そのメールを送ってから、ぱったりと芽衣からの連絡はなくなった。
…すごく寂しくなった。
そんなつもりで正直な気持ちを話したわけじゃないのに。
確かに重いって、そう言ったけど、だけどそれがうれしくないわけじゃないんだよ。
ただ、今のオレじゃ受け止められないって、そう思っただけ。
だけど…メールを送って、やっぱり後悔した。
ちょっと考えればわかるはずだった。芽衣がどんな子なのか。
こんなにオレを慕ってくれて、まっすぐ向かってくれて、オレだけを見てくれてたのに。
不安になったからって他の誰かを頼ったりしないで、
いつだってオレを向いていてくれてる。
どんなに不安定なときでも、「オレだけ」って感じさせてくれる芽衣に、
これ以上オレは、何を望むんだろう。
何度も頭の中でリピートする芽衣の声。
ほんと、『気持ちには波がある』んだね。
そして6月になった。オレたちがギクシャクし始めて、もう二ヶ月。
どんなに悩んでも、ちゃんと時間はすぎてく。
毎日毎日雨が降った。すごく長い時間芽衣に連絡してない気がしたけど、
実はまだ二週間しか経ってなかったことに気づいた。
時間の流れの遅さに、芽衣を想う気持ちが募ってくのがわかった。
大事に大事に紡いだ糸は、思いがけない力で簡単に切れてしまった。
思っていたよりもそれはすごく弱くて…。短い時間。ほんの一瞬で。
芽衣へ電話するのが怖くて、メールすらできないでいた。
もちろん芽衣からも何もない。
芽衣は今、何を考えているんだろう。
誕生日すらお祝いしてあげられなかったな。
今年の誕生日は地方にいて、電話でちょっと話しただけ。
余裕ができたら二人で何かできるだろうって思ってたから。
…こんなふうになるなんて思ってなかった。
時間ってどうしたって戻ってこないんだな。
「そのときにしかできないこと」って認識するの、なんでこんなに遅かったんだろう。
いつだってそう。無くしたものほどイトオシクなる。
…芽衣も?いやだ!無くしたくない!
オレは勇気をだして芽衣の携帯に電話した。
プーッ プーッ プーッ プーッ プーッ
…話し中?こんな夜中に?だってもう1時すぎだぞ?
だけど10分経っても30分経っても1時間経っても、
芽衣にはつながらなかった。
かけてもかけてもオレが聞くのは通話中の音。
そして電話はかかってこなかった。携帯を握ったまま、夜が明けた。
眠れたかどうかもわからないくらい意識がはっきりしていないんだけど…
芽衣からは何の反応もなかった。
そう言えばずぅっと前に友達が言ってたっけ…。
着信拒否って、相手に話し中の音が聞こえるって…。
初夏の日差しは強くて、少し暑いくらいだった。
その夜はイヤな汗をかいた。
何事もなかったかのように朝はやってきて、いつものように学校へ行く準備をする。
いつもの電車に乗って、授業を受けて、友達と会って、またなって言って仕事へ向かった。
周りの何人かはきっとオレがおかしいって気づいてただろう。
それでもやらなきゃならないこととして、一つ一つをこなす自分が悲しかった。
こんな気持ちじゃ作り笑いすらできないよ。
「も〜どーしたのッ!さっきから携帯見ちゃため息ばっかり!」
相葉が絡んできた。
オレを元気づけようとする態度が妙にムカついた。
「やめろよぉ。」
「だーって!なんでそんなに元気ないんだよ。また芽衣ちゃん?」
「またって言うな。」
「だって翔くんが凹んでるのって、仕事か芽衣ちゃんかでしょ?」
「なーんか…それだけしかないみたいな言い方。」
「で、どうしたの?」
「別にー。」
「別に、なわけないでしょ。無理に言わなくてもいいけど。」
「…おまえ、携帯拒否られたことある?」
「着信拒否?…ないけど。」
「そっかー…。」
「…されてるの?」
「たぶん。ずっと話し中なんだ。」
「ずっとって…どのくらい?」
「昨日の夜から。」
「そんなに長くかけてたの!?」
「ばーか。1時間でやめたよ。」
「今も?」
「…怖くてかけられない。」
「じゃあ今ならつながるかもしれないじゃん。」
「かけて話し中だったらどーすんだよッ!」
…なんで…。相葉にあたっても仕方ないじゃんか…。
「ごめん…。」
「いや、オレこそ翔くんの気持ち考えて言ってなかった…ごめん。
オレ、かけてあげようか?」
「いいよ。これはオレたちの問題だから。」
本当に悪かったと思ってる。だけど自分じゃどうにもならない歯がゆさに、
何にでもあたってしまうんだ。
最悪だよな。自分勝手もいいとこだよ。
芽衣…ホントにオレのこと避けてるの?
あのメールで怒ってるの?
また一人で抱え込んでるの?
こんなふうになるんだったら言わなきゃよかったよ。
あのときの気持ち、少し我慢してたら、
きっと時間がすぎたら、重たいなんて感じてたことも忘れただろう。
もしかしたら余裕のない自分の錯覚だったかもって、笑えてたかもしれない。
突き放したのはオレの方なのに、こんなにも今会いたい。
何してんだろ…オレ…。
そこへスタッフの人が、ファンクラブに届いた手紙を持ってきてくれた。
頼れるのはファンの気持ち?申し訳ないな。でもこの気持ちはなかなか消えない。
オレは自分の名前を探して手紙を受け取った。
手紙の山の中に、すぐに見つけられたものがあった。薄い水色の封筒。見慣れた字。
たくさんの手紙の中からそれをすぐに見つけられたのは、
まだ芽衣のことあきめるのは早すぎるよって、神様が教えてくれた証拠。
そうだろ?芽衣。