平成14年度
中学校理科−新しい教材・教具を用いた理科実験
2002年10月24日(木)
地層の観察と化石採集(焼河原)
http://www.asahi-net.or.jp/~KY3N-KNK/museum/jp/museum.html ※転載許可を得ています。
目次 |
【1】野外観察法について
- 野外観察(化石採集)のしかた
- 火山灰の観察実習
- 竜の口層について
- 仙台の大まかな地史
- 参考になるウェブサイト
【2】巡検資料:焼河原での地層観察・化石採集(※ウェブ版では省略)
- 焼河原への案内図(集合場所)
- 周辺の地形図
- ルートマップ
- 竜の口層の貝化石(図版)
宮城県蔵王高等学校
山口 裕之
【1】野外観察法について |
ここでは,野外観察や化石採集についての基本的な知識と,焼河原周辺の地質についてお話しします。焼河原での実習を充実させるための準備です。
1.野外観察(化石採集)のしかた
●出かける準備
まずは出かける準備をしましょう。【図1】に野外調査に適した服装と持ち物を示しました。
慣れないうちは,この通りに持っていくことをお薦めします。慣れてくると,自分に必要なものと不必要なものが分かってくるでしょう。
これらの持ち物に加えて,泥の中から鉱物を見つける場合などは,ザルとバケツがあると便利です。また,夏から秋にかけては蚊やアブに刺されることも多いので,虫除けスプレーを持っていくといいでしょう。
【図1】野外調査に行くときの服装と持ち物(せんだい地学ハイキングより)
●さあ,出かけよう!…どこに行ったらいいのかな?
準備ができたらさっそく出かけましょう。でも,どこへ出かければ地層や化石に出会えるでしょう。森の中?山奥?家の庭を掘ったら?
いえいえ,地層や化石はやみくもに出かけても出会えるものではありません。まずは地層や化石を観察できる場所を教えてくれるガイドブックを読みましょう。次のページに挙げた書籍には,仙台周辺の化石・鉱物産地が図入りで詳しく説明されています。地層や化石の場所を知るもう一つの方法は,県内で行われる地層観察会,化石・鉱物の採集会に参加してみることです。参加者同士語らいながら観察・採集すると,自分の知らないことを教えてもらえたりして,一人で来るよりたくさんの宝を手にすることができるでしょう。
宮城県内の化石・鉱物採集のガイドブック
『せんだい地学ハイキング−気分は宝さがし!−』
地学団体研究会仙台支部編,1,300円(仙台宝文堂)
日曜の地学…18『宮城の自然をたずねて』
竹内貞子著,1,854円(築地書館)
『宮城の地学ガイド』
宮城県高等学校理科研究会地学部会編,1,250円(仙台宝文堂)
『宮城県の地質案内』
宮城県高等学校理科研究会地学部会編,670円(仙台宝文堂)
仙台周辺の化石・鉱物採集会
地学団体研究会仙台支部では,年数回一般市民を対象にした化石・鉱物採集会を行なっています。要項は各学校の学校長・理科主任宛に送られていますので,それを参照してください。 |
●現地で…
観察・採集の前に
観察・採集を始める前に,いくつか注意点やマナーについて触れておきましょう。
・不必要な採集はしないこと。
化石は有限のものです。でできるだけたくさんの人が研究や観察に使えるように,採集は必要限度にとどめてください。必要以上の数を採ったり,手荒に扱って壊して放置するなどの行為はマナー違反です。
・その土地の所有者や使用者に断ること
化石が産出する露頭は,国有地であったり誰かの私有地であったりします。採集する場合は,土地の所有者にひとこと断る必要があります。近くに民家や工事現場がある場合は,そこの人に事情を説明して了解を得てください。
・採集後の岩石片や崩れた土砂はできるだけ片づけること
採集の過程で岩石片や土砂が路上,あるいは沢の中に散らかってしまうことがあります。特に路上ではそのまま放置して帰ると通行のじゃまになったり,美観を損ねることにもなります。立つ鳥跡を濁さずの精神で行きましょう。
地層の観察
目的地に着いたら,荷物を下ろしてまず休憩。最初に地形図で位置を確認します。次に,露頭全体を見渡してみます。
- 本当に露頭かな?(転石かもしれない)
- 何種類の地層や岩石が出ているかな
- それらの位置関係は?(整合/不整合,断層・褶曲の有無など)
だいたいのところを把握したところで,今度は露頭に近づいてハンマーで新鮮な部分を出しながら詳細に観察します。
- 岩石の種類(岩相)
- 走向・傾斜(クリノメーターを使って)
- 堆積構造の有無(級化層理,斜交層理,リップルマークなど)
どんな目的で観察するかによりますが,化石・鉱物採集が主目的な場合,このぐらい見ておけばいいように思います。地層の観察そのものが目的の場合は,さらに次のような作業を行います。
- 露頭のスケッチ・写真撮影などによる記録
- ルートマップへの記載
- ・岩石のサンプリング
化石はどこにあるか
さあ,地層についての観察が終わったら,いよいよ化石を採集しましょう。しかし,初心者の人は「ここで○○が採れます」と言われても,どこをどう掘ればいいのかなかなか分からないことが多いようです。そういう時は,しばらくベテランの後をくっついて行って,ベテランがどんなところを探しているかよく観察してください。例えば…
- 化石や鉱物は,上下方向にせまい帯状の部分から出てくることが多い。
- 地層の境界が下に膨らんだところにたまっていることがある。
などの知識の用いて合理的に探しているはずです。ベテランのテクニックを盗みましょう。
時には自分の足下にも注意してください。目当ての宝が,さりげなく転がっていることがよくあります。
掘り出しかた
見つけた化石を掘りだすときの七つ道具は,【ハンマー,タガネ,ビニール袋,古新聞紙,マジックペン】です(5つしかないけど)。なるべく化石から遠い場所から掘り進めて,化石を壊さないように注意して掘り出します。
しまい方
掘り出した化石・鉱物は,壊れないうちに古新聞につつんで,【採集年月日,場所,地層名,化石名(分かれば)】を書き,ビニール袋に入れて持ち帰ります。小さい鉱物の場合は,フィルムケースに入れて持ち運ぶと便利です。
●家に帰ったら…
家に帰ったら,採集の感動が薄れないうちにクリーニングをして標本箱に入れて目立つところに飾ります。もし採集しっぱなしで新聞紙につつんだまま1ヶ月も放っておけば,感動は薄れ,そのままがらくたのように捨てられかねません。そうならないように,化石たちにもう一度活躍の機会を与えてください。
まずはじめに,クリーニングをして表面の泥や土を歯ブラシなどで落とします。石灰分でかたまっている場合は,酸性の溶液をかけて歯ブラシや金ブラシなどでこすり落とします。細かいところは待ち針や歯医者さんの使うスケーラーで丁寧に落としてください。細かい作業が必要な場合は双眼顕微鏡で見ながら行う方がいいでしょう。
採集時に割れたものや,そのままにしておくと割れてしまいそうなものは,接着剤で補強します。水で薄めた「木工ボンド」などを使います。
名前が分からない化石があったら,図鑑などで調べましょう。インターネットも意外に使えます(後述)。もちろん仙台市内の場合は「せんだい地学ハイキング」も使えます。
『化石の写真図鑑』
シリル・ウォーカー/デビッド・ウォード著(日本ヴォーグ社)
『原色化石図鑑』
益富壽之助・浜田隆士 共著(保育社)
名前が分かったら,ラベルに必要事項を記入して標本箱に入れましょう。
2.火山灰の観察実習
焼河原の観察実習の最初の地点では,向山層のなかの火山灰層「広瀬川凝灰岩部層」が観察できます。広瀬川凝灰岩部層は,300万年前の大火砕流のときに降り積もった火山灰です。
火山灰は,噴火する前にマグマの中で自由に成長していた鉱物と,噴火時にマグマが急冷されてできたガラス片からできています。火山灰の中の鉱物は,マグマの中で自由に成長していたので,その鉱物本来の形(自形)になっているものが多く,顕微鏡で観察するととてもきれいです。
※ウェブ版では省略します。次の資料を参照してください。
- 火山灰の手引き−双眼実体顕微鏡による火山灰の砂粒分析法−
野尻湖火山灰グループ著(地学団体研究会)
地学ハンドブックシリーズ4
- 自然を調べる地学シリーズ3「土と岩石」
(地学団体研究会編)
3.竜の口層について
竜の口層は主にシルト岩,砂岩,凝灰岩からなり,多くの動植物化石を産出します。
模式地
分布および層厚
- 青葉区竜の口渓谷,広瀬川の主に南側の岸,太白区鈎取付近,
- 青葉区北部(小松島,台原,水の森,北山,荒巻本沢,国見)
- 泉区大満寺周辺(国道457号線沿い),
- 泉区南中山(ニューワールドゴルフクラブ)から北中山にかけて
- 泉区焼河原西方,
- 青葉区上愛子の広瀬川沿い,多賀城市高崎付近
層厚は分布の中心域で厚く40〜60m,周辺部では15m程度。
岩層
本層はシルト岩,砂質シルト岩を主とする海成層で,凝灰岩および細粒砂岩を互層状にはさんでいます。
化石
本層からはたくさんの動植物化石が産出します。主なものは,
- 貝化石(タカハシホタテ,ゴウロクタマキガイなど多数)
- クジラ(頭骨,椎骨,肋骨,耳骨)
- サメの歯
- 植物の葉,球果,花粉;珪藻
その他,イルカ,クモヒトデ,エイ,ウニ,ミミズ,馬の歯,ゾウなど多種多様な
化石が産出しています。
時代
【図2】竜の口峡谷・八木山橋付近の崖のスケッチ(せんだい地学ハイキングより)
4.仙台周辺の大まかな地史
【図3】仙台付近の層序(新編・仙台の地学より)
図3に仙台周辺に存在する地層の層序を示しました。この図から仙台付近の地質の特徴をいくつか読みとってみます。
- 時代は,新生代新第三紀と第四紀が中心で,2600万年前以降の岩石からなる。それらの岩石を支える基盤岩は,中生代や古生代の古い岩石である(約1億年前より昔)。
- 仙台付近は,中新世の時代に1回,鮮新世の時代に2回,海になっている。海の時代には,砂岩・シルト岩・凝灰岩などが生成し,陸の時代には凝灰岩や火山岩,湖生層や段丘堆積物などが生成した。
図4に仙台市内の地質概略図を示しました(※ウェブ版では省略)。この図から仙台市内の地層分布の特徴を拾ってみます。
- 広瀬川と七北田川にはさまれた仙台市中心部(青葉区のみやぎ台まで,宮城野区,若林区)は,鮮新世の亀岡層・竜の口層・向山層・大年寺層と,河川沿いの段丘堆積物(第四紀)など,比較的新しい時代の地層が中心である。
- 広瀬川より南側の仙台市太白区と,七北田川より北側の仙台市泉区,およびみやぎ台より西側の青葉区では,鮮新世の地層を取り囲むように,中新世の地層(白沢層,三滝玄武岩,湯元層,旗立層,茂庭層,七北田層など)が広く広がっている。
- 秋保町馬場や大東岳周辺には,周囲より新しい鮮新世の地層が分布している。
- 船形山から泉ヶ岳にかけては,第四紀の火山岩が広がっている。
これらのような仙台周辺の地質が,どのように形づくられてきたのか,仙台の2600万年の生い立ちを簡単に振り返ってみましょう。
【図4】仙台市内の地質概略図(せんだい地学ハイキングより)
(※ウェブ版では省略)
●仙台の大地の生い立ち
まず大陸(≒陸地)というものがどのようにしてできるかということから始めましょう。大陸はおおざっぱに言って,中心部に先カンブリア代の古い岩石(安定帯とか盾状地と呼ばれる)があり,その周りを古生代以降にできた新しい岩石が取り巻いています。古生代以降の岩石は,海のプレートが大陸の下に沈み込んでいくときに,自分の上に乗っていた堆積物を大陸の縁にペタペタとなすりつけたものです。そのなすりつけられた堆積物(付加体)は海のプレートが押す力と,次々になすりつけられる新しい付加体の圧力によって次第に隆起して,新しい大陸の一部になっていくのです。【図5】
【図5】付加体の概念図(自然景観の読み方8 日本列島の生い立ちを読む より)
(※ウェブ版では省略)
今から2000万年前までは,日本とアジア大陸の間に日本海はなく,日本はアジア大陸の東の縁に位置していました。当時の日本は現在の朝鮮半島からサハリンのあたりにあったと考えられています。西南日本は,古生代から中生代にかけてこの位置で沈み込んだプレートによってつくられました。東北日本の土台については新生代の地層が厚いためによく分かっていないのですが,ジュラ紀の付加体ではないかとされています。
2000万年前(新第三紀中新世),日本にとって大きな事件が起こりました。日本とアジア大陸の間に裂け目ができ,それが広がって日本海が誕生したのです。日本海の拡大は,1500万年前頃には終了し,列島の骨格ができあがりました。
仙台市南部に露出する高舘層(安山岩,玄武岩)が1800万年前の地層なので,ちょうど日本海が拡大している頃,仙台付近では高舘の火山が陸上で盛んに溶岩を噴出していたということになります。
その後,東北日本は海の時代を迎えます。茂庭層は海岸線や浅海に堆積した地層,その上の旗立層はそれよりもやや深い海に堆積した地層です。綱木層の時代になって,海はだんだん浅くなっていきます。現在の奥羽山脈あたりから陸地になり始め,仙台付近では七北田層が堆積した仙台市泉区付近をのぞいて陸化しました。
陸化した一帯では,火山活動が激しくなり,陸地には火砕流や火山灰が降り注ぎました。内陸には火山の爆発にともなう凹地ができ,湖ができました。秋保石として有名な湯元層の角レキ凝灰岩や,葉っぱの化石が採れることで有名な白沢層(凝灰質シルト岩)が,この時代の地層です。
550万年前の鮮新世の時代になると,仙台付近は再び海の時代へと向かいます。亀岡層は低湿地に堆積した陸生の地層ですが,その次の竜の口層は,海に堆積した地層です。
500万年前,低湿地に次第に海が進入してきました。この海は仙台市から現在の北上川沿いに岩手県の花巻付近までずっとつづく内湾になりました。【図6】この竜の口の海には,寒流が流れ込み,貝やクジラ,サメ,イルカ,サメなどの生物がたくさん住んでいました。青葉山より西は陸になっていて,そこにはセンダイゾウやウマがいました。また,山にはブナ,くるみなどとともにマツやツガなどの針葉樹が生い茂っていました。さらに西方の奥羽山脈あたりでは,あいかわらず火山活動が活発で,ときどき仙台付近にも多量の火山灰が降り積もりました。【図7】
【図6】「竜の口の海」の範囲(せんだい地学ハイキング より)
【図7】「竜の口の海」時代の仙台付近(せんだい地学ハイキング より)
竜の口の海はやがてひいていき,仙台はたいらな低湿地になりました。低湿地に運ばれてきた流木は,後に亜炭になりました。今からおよそ300万年前のある日,現在の七つ森のあたりにあった火山がひときわ大きな噴火を起こし,大規模な火砕流が仙台を埋め尽くしました。その厚さは10m近くありました。竜の口峡谷で見られる塊状無層理の凝灰岩層「広瀬川凝灰岩部層」は,このときの火砕流堆積物です。その後も低湿地には土砂や流木がたまり続け,砂岩や亜炭層ができました。
その後,再び海が進入してきましたが,今度の海進は小規模なもので,八木山一帯とその北側だけが海になり,他は陸のままでした。
第四紀になると,氷床の消長にともなう海面変動によって,主に河川の周辺が侵食と堆積を繰り返し,5段の段丘面ができました。また,1万年前の縄文海進で現在の宮城野海岸平野一帯が海になり,平野の沖積層が堆積しました。その後,海が退いて,そこに平野ができました。
5.参考になるウェブサイト
【2】巡検資料:焼河原での地層観察・化石採集 |
- 焼河原への案内図(集合場所)
- 周辺の地形図
- ルートマップ
- 竜の口層の貝化石(図版;せんだい地学ハイキングより)
- 【付録】宮城県の地質図(宮城県の地質案内より)
(※以上,ウェブ版では省略)
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