トップページへのリンク kuni の研修日記

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kuniの研修日記(15)
フィードバック

8月15日 フィードバック(高知県教育センター分館)

※この日誌の中では,KATが僕にくれた初めてのフィードバックについて紹介しています。教員という立場と何かを伝える講師という立場の違いをあらためて教えてくれたKATには心から感謝したいと思います。そして,このフィードバックが僕の心の中にあって,今の自分を支えています。

前夜のミーティング

 室戸をあとにし,僕はコニタンの車に乗せてもらって高知市内へと帰ってきました。いろいろな話をお聞きし,また当日の出来事について自分の体験も交えながら励ましてくれました。「なんてあたたかいんだろうみんな…」

 KATに「今日あったことは,これからのkuniへの学びとしなさい。あまりにも大きな代償を先生には与えてしまったけど,その分までがんばるという気持ちで…」とお話しをいただき,次の日の活動への準備に入りました。

 翌日は,ワーキンググループというPA主催の4泊5日ワークショップを受講されている方も多いグループと,興味を持ったのでという全く初めての方の体験会として参加されるグループが,同時進行で進む形式だそうです。人数は,な,なんと120人ぐらい。この人数を6時間で動かすことになるのです。しかもファシリテーターは4人(KAT,マスター,コニタン,kuni)。ここで,当日の予想される環境は…。

人数 120人(ファシリテーター4人)
  • 小学校の先生50名程度
  • 中・高の先生50人程度
  • 養護教諭10人程度
  • その他にワーキンググループ
体験レベル さまざま
  • 4泊5日ワークショップ受講者
  • 介良潮見台小学校教員(林さんとペコちゃん,2日前のKATとkuni)
  • 初めての方々 など
場所 体育館(バスケットコート1面分),敷地内建物
参加者の背景 受講者の多くは前日からの3日間に日程で参加しており,前日は「構成的グループエンカウンター」について,1日講義と演習を受けている。(そこで,「参加したくない人は参加しなくても良い」と教えられている)

とざっとこのような環境だそうです。

プロの仕事 「PAは人に生きる」

 「うーん,どうしよう…」さすがにKATも困ったようでした。しかしこれをどうにかするのが,プロでした。

「学校現場に即して話すにしても小・中・高・養護と別れているから,担任,とか教科など異なるしなあ…」
「さらに,前日のエンカウンターとの兼ね合いで,それとの関連も話さないとなあ…」

などちょっと考えたあとで,「よし,これでいこう」。

 グループワークより「見せるスタンス」でいこう。ファシリテーターが異なれば当然違うというところを見せて「道具が先にあるのではない。使い方が先だ,というところを見せよう」ということになりました。

 そう,「PAは人(の背景)に生きる」ということを。

 全体の流れとして,体験レベルの差にあまり関係しないことをやっていこうということになりました。

 具体的には…

目標 最低10人は名前を覚えて帰ろう!
スーパーであったら挨拶をできるくらいに
全体で 講義形式 + 笑い,エラー
グループで アイスブレーキング 意味について,環境について,安全について
そして何より FUN!! で
昼食をはさんで
全体で Being
Bridge It
DNA

なんていうアウトラインで行こうということになりました。「明日も,僕の時間を1時間もらえる」という前向きな気持ちに切り替えて,翌日の準備をしました。

朝のミーティングで(フィードバックその1)

 教育センターに着くと,場所の確認をして,控え室に入りました。センターの方に飲み物などを準備していただきセンターの方が一段落つくと,「すみません。ちょっとミーティングを行いたいので…」ということで,席を外していただきました。「ちょっとみんなすわってくれる。」KATの一言。

「kuni,昨日はどうだった?昨日のことについてフィードバックしたいと思うんだ。いい?」
「ハ,ハイ。お願いします。」
「ここに,マスターとコニタンにもいてもらってもいいかな。みんな,仲間だし,お互いにそれを知っていることはいいことだと思うんだ。だから,マスターもコニタンもしっかり聞いてて…。」

 僕は,昨日の事故を起こしてしまったシークエンスやグループの読み方について,いろいろなご指摘をいただき,お叱りを受けるのを覚悟しました。しかし,フィードバックを受けるのは,そこのポイントではなかったのです。それは…。

「kuniのこの行為が僕にはちょっと信じられなかったんだ。kuniは昼休み,ぶつかってしまった女性の先生が泣いているのを見たとき,どんな行動をとった?」
「一生懸命励まそうと思いました。うん,だからどんな行動をとったの?」
「『大丈夫?大丈夫だよ。』と声をかけました。」
「それだけ?」
「あとはあまり覚えてないのですが…。」
「kuniは先生の頭を励ましながら,なでてやっていたのが,僕には見えた。」

その通りだった。僕はとっさに,なでてやったことが思い出された。

「その行為が,僕には信じられなかった。なでるということは,状況に応じていいときもあるが,僕たちの今の立場ではやるべきことではないと思う。なでるって,それだけで距離がものすごく縮まるということだよね。学校では生徒をなでるという行為をよくするかも知れないけれど,それは長い年月の中での関係であって,距離を縮める必要性があるから。この行為は参加者を後輩と見ている証拠だよ。それってフルバリューしているって言えるのかな。学校の先生という立場と研修会などの講師という立場は明らかに違う。講師は自分から距離を縮めることはない。参加者が近づきやすい雰囲気を作るのは大切だけど,自分から歩み寄る行為はやめることだよ。」

フィードバック(その2)

「それと,参加者との距離の取り方をもう少し考えること。休憩などの時に参加者と話すのはいいことだが,その中での自分の言葉遣いはどうだった?自分の教員としての後輩に向かって,という口調,感覚になっているときはない?kuniも僕たちとここに来ているということは,教員として,先輩としてここに来ているのではないんだよ。プロジェクトアドベンチャーを伝える使命を負った人として,講師としてここに来ているのであって,それを考えた言動や行動をとらないといけない。それは僕たちにとっても大きなマイナスとなってしまう。だから,例えばマスターは小学生を対象にしたプログラムでも,しっかりとした丁寧な言葉を使っている。それは,小学生であっても大人であっても同じ研修を受けているメンバーであり,PAを伝えるものとして接しているからなんだよ。」

フィードバック(その3)

「自分をディスカウントする言葉は使わない。例えば,僕がkuniが先生方と話をするのを聞いていて,笑いながら「自分も『なんちゃって英語教師』だから」などと話しているのが聞こえたんだけど,そのようなことを言ってはいけない。kuniは講師としてここに来ているのだし,講師が自分をさげすむような言動を使っていたら,それがいい環境になってしまう。それに,もしそれが本当だとしたら,僕たちに対してもすごいマイナスになるだろう。そんな人が講師としてきているのか,ということになり,PAJの信用も薄れてしまいかねない。励ますため,や,距離を縮めるために,そのような言葉は絶対に使わないこと。」

フィードバック(その4)

「講師をしていて,『よくわからないけど…』という前置きは全く必要ない。『知ったかぶり』をすることも時には大切。『それについては自分の中でまだ絞り込めてないので…』というのも一つ。これは自分の責任を逃れる言葉になってしまう。『自信がない』のは講師として許されない。講師として『凛(りん)』と立つことも必要だよ。わからない人が講師としてきているということが絶対にあってはならない。」

『ありがとうございます』

 ほんの2,3分の出来事でした。このあと,僕は涙が出そうになりました。悔しかったから?悲しかったから?いや,違う。やっと,少しだけ一員になれたと思ったから…。

「ありがとうございます。」

これを言うのがやっとで…。とにかくうれしかった。すごいつらかったけど,このフィードバックの中にはとてつもない大きな宝物が今も詰まっているのです。この感想を言葉で表すのはこれ以上できません。

 「さあ,今日のことだけど,この体育館だと…」またいつものように,PA時間が流れ始めました。何事もなかったように,進み始めました。「さあ,kuniは今日はどんなことをやるのかなあ…?」マスターもコニタンもいつもと変わらぬ笑顔で,全くいつもと変わらずの行動である。この瞬間真剣に考えました。そして近いうちに実現させます。

「PAJで働くのもいいかも…。」

kuni