,非構成的な手法で行われます。そうすると,特に初対面でのメンバーでの初期のシェアリングにおいて,

というような状況が生まれることが多く,このことがグループワークにマイナスの効果を及ぼすこともあります。

そこで,初期のシェアリングを構成的に行うことで,グループワークのねらいがより効果的に達成できるという作業仮説を設定し,検討を行いました。

実験内容

3つのグループでグループワークを行い,構成的なシェアリングがどのような効果をもつか Kruskal-Wallis検定で検証した。
グループ1 シェアリングなしで2回のワークのみ
グループ2 ワーク+非構成的なシェアリングを2回
グループ3 ワーク+構成的なシェアリングを2回

構成的なシェアリングとは,パスルールありでメンバー全員に発言の機会を与えるシェアリングのこと。非構成的なシェアリングとは,ファシリテーターが介入しない,従来のベーシックエンカウンター風なシェアリングのことです。

結果

事前−事後のKruskal-Wallis検定およびShirley-Williams検定によると,20項目中10項目の尺度で有意差が認められました。それによると,構成的なシェアリングのほうが,グループに対して

という感覚が高まったことが分かりました。

考察

検定結果を考察すると,構成的なシェアリングのほうが…

という結果となり,作業仮説が立証された。

学校において活発な意見を期待したい場面や,企業などで行われる会議での意見交換を促進させるために,このような構成的なシェアリングを積極的に使っていけるのではないでしょうか。ファシリテーターは,外から入ってきたやり方にとらわれすぎるきらいがあるが,今までやって来たことをもっと生かしたらいいと思います。

質疑より

Sphinxよりアナウンス

広報部より今年度のまとめの報告書について

Sphinxから,今年のMAP研究会の活動内容を DVD にしたものを,会員全員に配布するというアナウンスがありました。また,その内容の一部をデモンストレーションしました。

いっきゅうさんの事例発表

小学1年生に実施したアクティビティ集

No.ACT名どんなときに?どうなった?
1名前交換4月の授業参観で保護者も交えて実施。お互いの名前が分かってとてもよかったという感想。
2Being 学級目標1学期中旬 学級目標に関係する具体的な姿を書いて貼る2学期は「ありがとうカード」,3学期は「今日のgood&new」に移行
3右折のみ鬼ごっこ1学期 体育でルール徹底できず・・・
4ご対面1学期末 誰が代表になるかでもめる。一人が仕切る。みんなで決めた?
5トレジャーハンター1学期末? 生活で本当は全校トレジャーハンターまでやろうと計画していたが,タイミングを逃し断念
6東西南北2学期 体育であったまる。
7こおりお手玉2学期中頃 体育で助け合いを楽しむ。
8ラインナップ2学期 体育で一部で納得。全部では?
9インパルス2学期 体育で集中。
10前後左右2学期中頃 体育で興奮して説明が聞けない。話を聞く姿勢は?
11大車輪鬼3学期 体育であったまる 回る方向で混乱 鬼が止まってしまう子も・・・
12めちゃぶつけ3学期 体育で 投げるのが下手なので「ぶつけた」「ぶつけられてない」のトラブル続発1回目。当てられたほうは分からないのだから・・・の話し合い。
13サケとサメ3学期 体育で タッチされた?されない?教師が判定⇒自己申告 
14体でじゃんけん3学期 国語「じゃんけん」とからめて 13からの流れで人数が多くなると,グループ内で間違えが多くなる。どうすれば?の話し合い
15妖精魔女巨人3学期 国語「じゃんけん」とからめて 13,14からの流れで人数が多くなればなるほど,一人一人が話し合いに参加しなきゃというのを確認して実施。
16グループジェスチャー3学期 体育・幼稚園の先生とゴリラ,サル,ライオンをジェスチャーでやったあと,グループジェスチャーに。動物園・水族館・職員室・入学式。

名前交換

4月。自分の名前を書くところからハードルが高い!授業参観だったので,保護者も名前交換。

ビーイング

学級目標は「なかよく・かしこく・やるきまんまん」。「なかよく」ってどういうことかな?こどもたちと相談したり,こどもたちに提案したり。今はこれにたくさん付け足して,隙間はありません。今は,帰りの会で行う「今日のグッドアンドニュー」に引き継がれている。

ご対面

誰が代表になるかでもめる。一人が仕切った。振り返りは「みんなで決めるには?」

前後左右

手をつないで円になるだけで興奮状態。説明できなかった。振り返りは「お話,聞けたかな?」

めちゃぶつけ

「ぶつけた」「ぶつけられてない」で紛糾。どちらの意見が正しいの?この学びが次の「サケとサメ」で生きました!

巨人妖精魔女

人数が増えるほど,間違ったポーズをする子が増えていく。話し合いへの参加について学んだ。

ある日のエピソード

平均台鬼ごっこをしたときです。2グループで競争すると,苦手な児童がモタモタしている姿に,声援がだんだん「早く,早く!」とせかす声に…。

振り返りでは,「早く!と言われてどんなかんじだった?」と。答えは「あせった」。で…落ちた。ということは「早くって言うことで,かえって遅くしていたんだね!」ということになりました。そこで,もう一度チャレンジ。

こんどの声援は,「ゆっくり,落ち着いて!」。それで,苦手な子もさっきよりずっと早く次の子にタッチできました。

※安全面の配慮は忘れずに!

自分のクラスの評価スケール

河村教授のソーシャルスキル尺度にいくつか付け加えて,自分なりの評価スケールを作成した。5・6年生をイメージしている。

アセスメントで考えること(いま_からのコメント)

みっちぃ(資料のみ)

Q-Uアンケートの結果を考察する

みっちぃ本人は参加できませんでしたが,資料を送っていただきました。題名は「Q-Uアンケートの結果を考察する」,副題は「MAPを意識した取り組みと学級通信「Fullvalue」を振り返って」です。

各種アクティビティの活用,「運動会」「音楽会」などの行事をきっかけとした意識づくりを行い,その効果を2回のQ-Uで測定しました。1年の取り組みを振り返って次のように述べています。

タッキー(資料のみ)

学級活動と総合的な活動の時間でフルバリュー学級づくり

タッキーも,本人は参加できませんでしたが,資料を送っていただきました。題名は「フルバリュー学級づくり」,副題は「子どもたちの人間関係と社会性を育む体験学習」です。

学活や総合的な学習の時間に,ねらいに応じたアクティビティを計画的に取り入れるとともに,学校行事や学年行事をひとつの大きなアクティビティととらえて,見通しをもたせ,目標設定と振り返りを次の活動に生かすという体験学習サイクルを意識した指導を行いました。その効果を,2回のQ-Uアンケートで測定しました。

2回目のアンケート結果から,1回目より向上してることが分かり,気にかけていた二人の児童も個別の声がけと活動の支援が成果となって表れました。Q-Uを実施してみてその有効性が分かり,来年度は学年全クラス,または全校での実施もいいのではないかと感じました。