養護学校高等部でのMAPの実践

宮城県立光明養護学校 教諭 山口 裕之

 本校は知的障害のある小学生から高校生が在籍する養護学校です。養護学校でMAPというのは,養護学校の教師でもイメージしにくいのではないかと思います。が,やってみるとこれがなかなか面白いのです。案ずるより産むが易し。4月に赴任してから半年経ちましたが,その間,高等部で行った活動を少し紹介します。

1 高等部2年生「あざみ班」でのMAP

本校高等部の課題別生活学習という授業では,家庭・地域・職業という3つの生活について班別で学習しています。私が担当している「あざみ班」は卒業後に一般就労を目指している生徒の班で,言葉での意思疎通がとれる生徒たちの集団です。

先生との関係は比較的上うまくつくれる生徒でも,対等な友人関係をつくるのは難しいようで,4月当初はいろいろ困った状況が見られました。その様子から,この班のグループとしての指導目標を「仲よく協力し合い積極的に学び合うあざみ班」として,そこに向けてMAPを活用した授業を始めました。

【ビーイングを兼ねた学習記録の模造紙】

模造紙の真ん中に,あざみ班の目標が二つ書いてあります。その周りに学習したことを記録していきます。たとえば,失敗した人には「ドンマイ」と声をかけるとか,話し合いでは全員が意見を出すなどということを学習したら,その模造紙に書いていきます。この模造紙は授業の時に必ず掲示しておき,次に同じような出来事が起こったときに,それを見て前の学習を思い出せるようにしてあります。体験学習サイクルが回るように意識しているのです。

学習記録の模造紙(1) 学習記録の模造紙(2)

【アクティビティ】

授業の中でMAPのアクティビティをよく活用します。新しいアクティビティを行うときは,活動内容やルールの理解にやや時間がかかりますが,一度理解すれば,あとは楽しく活動できます。生徒たちはMAPの活動をとても楽しみにしています。アクティビティは,その時間の学習内容に関連づけたり,あざみ班の目標である「協力」と関連づけたりして選んでいます。

○キャッチ

「キャッチ」の声にあわせて,左手で隣の人の指をつかまえ,右手はつかまえられないように逃げます。「キャッチ」以外の言葉で動いてはいけません。生徒に言わせると「キャノン」とか「キャンディー」など,ハズレの言葉のオンパレードに。

○前後左右

円になって手をつなぎます。「前」「後ろ」というかけ声にあわせて,みんなでジャンプして移動します。「右」「左」で文字通り右往左往して大笑い。

○サークルラインナップ

「誕生日順」「背の高さ」などのお題の順番に並び替えます。いつもあまりしゃべらない生徒も,周りの生徒から「誕生日いつ?」と聞かれて一生懸命返事をしています。

○みんなの宝箱

みんなで協力して解くクイズです。断片的な情報カードを見ながら,会話だけでクイズを解きます。一人一人の発言が,問題を解く大事な鍵になります。前回のMAP通信で紹介されている「さまざまな職業 ~いろいろな人が住むマンション~」と似たような活動です。資料を添付しましたので,ご覧ください。→資料:クイズ宝箱

○変装ゲーム

二つのチームに分かれて,相手チームの変装を見破ります。変装するチームは腕時計をとったり,名札を交換したりしてちょっとした変装をします。全部で5カ所の変装箇所を見破ればOK。友人関係の学習で,友達のちょっとした変化(髪型,髪飾りなど)に興味を持とうという話の中で行った活動ですが,かなり盛り上がりました。

2 学年レクリエーションでのMAP

 先日,学年レクリエーションという時間があり,その中で二つの活動をしました。「あざみ班」での授業とは違って,障害の程度がさまざまな生徒たちが一緒に活動できるように,ちょっとした工夫が必要です。

○チーム対抗しっぽとり

3〜4人で縦に並んで前の人の肩に手を置き,最後尾の人がしっぽをつけます。蛇のように連なった状態でのしっぽ取りです。盛り上がってくると,平面騎馬戦のような雰囲気も漂います。3人連なる動きなので,スピードが適当に制限されます。2回目は3人が並ぶ順番を変えたりして工夫するチームも出てきて,そのチームは最後まで生き残りました。

○走ってパズル

16分割された絵の断片(ピース)を各クラス一人ずつ順番に走って集めて,クラス全員で協力して並べ直して1つの大きな絵をつくるという活動です。担任の先生がピースを持って折り返し点に立っていると,そこまで走っていくというのがどの生徒にも分かりやすいです。また,パソコンのプリンターにA4の絵を400%に拡大する機能があると,16分割の絵の断片がすぐにできあがります。

3 養護学校でMAPを実践してみて

4月当初は,仲間意識の乏しかった「あざみ班」の生徒たちですが,MAPの活動などをとおして仲間同士助け合ったり,一緒に楽しむ場面が増えてきました。

また,しっぽとりは5月の学年レクリエーションでも行っていて,そのときは普通に全員がしっぽをつけるルールでしたが,今回は3人1組にしました。そうすると,1人では取られるだけで終わってしまう生徒も一緒に参加できて楽しいだけでなく,互いの助け合いや作戦を練るといった要素が生まれてくるのです。こういうMAPの魅力を学年の先生方にも感じてもらえたようです。学年レクリエーション後の先生方の感想を紹介します。

この半年間,養護学校の生徒たちと活動してみて,養護学校でもMAPを活用していろんなことができるということを実感しました。MAPの活動に楽しく取り組んで,着実に成長してくれる生徒たちとの授業を,私もまた楽しんでいます。


この文章は,宮城県の教育広報Web版「PLANET」第7号(2007.10.19発行)に掲載されました。