MAP研究会は,(財)カメイ社会教育振興財団
宮城県教育公務員弘済会の支援によって活動しています。

 = 第6回研修会(蔵王高校)・活動報告 = (Sphinx)

写真:縄抜けの術?
縄抜けの術?

 12月9日(土)のMAP研究会の報告です。今回はKATとTOMOを含めて21名の参加者が,蔵王高校の体育館でハイエレメントに挑戦しました。最新のエレメントを備えた真新しい体育館で行った研修の様子を報告します。今回は,KATのファシリテーションで,自分が知っていると思ったアクティビティをちょっと違った角度からとらえ直すことができて,たいへんためになりました。

★参加者★(名簿順)

 のり(野中映里さん),Sphinx(山口裕之),しょう(高嶋正之さん),Sugar(佐藤博さん),BOB(菊地潤さん),Kuni(高城邦弘さん),うさぎ(佐野督郎さん),みっちゃん(光井正さん),TOMO(関智子さん),HIGU(樋口隆宏さん),こんちゃん(金野和男さん),小野寺洋征さん,KATMAN(難波克己さん),マイケル(佐藤浩樹さん),クワガタ(早坂潤さん),やわらちゃん(菅原さん),石垣さん,佐々木ひとしさん,高橋雅夫さん(えぼしペンション),宮本英俊さん,村井晃子さん,以上。

★目次★

  1. インパルス
  2. マッピング
  3. アンケート
  4. ヒューマンチェア(人間椅子)
  5. ミラーストレッチ
  6. 人間知恵の輪
  7. パンパーポール

1.インパルス

 まずは円陣になって,アイスブレーキング。今日は自分の呼ばれたい名前でインパルス。KATが起点となって自分の名前を言い,そこから左回りに一周する時間を計ります。目標設定をして何度かチャレンジし,限界に近づいたら今度は右回り。なぜか右回りの方が左回りより明らかに遅かったです。

2.マッピング

 ちょうど円陣の中心にセンターサークルがありました。KATが靴を片方脱いで「足の長さが違うと歩きにくいね〜」なんて言ってます。何が起こるのやら…。

 KATがセンターサークルの中心に赤い毛糸玉をひとつ置きました。

「これがMAPのベスト・ポイントです。自分がこのベストポイントにどれくらい近づいているか,片方の靴を置いて表してください。」

参加者はそれぞれ自分の思ったところに片方の靴を置きます。センターサークルより外側の人が多いかな?

写真:マッピング

 次に「PAのベストポイント」とか「バレーボールの技術」とかでもやってみました。私は「PAのベストポイント」の場合は,センターサークルの半径の2倍のところ,「バレーボールの技術」のほうはセンターサークルよりちょっと内側に置きました。

 PAをいろんな教科の中で使っていこうと私たちは考えているわけですが,例えば体育のバレーボールの授業の中で,こういうマッピングをしてみるといつもとちょっと違う雰囲気になりますね。チーム編成の前に「バレーボールの技術」でマッピングをしたらどうでしょう。いろんな靴がいろんな場所に並ぶわけですが,その靴を6つずつ組み合わせてチームをつくるという方法もあります。体育以外にも,例えば数学では「二次関数への親しみの程度」で教室内マッピングをしたりすると,事前テストの代わりになるかもしれません。KATからは他にもクラス経営の中で使う例として,中心を「1年後に学級全体で目指したいこと」として,そこに気持ちとしてどれくらい近いかというマッピングをするというアイディアもいただきました。

 これらのマッピングは,教師側の実態把握にも使えますが,生徒が自分を振り返るきっかけになるという点が重要です。自分自身の実態をふり返ってから,その活動に参加する。それによって,より深く積極的に活動に取り組めるようになるんじゃないでしょうか。「個からはじまる集団」を大切にするPAならではのやり方です。

3.アンケート

 次にマッピングとちょっと似ているアンケートというアクティビティをやってみました。円陣になって,ファシリテーターの言ったことに該当する人が場所を移動します。例えば「昨日飲み過ぎた人」とか「朝,パンを食べてきた人」など。これも自分自身や他の参加者の実態把握ですね。

4.ヒューマンチェア(人間椅子)

 どうしてこういう流れになったか忘れましたが,次にヒューマンチェアで歩いてみようということになりました。

●ヒューマンチェアの作り方●
  1. 肩が触れ合う程度に円陣を縮める
  2. みんなで左を向く
  3. 内側の足が前後の人の足と接するまで寄ってさらに円を小さくする
  4. 「ありがとう」などの合図とともにみんなで一斉に座る

 いつものようにヒューマンチェアを作ってから,みんなで少し歩きました。最初に重心を内側に倒して外側の足をちょっと前に出して,次に重心を外側に倒して内側の足をちょっと前に出して…その繰り返して進んでいく…はずだったんですが,その場で足踏みしていただけで終わってませんでしたか?

5.ミラーストレッチ

写真:ミラーストレッチ

 いつものミラーストレッチと違って,相手のぬくもり(赤外線パワー?)を感じるミラーストレッチです。二人で向き合って手を合わせるのはいつもと同じですが,そのときに互いの手を直接合わせないで,1.5cmぐらい離します。そうすると,自分の手には接していないのに相手の手の温かさを感じることができます。その状態から,リーダーではない方が目をつぶって,リーダーの手の動きを自分の手に伝わるぬくもりだけを頼りにして追従するというものです。相手の手が動いていくと自分の手が寒くなるのがよく分かります。赤外線を使って無線交信をしているみたいで刺激的でした。寒い冬に体を暖めてからやるのが効果的かもしれません。

 このようにミラーストレッチにはいろんな発展形があり,例えば小学生には「指と指を合わせたミラーストレッチ」というのも面白いそうです。また,思春期の生徒の場合,特に相手の顔の接近が恐怖感をもたらすので,接近を意識させない配慮が必要な場合があります。互いの手を直接合わせずに行うのはその一つの方法です。

 どちらがイニシアチブを取るかという観点から見ると,リーダーを決めて行うパターンとリーダーをはっきりとは決めずに行うパターンの2種類があります。リーダーを決めない場合は,相手の意思(追従/拒否)を手の感触から感じ取って自分の行動を決めていくということになり,グループワークのトレーニングの要素が入ります。

 集団の中には「引っ張るのが好き」というタイプの人と,「ついていくのが好き」というタイプの人がいるわけですが,どんな場合でも「ついていく」という極端な人は,自分の意思決定を行っていない依存的な人ということになります。また,ラグビーと野球を例に挙げて,スポーツによって選手の意思決定の範囲に違いがあるという話もでました。ラグビーは,試合が始まると監督はスタンドで応援しかできないので,選手たちがすべての意思決定を行います。一方,野球は選手のひとつひとつのプレーに監督のサインが影響を与えます。野球の方が,ラグビーより依存的なんですね。私は,日本人が野球を好む理由のひとつがこの依存性だと思うんですけど,皆さんはいかがですか?

6.人間知恵の輪

 70cmぐらいの長さのロープを人数分用意して,人間知恵の輪をしました。人間知恵の輪はロープを使わないでもできますが,ロープを使う意味は「距離をとる」ということです。こうすると,接近を嫌がる思春期の人でも参加しやすくなります。

 人間知恵の輪をやる前に,そのロープを使ってひとつのアクティビティを行いました。このアクティビティに名前があるのかどうか分かりません。ロープを一回結んで緩いシングルノットを作ります。手をつなぐ代わりにそのシングルノットを作ったロープを持って円陣になります。そこでKATがひとこと。

「これをほどいてください」

2グループに分かれて一生懸命やるんですが,ひとつほどくとどこかが絡まって,次第にこんがらかってわけがわからなくなってきました。どちらのグループも,シングルノットがほどけて一本になるゴールを頭に描いていたのですが,とうとう挫折。KAT曰く,

「これは絶対一本にはなりません。ほどけているように見えるのはノットが巨大になっただけ。それでいいのです。一本にしてとは言わなかったでしょ。」

う〜ん,だまされた…?

 次は本当の人間知恵の輪。円陣になってロープを持ち,右手は右手同士,左手は左手同士つなぎます。ロープを介しているので10人ぐらいでやっても互いにそれほど接近はしません。そこからロープをまたいだりくぐったりして解いていきます。

 解いてみると,ひとつの円になる場合と,二つの円が絡まったままになる場合があります。ひとつの円になるかどうかは,ロープを持った時点で誰かを起点にしてインパルスをしてみればわかります。しかし,最初からそれを教えないのがコツ。輪が二つになったチームには「どうやってチェックすればいい?」と投げかけるのです。

縄抜けの模式図

 次に,二人組になって行う「縄抜け」のようなアクティビティもやりました。図のようにロープで両手をつなぎ,それを相手とからませます。この状態から縄を解かずに二人が分離するというものです。手首にまいている部分は,指が2〜3本通るくらいの余裕を作って結びます(マスキングテープでぐるっと固定してもよい)。コツをつかむとあっという間に抜けるんですが,私のペアは最後までうまくいきませんでした。

 うまく抜けられたペアには,次に「もとの状態に戻す」という課題を与えます。それから次に発展問題として4人組で同じ課題にトライします。(二人が手をつないで両端の手をロープで結ぶ→それをもう一つのペアのロープとからませる)

 このように,一般的に言って課題は難しいところからスタートしないで,簡単なところからはじめて徐々に難しくしていく必要があります。「チャレンジしよう!」という動機・やる気をそがないということです。例えば12本のくぎを全部1本のくぎに載せるというちょっとしたクイズがありますが(実は私はまだこの答えが分からない…),あれはやり方が分かれば48本を載せることもできるのだそうです。しかし,いきなり48本を載せて…とは言わない。それでは挑戦者のやる気を失ってしまうからです。

(注)縄抜けの術をしてはいけない場合:虐待経験者に対して,あるいは少年院のような場所で。

7.パンパーポール

 昼食をはさんで午後はパンパーポール。源流の森では,野外にしっかり固定されたポールがありましたが,ここ蔵王高校の体育館では,ポールを体育館の床に「よいしょ」と立てるだけ。それをみんなで支えなければなりません。今回私は飛びませんでしたが,源流の森より怖そうでしたよ〜。
パンパーポールの模式図

 図のように,ポールを4本のロープで支えます。各ロープに最低3人は必要。そしてポールの根元を抑える人もいます。それに加えて挑戦者のビレイ役が3人。このパンパーポールには20名ぐらいのメンバーが必要です。端から見ると,まるで消防の出初め式のようです。

 挑戦者は支えるメンバーに声をかけてからポールに登ります。登りながら挑戦者と下で支えるメンバーが声を掛け合います。先端の板は足がちょうど乗る程度の狭いもの。みんなで支えているといっても,ポールの先端はかなり揺れます。挑戦者は先端に片足をかけてもう片方の足を揚げるとき,大きな恐怖感を感じます。自分との戦いを下のメンバーは見守ります。足がかかる,両足があがる,手を離す,そして立つ。「よし!」という下からの声。挑戦者は目の前のボールを見据えます。飛ぶ前の一瞬の静寂。挑戦者の足のふるえがポールを支える全員に伝わってきます。そして「行きます!」の声とともに挑戦者は跳躍します!

 40分で6人が次々に空を舞いましたが,どちらかというと女性の方がすんなりと跳躍しているようでした。空中のボールにさわったのも女性でしたね。

 ところで,このパンパーポールにも,いくつかの使い方があります。例えば,

などなど。人数が必要なわりに,一人が挑戦するのにけっこう時間がかかるアクティビティなので,使い方に一工夫が必要かもしれません。

 今回の参加者の中には,パンパーポールを源流の森で経験していた人と,今回はじめて経験する人がいました。そういう経験の違いというのは,これから私たちが生徒にこの課題を与えるときにも起こり得ます。それについては,「何回やってもそのたびに新鮮である(あるいはそのように持っていく)」というような話になりました。

 まず前回とはグループの状態が違うでしょうし,多くの場合はメンバーそのものが違うでしょう。その中で前回より少しでも進歩しようと思えれば,その生徒が再挑戦する価値は十分あります。ファシリテーターとしては「前回はどうやったの?」「どうやってできたの?」「じゃあ次はどうしてみる?」というような働きかけをして,再挑戦する気持ちをサポートします。あるいは前回よりチャレンジレベルを高くして,進歩したいという意欲をかき立てます。例えば目隠しをして挑戦するとか,後ろ向きで飛んでみる,下で支える人とのコミュニケーションを限定的にする(例えば支えるメンバー一人だけとやりとりできる)など,新たなハードルはいろいろ設定できます。

 最後に,挑戦者が途中でやめる場合の注意点として,ポールの足場を使って戻さないということを教わりました。逆戻りして戻ってくるのではなくて,そこから命綱を使ってみんなに支えてもらって降りてくる方が良いということです。そうすれば,その生徒は「戻ってきた」というよりも「そこまで行った」という気持ちになるでしょう。それが次の挑戦につながります。

■推薦図書■

 すべての活動を終えて車座になって少し話をしました。その中で,KATMANから1冊の本を紹介されました。今回の推薦図書はこれです!著者が大学の一般教養で行った「教育」という科目の授業記録です。

働くことと学ぶこと
−わたしの大学での授業−

里見 実
太郎次郎社(2370円)

 ちょっと引用。

この「教育」の講義のなかで,われわれがとりわけ「労働」の問題にこだわるのは,それがもっとも根元的な人間の自己形成の営みであるからである。こうした可能性をもつ労働が,その本来の性格を喪失し,低落化していくことは,人間の生活態度の全般に波及する。労働者が仕事のなかにほんとうの意味での励みを見いだすことができないということと,学校で学ぶ若者たちが「与えられたものを,しぶしぶこなす」という仕方で「学習」に「従事」していることとの間には,なにか本質的な連関があるのではないだろうか。労働の衰退と,学習の衰退。両者はべつのことではないようだ。

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